第20話 出発前日
「う、美味い! 久しぶりの肉と野菜の味。これ程、美味とは!」
「白錦、大袈裟だなぁー。味付けの香辛料と香草はルーが採集してくれたんだよ」
「私、凄いでしょ!」
「お嬢、流石です。巨獣の肉をここまで臭みなくすることなんて」
感動しながら白錦もモリモリ食べ始めた。とても美味しそうに食べていく。三人でご飯を食べながら料理の話やルーの話。俺がルーと出会うまでの話をとかを一通りした。そんな話をしていたら、あっという間に料理を完食し、俺も含めて全員満腹で幸せになった。食べ終えて、食器を片付けた。
「よし、今後の作戦会議をしようか」
二人が返事をする。テーブルに地図を広げた。
「ほぅ、これは詳細な地図だな。これは主君が?」
「そうだよ。ウェアウルフを倒して奪ったものなんだ」
「そうであったか。して」
「この地図にマルが付いているだろう。俺はここでこの地図を拾ったんだ。そして、現在地はここ」
都市の絵らしきマークを指さす。
「この地図は見ての通り、西への情報は圧倒的に足りない。だから、東に絵がある情報を頼りにこの都市まで来たというわけだ。白錦はこの辺りの周辺地理に詳しいか?」
「うむ、我の記憶にある地理とは異なっているが、それは自然で変化した結果だろう。確か、北には国がある筈だ。そう、この絵が書かれているところだ」
白錦が指さす先には文字と絵が描かれていた。
「これの絵が国?」
「そう、当時は家鈴領が統治していたが、この文字に書かれているのはオルブライト領と記載されているな」
「白錦、地図の文字が読めるのか」
「ああ、多少。我が知っている言語から遠のいているが読めるし理解も出来る。この地図は大陸の一部を切り取った地図だ。恐らく、行商人をウェアウルフは襲ったのだろう。だから、地図が偏っているのだ。もしかしたら、東の地へ行商をするつもりだったのか、またはこの地図自体が商品だった可能性は充分に考えられる」
「なるほど」
白錦の言う通りだ。この地図は世界地図ではない。周辺地域を詳細に記した地図というものだ。様々な文字が他にも書いてある。話に聞けばその文字の意味は危険度だったり、統治領の名前だったり、地名や川の名前。そして、この地方の名前でもあった。この地方の名前はピルグリミッジ・サイトと呼ばれる巡礼地方と呼ぶらしい。白錦が言うには都市は世界各地に点在しているとのこと。そこには白錦のような遺跡を守る守護者がいるかどうかまではわからないが、否定はできないという。
「今後の方向性を決める上で、俺はこの世界に住む住人がいる街や都市に行きたいと思っている。危険は承知だ。白錦が言う通り、俺は賓客のようだ。だけど、この世界に友人がいるかも知れないから、彼奴らを探したいと思っている。付き合ってくれないだろうか」
「私はお兄ちゃんを守るよ」
「我もお嬢に同意をする。主君は賓客が故に思わぬトラブルに巻き込まれる可能性は充分にある。これを渡しておこう」
白錦が空間から仮面を取り出した。黒い顔を隠す仮面だ。目と口元は空いている。
「これは?」
「それは、隠遁術で拵えた一品である。それを着用しておれば無用な詮索と賓客ということを防ぐであろう」
「白錦、ありがとう」
「主君に仕えるのが我の幸せ、そして、お嬢にもこれを渡しておこう」
ルーにも装備を渡した。これはかつて女性用の鎧だというが、鎧というより着物だ。材質は金属製の鎧を軽く凌げるとのこと。人の街に行くのであれば、着用している身一つで位が分かるという。俺にはマントと装備一式を渡した。黒いマントだが、艶があり品格を漂わせている。白錦自体も守護者としての鎧というよりも、武者としての装備に切り替えた。ルーと同じ着物の一種だろう。材質も同様、硬度はかなり高いらしい。
「これで道中の旅は、この装いはこれでいいだろう」
「重たくないね」
「ある種の術で編み込まれておるからな。どうだ、お嬢は」
「うん、動きやすいよ。ありがとう、白錦」
「うむ。我も人が集まるところに行くのは悠久の時以来だからの。一応はそれなりの身分に見える筈だ」
白錦の言う通り、身なりはしっかりしておいたほうが良さそうだ。戦闘になる可能性は否定できないが、この世界において、俺のような人間という種族はいなく、人という種族になるようだ。人間とは賓客であり最も希少性が高い存在とされているとのこと。
白錦が言うにはかなりの大昔に賓客が現れたそうだ。それからの歴史についてはあの場所にずっと鎮座していたため不明とのこと。つまり、悠久の時という白錦が外の世界との情報には空白の期間があるということだ。もしかしたら、躑躅森や艶島たちがいるかも知れないし、現代世界から俺のように賓客として現れた可能性は充分に考えられる。希望はある。
「よし、準備は整った。明日にはこの都市を出発しようと思うが、皆はいいか?」
「うん、私も大丈夫だよ」
「うむ、我も問題無い」
「よし、それじゃ、必要な準備を整えて早朝に出発だ」




