第53話 ビンタ
「凛城様、我々はここで無事の帰還をお待ちしております。どうか、お気をつけて」
「ありがとうございます」
全員馬車から降りて、大山脈の入り口へ向かう。まるでその木々の様子は大山脈の入り口にしてこの武装国家が建築した要塞の入り口が外から来る何かから人類を守っているようにも見えた。全員が入ると城門の扉が閉まり森だけで一瞬で暗くなった。これは木々が外の光を遮っているからだ。
「よし、皆行くぞ。時間は三日間だ」
「私、地図の外側なんてドキドキするよ」
「お嬢の言う通りである。我も胸が高鳴るである」
「余も楽しくなってきたわ」
全員で周囲を警戒しながら移動を開始。森を瞬く間に駆け抜ける。俺は移動と同時に気脈をコントロールしながら移動している。ルーも同じだ。だからなのかはわからないが、体がとても軽い。白錦が言うには、気脈を通い気の巡りが良くなったことで身体向上が劇的に上がったという証拠らしい。
実際に動くと今までの移動速度とは考えられないくらい早くなったし、疲れも感じなくなった。ルーも同じように体感しているようで、木々を抜けながら移動を続けた。現在で魔獣の気配は無いが、濃い魔力濃度で何かこの地独自の魔獣や王獣がいる可能性は高いとエニが答える。
地上は危険との判断で、上空にある木の枝を渡り移動することにした。速度はより一層増して全員が動く。間もなく、最初の山へ到着する。山頂へ到着し、大山脈を眺め、東の地図の外側へと視線をやる。
「あれが、地図の外側か」
「うむ、異様な気配がするであるな」
「私も感じたことがない。強い気配を感じる」
「余らと同格の存在がいる可能性がありそうね」
遠くに見える地図の外側には地平線まで大地が続いていた。雲海も見える。建築物は無い。俺たちはこの大山脈を抜ける必要がある。この最初に登った山は標高が高いおかげで遠くまで見ることが出来た。
それに、この山一つを登山するだけで十分程度だ。これなら、二時間以内には敵と遭遇したとしても余裕で抜けられそうだと計算する。直ぐに移動を開始し、残りの山脈を警戒しながら進む。一時間経過したところで残りの山脈は残り僅かとなった。
「間もなく、地図の外側だ。ここまで獣との遭遇は無い。これについて、皆の意見が聞きたい」
「私は魔力濃度が濃くなって来ているのが気になるかな。お兄ちゃん、も感じ無い? 魔力が見えるようになっているの」
「あ、本当だ。これが魔力か」
キラキラした霧とは異なるものが大気中に漂っていた。確かにそのどれもが高濃度の魔力を含んでいた。
「我の警戒網で探知出来た存在は皆無である。警戒していた呪いの類いも感じ無い。問題は大山脈ではなく、やはり地図の外側か」
「白錦の言う通り、余も呪いの類いすらも警戒していたが何も感じ無い。余が思うにこの異常とも言える魔力濃度が地図の外側から人族らを守っていると見ている」
「この濃い魔力が、人族らを守っている?」
「そう、この魔力にはある種の結界と同じ効果を余には感じるのだ。恐らく、この木や草も全てが結界の役割を果たしている可能性が高いと余は思っている」
「うむ、エニの言うその線が妥当であるな」
「私は遺跡と同じ匂いがすると思う」
「遺跡と同じか、それは有り得ますね」
「そしたら、この大山脈を抜けた先が本番というわけだ。装備は大丈夫か」
全員から問題無いと返答が返ってきた。
「よし、では王様のご子息の救出へと向かうよ」
残りの山脈を突破し、濃い霧のような濃密な魔力を抜け移動して、地図の外側へと到着した。ここまで一時間半経過。出発してこの速度であれば、上出来だ。アデレイドから渡された地図には早速マップに俺たちの位置が点滅している。この様子はアデレイド側も確認していることだろう。
そして、ご子息が消息を絶った場所まではここから間もない場所だ。原生林が生い茂っている。聞き覚えもない動物の声が聞こえるようになった。やはり、あの山脈が自然の壁として役割を担っていたことの証明だろう。空気も大気中に漂う匂いも変化した。
「お兄ちゃん、危ない!」
ルーが俺を抱えて何かを回避した。一瞬何が起きたのか分からなかったが、それは目視ではっきりと捉えた。
「な、なんだ、あれ?」
半透明の怪物が笑みを浮かべていた。いままで出会った魔獣や王獣とも桁が違う。強さとかそういう問題じゃない。生物として根本から何かが違うと脳に電気が走るように理解しようとした瞬間に、頬に痛みが走った。ルーが俺をビンタしたのだ。




