第54話 寄生
「お兄ちゃん、しっかりして。あれは敵の能力だよ」
「お嬢、見事である」
白錦が半透明の敵と戦闘を開始する。エニは後方で周囲への警戒を強め、各種呪い等も含めて何かの対策を俺たちへ向けて発動しているのを理解した。ルーは俺の警護だ。
「ルー助かった。あれは一体なんだ」
「少なくとも、お兄ちゃんへ精神干渉しようとしたみたい。一種の精神操作だと思う」
「状態異常無効を突破したというのか」
「うん、私も装備が無かったら操作されていたかも知れない」
ルーすらも操作するだと? 今までの敵とは確実に次元が違う。
「俺たちも加勢するわけにはいかなそうだな」
「そう、お兄ちゃんと私は周囲を警戒と後方からの支援に徹する。前線は白錦兄さんで全体の警戒と対策はエニ姉ちゃんが対応する」
「わかった」
半透明の魔獣は実体が無いような体の構造上無理な反撃をしてくるのを認識した。白錦は軽く去なし全て直撃を回避する。決着が着くまでそう時間は掛からなかった。魔獣を両断し、刀の透明な血を払い鞘に収めた。
「白錦、コイツは一体何だ?」
「主君よ、これは我にも分かりかねます。エニの方が詳しいかと」
「白錦、余に振るではない。余とて未開の地での獣は初めてだぞ。それにしても、この獣、実体が無いのか。白錦、よく実体が無い存在を斬れたわね」
「実体が無い程度であれば、我の技であれば造作も無いこと」
「お兄ちゃん、この獣、生きているよ」
「え?」
確かに半透明な獣から呼吸音がした。実体が無い生物がいるということ? だけど、確かに実体は無い。まるで空気だ。木の棒で突こうともすり抜けてしまう。
「白錦、これって素材として持ち帰ることは可能かな」
「うむ、可能である。我が回収しよう」
そう白錦が言うと、半透明の獣へ刃で止めを刺して籠手越しとはいえ両手で収納空間へ収納した。
「どうやって、実体が無いのに持てたんだ?」
「うむ、これは実体が無いがあるのだ。つまり、実体がないが存在している生物と言って良いだろう。それはある種の神獣である」
「そうね、余と同格扱いは気に入らないけれど、こいつの能力というより体質はその撒き散らす状態異常無効すら突破出来る気配と力がその証拠。異常種と言うべきかしら。ただ、それは地図の内側の話。ここは外側。つまり、これは普通の魔獣クラスと変わらないと考えて行動したほうがいいわ」
白錦やエニの言う通りだ。俺もルーの助けが無かったら死んでいたかも知れない。ここが、地図の外側か。最初の獣ですら、種類が違えど強力な個体であることは間違い無い。念のため、エニに状態異常無効を更に強化して貰った。これはエニが持つ神獣としての加護の一種だという。
万が一、エニが死亡した場合には消えてしまう可能性があるということを念を押された。エニがそういうことを言うのは珍しいけれど、この地では何が起きても不思議では無いという理由なんだろう。少し動揺しているが、自力で持ち直した。今までの特訓の成果だ。
「先を急ごう。もう少ししたら、消息を絶った王子の場所まで辿り着ける」
周囲を更に警戒しながら、地図を確認し王子が消息を絶ったであろう場所まで辿り着いた。
「十年前とはいえ、何か痕跡でもあれば」
写影の宝石で撮影した。軽く霧に包まれているが視界が少し遠くまで見通せる。魔法や術で広範囲へ警戒の探知は各々が発動している。アイテムも含まれるのでこの探知を掻い潜りここまで来る場合、強者であることは間違い無い。油断せずに周囲を探索した。
「ルー、何か見つかったか?」
「うーん、何も無いね。食べられちゃったかも知れないね」
「もう十年前だから、それは有り得るね。探索自体はこれで終わりにも出来るけど、王様はそれを望んではいない。俺としてももう少し範囲を広げて探索しようと思うが皆どう思うか率直な意見を聞かせて欲しい」
「私はお兄ちゃんが進む場所にはどこまでも付いていくよ」
「我もお嬢に同意である。元より危険は承知の上で、遅かれ早かれこの地に来るのは確実。事前に情報収集と対策を練るのは避けられないかと」
「余も問題ない。可能であれば、未開地の魔獣を配下に加えたいところ。中々見所があると見えるわ」
「そうだね。それじゃ、探索を続けよう」
俺たちを痕跡を中心にして探索範囲を広げ、探索範囲をする中で奇妙な現象に巻き込まれた。幻惑とか幻覚とか実際こう見えるのだろう。かつての大規模遠征隊が目の前で俺たちへ剣を抜いているのだ。
「あれは幻覚か? 亡霊の類いか」
「主君あれは、実体があります。探知にギリギリまで引っかからないところを見るに何者かに操られている可能性があると」
「あれが? 実体?」
エニが瞬時に魔法を発動させる。死者に効く魔法を放つが効果が無い。つまり、こいつらは生きているのか?
「お前達は遠征隊の方々だな。言葉は話せるか」
返答は無い。操られていることは濃厚か。しかも、生きているということはどういうことだ。
「主よ、あれは寄生されております、ご注意を」




