第34話 表情と視線
「二人とも俺なら大丈夫だ。あの山での経験をここで活かすには持ってこいじゃないか」
恐怖で少し口が震えていたが、二人とも俺を笑わなかった。
「お兄ちゃん、アイツ、白錦兄さんと戦闘中も手加減をしていた。今までの魔獣とは本当に別格だよ。倒すなら三人で戦うしかない」
「うむ、お嬢の言う通りである。エニとか言う魔獣聞いたことも無いが、王を名乗るだけの力を有していることは必然」
「どけ、虫ども。余は凛城と話をしている」
「おい、今、お前、俺の仲間を虫呼ばわりしたか!」
「ああ、その通りだ」
「お兄ちゃん、アイツの安い挑発に乗っちゃダメ!」
「そうである!」
二人とも俺のために必死で制止してくれる。だけど、大事な仲間で家族であることを虫呼ばわりは許せない。
「大丈夫、コイツは俺と力試しをしたいらしい。俺も今の実力を推し量るには良い実戦だ。だから、二人とも下がっていて」
先程の恐怖はもう無い。あるのは、コイツを倒すことだけに集中している。ただ、それだけだ。
「わかったよ、お兄ちゃん。だけど、危険だと感じたら直ぐに加勢するからね」
「我も同意である」
「二人ともありがとう」
「虫どもとの会話は終えたか?」
「ああ、獣。俺が相手だ」
場の空気が濃い殺意で満ちる。森が怯え恐怖で支配されていく。この獣は今まであったどんな魔獣よりも桁や格の次元が異なる化け物だ。それだけは間違い無い。コイツは俺の力量を測りたいのだろうが、加減はしなさそうだ。刀を抜き構える。
「来い」
獣の合図に俺が瞬時に間合いを詰めて攻撃をする。先程の白錦の戦闘を見ていて良かったと思う。実際に閃光というのは間違いなく光の速さだ。同時に四方八方から攻撃が飛んで来た。不思議と全ての攻撃を回避し、攻撃を相殺し、受け流し、冷静に相手の戦闘を学習する。頭の中に相手の攻撃を受ける度にスラスラと体験に刻まれていく。動きが次第に良くなる。
〈|星崩の雷《ライトニング・オブ・ザ・フォーリング・スターズ》〉
巨大な雷撃が森中を直撃する。全身が痛いが、このマントのおかげでダメージが軽減されているようだ。
「これならどうかな」
〈星連なる閃光の開放〉
ゾワッと全身に強烈な鳥肌と汗が噴き出した。エニが咆哮する巨大な口から放つ一撃は危険を遙かに超えている。この人里近くで放っていい攻撃では無い。しかも、光を回避は不可能。そして、攻撃の延長線上には街がある。この一撃が街へ直撃すれば街ごと消し飛ばしてしまうかも知れない。
これは、力試しではない。明らかに雌雄を決する命懸けの戦闘だ。昨晩、白錦は俺も進化していると話をしてくれた。それに賭けるしかない。せめて、街の被害回避と二人の命だけでも助かれば御の字というところ。
「うおおォォおぉッ!!」
生まれて二度目の死を感じる。最初はあの日、世界が一変した最後の学校。そして、目の前にある虹彩を放つ死の光。そして、放たれた。光が爆散した。視界が晴れる。何が起きたか理解するのに時間が掛かった。
多分この時間は一秒よりも遙かに短い刹那の時間。俺が右手で咆哮を弾けさせたようだ。理屈や道理も原理すら分からない。無我夢中とはこのことだ。全身が軽く感じる。そして、両手で刀を握り、エニを両断した。
「み、見事……」
どさり、と焦げた大地に獣が崩れた。エニという獣は左半身が完全に両断されているが息はある。二人を確認する。ルーと白錦の無事を確認した。こちらへ近寄って来て、ルーが俺に抱きついて来た。
「お兄ちゃん、無事で良かった。本当に良かった」
「主君、見事な戦闘でした。あの攻撃を片手で去なすとは目を疑いましたぞ」
「それは俺にも分からないんだ。無我夢中で体が勝ってに動いたんだよ」
「やはり、主君は。いや、それよりも、このエニとかいう獣をどういたすか」
何か白錦が言いたそうだったが、その話は後だ。
「そうだな、おい。エニ、俺との力試しの結果はどうだったか」
エニの目がこちらを虚ろな表情と視線で捉えた。




