第2話 死
俺は目を覚ました。風景が違う。
「ここは学校では無い? いや、物理的に校舎から森の中って無理があるだろう」
気配がしたので、息を潜める。周囲は見慣れない森で視界を塞いでいる。持ち物は何も無い。ポケットに入っているスマホも無い。全身を確認するが制服には破れも体に怪我も無かった。何にせよ、俺自身が冷静でいながらとても混乱しているのは事実だ。確か、最後の光景は躑躅森と艶島の顔を見た後に視界が真っ黒になった。
そう、直後、あの黒い球体に飲み込まれたんだろうと俺は思っている。つまり、この現象はあの黒い球体の中ということになるのか?
いや、それはもう少し考える余地があるだろう。その最後に艶島が教えてくれた世界の各地で起きている現象も同様に俺が今いる世界へと飛ばされたという可能性は考えられないかと思うが確証は持てない。
今の俺には調べる道具も無いのだから。周囲の木々がガサガサと音が鳴る。何かがいることは確かだ。足下に落ちていた折れた木を持った。突くまたは叩くかすることしか出来ないが今はどうしようも無い。
即席の木の槍を構える。木々がガサガサと揺れ、手前まで来る。そして、何かが飛び出してきた。その飛び出して来たところを木で突いた。グェという悲鳴が聞こえた。飛び出して来たのは、一メートル程度の化け物だった。
「なんだこれ? 獣?」
獣らしきものの心臓付近を木が刺し込まれている。息はしていない。顔は犬のような顔をしている。全身の灰色の毛並みはゴワゴワしており、体には装備をつけていた。剣と袋や装備が揃っていた。
「これはいいな。助かるぜ」
装備を丁寧に剥ぎ取り、中身をチェックした。袋の中には食料品なのか、薬なのか分からない丸い玉が入っていた。匂いが薬のような香りがするが口に入れるかというと今は止めておいたほうがいいだろう。それよりも、武器が手に入ったのはありがたい。剣を生まれて初めて持つが結構ずっしりして重い。扱いに慣れるまで時間が掛かりそうだ。
「というか、ここは、どこなんだ? 躑躅森や艶島、クラスメイトの皆も俺が今いる空の下にいるのか?」
お腹の虫が鳴く。腹が減った。朝飯は自分で作って食べたのを記憶している。そして、この空は朝のような空だ。時刻はわからない。もしかしたら、一晩中寝ていた可能性もある。腹が鳴るということはそういうことだ。だが、飯は無い。この獣を食うか? いやないない。少なくとも食べるにしても火は最低限必要だ。食あたりなんて起こしたら目も当てられない。今は命を大優先に考えるべきだろう。だが、飯は必要だ。
「しょうがない。獣の解体は狩猟動画で観てはいるが、これもジビエ猟と思えばいいか」
獣の肉を解体動画を、思い出しながら解体した。とりあえず、肉をいくつか手に入れた。解体した肉は獣が持っていた別の袋へ入れた。結構な量を入れたが見た目は変わらなかった。解体に関しては見よう見まねだが、上手くいったのではないだろうか。他の内臓や肉は本来深く埋める必要があるのだが、スコップが無く、剣で一応掘ろうとしたが上手くいかず放置することにした。
なので、一刻も早く退散すること。他の獣たちが集まるのは分が悪い。今回倒せたのはたまたまだ。帰宅部の俺に実戦で次もあると思うほど頭はおかしくない。剣を腰に差して行動を開始。まずは探索だ。
「森を抜ければ大分楽だと思うんだが」
歩きながら、今後のことを考えた。俺には家族はいない。両親と兄弟は相手からのもらい交通事故で小学生の時死んだ。俺はたまたま乗っていなかったから今こうして生きている。当時、親戚らしい親戚はいないが遠い親戚の人が手助けしてくれて高校生から一人暮らしを始めるようになった。
色々苦しいこともあったが、今となっては俺の心の中には両親や兄弟もいると信じているので寂しさはない。生きていれば色々あると動画では言われているが、本当にそうだなと思う。今の意味不明な状況もあの時、家族を失った時と比べれば大した絶望は感じない。むしろ、生きることだけに今は集中している。
「学校や皆どうなったのか、皆俺のように無事だといいんだけど。ん? あれは何だ? 煙?」
森の茂みに隠れて煙りが見える方向へと静かに歩いた。森が燃えているという線も考えて慎重に進んだ。もし、森が燃えていた場合には、今の俺では手遅れだろう。だが、もし、俺と同じ境遇の誰かがいるか、この森に住む誰かがいるのであればコンタクトは取りたいと思う。
「見えた。川の近くに獣か?」
獣がいた。どうやら、川があったことは水源を確保する上では必要だ。そして、テントに焚き火をしているようだ。ここがコイツらの拠点なのか? だが、あのさっき倒したやつと同じ種族だろう、獣が三匹いる。あれらを全員倒せるか?
いや、非力な俺では無理だろうな。しかし、迂回するのも危険だ。他に何がいるかわからないまま、この深い森で一晩過ごすことなると、それはまた違う危険になる。俺に残された選択肢は一つしかない。あの獣らを倒すしか無い。いつ倒すか。夜か今か。確か、犬は夜行性のはず、ならば今だ。剣を抜き、静かに森の中から様子を見る。手には汗が緊張で滲むよう。
「あの一匹が後ろを向いたら、今だ」
静かに獣へ迫る。直後、獣がこちらへ振り向いた瞬間に頭を突き刺す。そのまま、一匹を倒し体で受け止めてゆっくり地面へ降ろした。そして、二匹目へと背後から剣を刺した。今度は頭ではなく、心臓付近を目掛けて剣へ力を込めて貫通させる。急所を外したか、獣がこちらへ体を捻り体勢を立て直そうとするが、突き刺した剣をそのまま頭部へと斬り上げて裂いた。
ドチャリと倒れる音がした瞬間に残り一匹が異常にようやく気付く。ここまで気付かれなかったのは奇跡だと思っている。普通に考えたら嗅覚や音で気付く筈だが、この獣はそう反応しなかった。つまり、俺が知っている知識と異なる可能性があるということだ。嗅覚や聴覚でもなく視覚頼りにしていることが考えられるかも知れないと仮説を立てた。
一匹の獣が剣を構えて迫って来る。こちらは、剣を抜き、同時に獣の内部へ手を入れて心臓を掴み引き抜いた。本来、内臓は丁寧に扱うべきなのだが、現状は緊急事態だ。使えるものは何でも周囲の物を使わなければあっけなく死んでしまう。




