第11話 降りる
早朝に目が覚めた。昨晩、しがみついていたルーの姿は見えない。俺は支度を整えた。武器を装備し、食料品の確認をいくつかして問題無いと、出掛けようと外に出たら、ルーがいた。
「お兄ちゃん、私も一緒に行くよ」
「ダメだよ、ルー。多分だけど、俺は遠い東の地まで旅をすることになる。ルーはこのままいたほうが……」
「ついて行く!」
「寂しかったんだ。家族も皆死んじゃって独りぼっちでこれからどうして生きていくかわからなくて、毎日祈りを捧げていたら、お兄ちゃんが現れた。これは運命だと思うの」
俺の心に無くなった家族の顔が過る。だけど、俺のわがままに付き合う必要は無い筈だ。ルーの意思を否定出来る根拠や理由も俺には無い。俺の言葉は。
「いいのか、この場所には二度と戻れないかも知れないんだぞ」
「それでもいい。お兄ちゃんとなら」
真っ直ぐな綺麗な目で俺を見る。
「わかった。それじゃ、ルーも支度して一緒に旅をしよう。今日から仲間だ」
ルーの顔がぱぁっと明るくなった。
「よろしくね、お兄ちゃん」
「ああ、よろしくな。ルー」
ルーが支度を始めた。持ち物は少ないようで、時間を掛けずに出て来た。持ち物は武器とリュックサックだ。武器はお爺ちゃんから貰ったのを武器にしているようだ。ルーが保管していた肉や食料は俺の袋へ全て収納した。ルーはその袋を見て驚いたがどういう理屈でそうなっているかは知らないようだ。
「お兄ちゃん行こう」
「ああ」
俺とルーは今日から仲間になった。一人旅よりは二人旅のほうが安全ということは分かっているけども、小さな女の子と一緒に旅をするにしても俺がしっかり守らなきゃと思った。鬼だろうが、何の種族だろうが、子どもを守るのが男の務めだと思っているし、もう家族を失いたくないという気持ちが一番大きいのが理由だ。
東の地に向けて俺たちは歩き始めた。とりあえず、目の前にある山を越えなくてはいけない。あのビルから見た景色だといくつかの山を越える必要はある。長丁場だ。到着するまで時間が掛かるのはどうしようもない。ルーはヒョイヒョイと軽い足取りで岩が剥き出しになった山道を登っていく。
俺には到底あのような芸当はできない。見ているだけで冷や汗が吹き出してきそうだ。ルーに危険じゃないのかと聞いたら、いつもこの調子だと反応が返ってきた。鬼の子とはそういうものなのだろうかと不思議に思いつつも一緒に山の頂上へ向けて歩いた。傾斜がそれなりあり、足を滑らせると命取りということぐらい山登りの素人でも知っている。本来はこんな軽装で山登りをするのは危険だと思うが、装備が足りない中で進むしかない。
しばらく山を蛇行しながら歩き、ようやく頂上へと着いた。
「絶景だな」
「お兄ちゃん、雲が下にあるよ」
「ああ、確か雲海って言うんだっけな。それだけこの山が高い位置にあるってことだ。それにしても、この雲海じゃ下へ行くのは危険か?」
「大丈夫じゃない?」
景色には雲海が広がっているが、別に完全に雲で見えないわけではない。山々の頂がいくつも見える。同じ標高だろう。後ろを見るとビルの上層階部分だけが頭だけ飛び出していた。地図を広げた。
「後ろのビルがこの位置なら、方角はあってそうだな」
「これは地図か?」
「そうだよ、ルー。ウェアウルフから奪った物なんだ」
「東ということはこの大きい建物のマークの地点に行くということなの?」
「そうだよ。もしかしたら、人がいるかも知れないしいないかも知れない。だけど、行って見なくちゃ何も始まらないからね」
「そうだね」
袋から備蓄倉庫からの食料品をルーと俺の分を昼食用として取り出した。乾パンと水だ。パッケージの文字は何語かよくわからないが毒ではないことは自身の体で証明済みだ。となりでルーがむしゃむしゃと乾パンを食べている。俺も乾パンを食べた。乾パンって口の中の水分を全部持っていくけど、癖になる味がするんだよな。ゴミは袋に収納した。
「ルー体力は大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「体調にもし異変があれば無理するなよ。よし、ゆっくり注意して降りるか」




