第55話 新しい事実
「げぇ、人に寄生する生物がいるのか。そうか、そうじゃなきゃこの場合、理屈が通らないもんな」
「お兄ちゃん、ここはあの人たちのためにも倒したほうがいい」
「お嬢の言う通りである。生きたまま意思なく動かされているのは苦痛だろう」
「わかった」
俺は覚悟を決めて、この日、初めて人を殺した。人数はこの百年間の総数に近いと思われる。百万近い人数を四人で手早く処理した。攻撃を仕掛けて来るが、今の俺たちには生きていたその人自身が意思を持って行動していたらそうはいかないが、動かしているのは寄生している何かだ。
それは脳に寄生されていると思われるが外見上ではどこに寄生しているのかはわからない。ただ、極力肉体を傷つけないように首の神経だけを重点に狙い倒した。倒した人々はやはり脳に寄生したらしく、首の神経を切断したらそのまま倒れて動かなかった。百万人という膨大な数の生きた屍と戦闘し終わるのに四時間も掛かった。
「主、寄生していたのはこれかと」
エニが小瓶に収めた緑色のスライムを見せてきた。
「これが、寄生していたのか」
「はい、今、僭越ながらこの寄生スライムは余の支配下に置きました。通称コイツはインフェスティング・ウーズと呼ばれる多数で宿主を侵食する粘液生命体として恐れられている個体です」
「うげぇ、気持ち悪い見た目だな」
「ええ、宿主を人格ごと侵食する能力を保有しております。そして、このスライムは大規模な集団で活動するというもの。そして、寄生している間は不死を与えるという能力があるようです」
「エニ、どうしてそこまで分かるの?」
素朴な疑問を投げかけてみた。エニもだが、恐らくこの未開の地で出会う生物を見るのは皆が初めてだ。エニの回答は明解だった。
「私の支配下の生物として位置付けられたからです」
エニが言うには一度、倒したりするとその生物が持つ縄張りごと支配領域に納めることが可能だということ。凄まじい能力だ。つまり、地図を確認するとスライムの行動範囲全域にマップが更新されていた。
これは今後、獣を優先的にエニに倒すことを優先させていれば、未開地の攻略は楽勝では無いかと思ったが、どうやらそうは簡単にはいかないらしい。エニよりも格上の存在が対峙したときに仮に倒せたとしても敵が屈しないまたは拒絶しない場合にはエニの支配領域下に加えることは難しいとのこと。今は、慎重に行動することが最重要のようだ。
「エニ姉ちゃん、このスライムってその私たちが探している王子様のことは知らないのかな」
「今、調べているところよ。ちょっと待っていてね」
俺もルーの言葉を聞きハッとした。こんなに人数がいるんだから、そういう記憶を持っている個体のスライムがいてもおかしくはない筈だ。エニ曰く、しばらく数が数なだけに時間が掛かるとのことで、俺は白錦と相談と了承の上、この死体を全て持ち帰ることにした。
その作業を俺とルーと白錦と三人で白錦が出した収納術の中へ手早く大人数を流れ作業のように放り込んだ。中々の肉体労働をしたが、疲労も汗一つすらかかないのはかなり肉体が仕上がって来たんじゃないかと思い実感があった。ルーも同様の気持ちらしく、これも訓練だと思うと相当な経験値が溜まったんじゃないだろうか。
「主よ、こちらも解析終わりました」
「エニ、ありがとう。それで、どうだった?」
「それが、その王子は生きているようです」
「凄いじゃないか! この地で十年間生き抜いたなんて。あれ? でも、おかしいな。何故、自分の領地へ戻らないんだ?」
「そうなんです。このスライムが保有している寄生していた兵士の人格と記憶を見るに、何者かに連れ去れたということみたいです」
「連れ去れた? 魔獣か?」
「わかりません。ただ、言えることはこの辺りの主であること間違いありません」
「この辺りの主っていうことは、誰かが統治しているっていうこと?」
「そうです。ここには人族と同じく未開地でも地図の内側のように国のような存在としてある可能性があります」
この未開地では事前情報として国らしき情報はアデレイドからは共有されていない。意図して隠していた可能性は? 実は王国や連合諸国はこの地にも国があることを知っていたということか? いや、もしそういう情報があれば些細な情報でも共有されていただろう。
つまり、これは新しい事実だ。




