第49話 頑張れ俺
「うむ、凛城殿の噂はこの国の王である余の耳にも入って来ておる。さて、冒険者ギルド経由で話を聞いてはいるが、本当に王獣を倒したのか」
「その通りでございます」
「そうか。実力は折紙付きという訳か。余は凛城殿たちに興味がある」
「僭越ながら、どのようなご興味でしょうか」
「そうだな。あの忌み地から来たということだ」
「はい、私たちは確かに忌み地より来ました。何か不審な点でもございましたでしょうか」
「無いといえば嘘になるな。ある、まずあの南方の地は巡礼地方と呼ばれ、長きに渡り各国間でも不可侵の地とし禁足地と盟約されておる。そして、そこへ最後に調査が入ったのは数世紀前、その時点では人や亜人もいないと記されていたが、こうして、凛城殿たちはこうして、その禁足地より来ている。さて、その巡礼地方には人または亜人種が生存しているか生息しているのか」
「いえ、私が知る限りだとこの仲間だけです」
「そうか、何れにせよ。南方の山脈を人族では渡ることは至難だ。人的資材と投資して得られるのはその人がいるかいないかの有無だけ。かつての文明だと思われる遺跡には忌み人が生息していると伝記されておるしな、凛城殿はどこの国の出身かな」
「わかりません。気付いたら遺跡近くで目覚めたのです」
「ふむ」
「お前ら王の前で虚偽は許さんぞ」
兵士が俺に語気を強めて発してきたが、嘘は言っていない。真実だ。仮に日本という国ですとか、答えたら逆に混乱か怪しい目で要らぬ疑いを招く必要があるし、脳汗を振り絞りながら全力で王への言葉へ集中する。
「嘘は言っておりません。必要であれば、魔法なり何なりと検査してもらっても構いません」
「凛城、お主らは誠に人か?」
「わかりません。ですが、私たちにそのような気配を感じますでしょうか」
「いや、感じんな。それよりも高貴な気配がする、王の資質とでも言えようか」
「王の資質?」
「そう、王の資質だ。凛城殿にはその資質があるだろう。人であれば国を興せたのかも知れぬな」
いやいや、俺は一般人なんですって、王の資質とか急に言われても困るって。
「ご冗談を。私はそのようなのは性格には向いておりません」
「ふふ、余の目を疑うか」
しまった! どうする。どうすればいい。
「いえ、王様の目は疑いようもありません。ただ、私は未熟故にまだまだ修行が必要だと思うのです」
「それは良い心がけでだな。さて、本題に移ろうか」
「本題とは」
「そう、地図の外側へ行きたいと申しておるそうだな」
「そうです」
「余の願いを聞いてはくれまいか」
「願い? どのような願いでしょうか」
「うむ、十年前に地図の外側へ探索しに行った三男がおってな。名をジュリアン・ヴェスペル・ル・グラン・ソレイユという。王位継承からは外れておるが故に大師団を率いて征ったのだ。その息子を生きていれば保護を、もしそうでなければ遺体またはその確認をして欲しい。褒美なら望むものをやろう」
俺は言葉に詰まった。エニや皆と事前に打ち合わせしていた内容と大きく異なるからだ。息子の回収が理由か。後ろにいる仲間からは回答は無い。俺に従うという意味だろう。
「わかりました。その命を承りました。それでは、正確な現在の地図と遠征したとされる方角を教えて頂けますか」
「良いのか、本当に受けてくれるのか」
王の声には歓喜の声が震えながらも込められていた。
「もちろんです。ですが、私たちも地図の外側へは初めての征く場所となりますので無事に戻られる保証とご子息を確認して回収出来るかという保証が立てられませんがよろしいでしょうか」
「それは仕方がないことだ。本来であれば、余の配下から一緒に同伴させるのが定石ではあるが、地図の外側に関しては凛城殿の足手まといに成る可能性が極めて高いであろう」
王が手で合図をすると兵士が宝石を持って来た。
「これは?」
「写影の宝石と呼ばれるものだ。それで、記録して来て欲しい」
「承知いたしました」
こういう魔道具もあるのか、この記録はきっと王にとっても、国にとっても財産になることだろう。そして、褒美は望むままと来ている。その内容については皆と相談だ。王様からの命令はそれだけだった。
俺たちは何かしらの国の権力争いに巻き込まれる可能性を警戒していたが、王からはその発言は無かった。だけど、他からはそういう接触は充分に考えられることは馬車の中で入念に皆と話し合っている。
王様との謁見が終わると兵士に連れられて別室へと案内された。そこには若い学者がおり、地図が置かれていた。兵士曰く、これが最新の地図とのことだ。陸地には十カ国の国があった。
海もあるようで、海洋都市というのが北西にあり、この現在の王都はひしめく陸続きの国同士で一番南に位置するようだ。国土は広いが、これは世界の一端でしか無いことを学者も知っているようで丁寧に教えてくれた。
「この地図は頂けるのでしょうか」
「もちろんです」
若い学者がそう笑顔で答える。
「それで、そのご子息が向かわれたという地図の外というのは東のでしょうか」
「その通りです。東側のこの地で最後の通信と記録が途絶えております。今から丁度十年前となります」
地図には、地図の端に巡礼地方と書かれており、白錦とルーと出会った遺跡の絵が描かれていた。そうか、あのまま白錦と北へ向かわずに南へ出向いていたら地図の外側だったのかと当時の判断が正しいと胸をなで下ろした。
あの時の俺たちじゃ多分、装備云々じゃなくて実力で俺が死んでいた可能性が高い、いや確実に死んでいるだろう。少しゾッとした感覚に襲われたが、皆も地図を見ているので学者の話に耳を傾けていた。この王都を囲むように北には帝都、西には王国、東には武装国家と書かれていた。
「あの地図の外側へ行くには、どの国を経由して行けば良いのでしょうか」
「はい、現在、連合国で調整しており、最短ルートで向かう手筈を整えている最中でございます」
「わかりました。俺たちも未開の地へ向かうに当たって準備をしたいので、お店を紹介していただけないでしょうか」
「いえ、王より必要な物は全て国が用意すると王令が下されておりますので、何なりと私めでも近くにいる者へ声を掛けていただけば準備いたしますので」
「そんな、そんな。実際に俺たちも実物を見てみたいんです。そうですね、可能であれば一流の職人や魔道具や書店等を教えて頂ければと」
「承知いたしました。では、私では王城でご用意ができるものを見繕うとしましょう」
「ありがとうございます」
それから、王城が記録する開示出来る範囲内での地図の外側についての情報を教えて貰った。この国が連合国を組んで地図の外へ出向くのはこれで十度目。十年に一度のペースで向かっているようだ。
それより以前の記録はあるが、戦争や火災なので紛失したものも多いようだ。どの世界でも戦争はあるのかと思うのはどうしようも無いのか。今回は、連合国の承認を経て地図の外への審査を既に開始しており、間もなく承認されるとのこと。
きっと、俺たちを呼んだ時点で審査が始まっていたのかも知れないな。今日は王城内で泊まることとなり、晩餐会に招待されていると聞いて胃が痛くなった。頑張れ俺。




