第10話 寝る
「灰色だったような」
「灰色、ということはウェアウルフをお兄ちゃんが一人で倒したのか!」
「あ、ああ、そうだよ」
ルーは目をキラキラさせている。あの犬の顔をした獣は二足歩行だったが人間ではないことぐらい俺でもわかるが、この別世界においてどのような位置付かまでは知らない。あれはウェアウルフというのか。
「お兄ちゃん、それは凄い奴なんだぞ」
「倒したのは事実だが、俺が隙を狙っただけで運が良かっただけさ。そんな大袈裟な」
「いやいや、そいつらはここら一帯を縄張りとする強敵なんだ」
「そうなのか、そういえばこの街に来るまでにそいつらの小さな拠点を襲撃して、こんなのを手に入れたんだが何かわかるか?」
俺は本や服を取りだした。あと、袋に入っていた謎の丸い玉だ。
「これは服だな。女性と男性の衣類だ。凄いな、こういう生地もあるのか、見たこと無いな。へぇー、サラサラしていて気持ちいいな」
「たくさんあるから、ルーにやるよ。女性ものを俺が持っていても、役に立たないしな」
「いいのか!」
「ああ、ルーが良ければ」
「やったー」
ルーの体のサイズでも合う服はある。使わないよりは使ったほうが良いものだ。
「この本についてなんて書かれているのか分かるか?」
「これは、私にも読めないよ。これ、異世界の言葉だよ」
「え? 異世界ってどういう意味?」
「うーんとね、私もよく知らないんだけど、この世界が融合? した時に何かが起きて別の世界が生まれた? そんなような、そんな話だった気がする。私も詳しくは知らない。だけど、お兄ちゃんが見せてくれたこの本は私が知る限りの文字じゃないよ」
異世界? どういう意味だ? 別世界の言葉ではない? 融合とはどういう意味なんだ。訳がわからん。助けてくれー、艶島! そういう知識はまるで無いんだよ。なんだ、あれか? オーパーツ的な何かという意味なのか。うーん、わからん。
「ルー、そのウィアウルフが持っていた丸い玉なんだけどこれ何だと思う」
「うーん、これはあれだよ。薬だね。回復薬だ」
「回復薬?」
「そう、それを食べると傷とか疲労が回復する筈だよ。薬草の強い匂いがするし、万が一の時に常備しておくと良いかも」
へぇー、これが回復薬か。丸い球体を眺めた。確かに嗅いでみると薬草っぽい香りはする。ルー曰く、毒では無いとのことのようだ。今後、戦闘は避けられないだろうから常備しておくことにしよう。それにルーの会話の中にはやはり人間という言葉は出て来なかった。
本当に人間はいなくなってしまったのか。ルーがこの山と街の外へは出たことが無いということだったので、単純に知らないというだけの可能性も充分に考えられる。いずれ探索を始めれば分かることだろう。そしてこの本だ。現地民であるルーでも読めない本となるとより一層、怪しい。何かの手がかりになればいいのだが。
「ルー、俺は明日この街を出ようと思う」
「え?」
「東にここの街よりも大きな街がありそうで、そこを目指して旅を始めてようと思っている」
「お兄ちゃん、ここにいてよ」
ルーが食べることを止めて、泣きそうになっている。俺も小さい子一人で可哀想と思うが、ここに留まるという選択肢は元々無かった。ビルでルーと遭遇していなかったら、やはり翌日の朝に出発していた。
「それは出来ないんだ。友人を探していてさ。あいつらを探さなきゃいけないんだ」
「どうしても、行っちゃうの?」
「ルー、ごめんね」
ルーはご飯を食べ終わると俺にしがみついてきた。何も言葉を出さなかった。なんとなくだけど、ルーから寂しいという感情が伝わって来た。出会ってそんな時間は経っていないし、間もないけど情が芽生える前に別れた方がいいと俺は判断した。ルーは離れてくれなかったので、食事の片付けを簡単に済ませて、ルーの住処で寝ることにした。




