第1話 最後
何気ないいつも通りの日常だ。俺は家を出て学校へ向かう。道路には行き交う車と歩道に往来する学生の姿。制服は俺と同じ高校のもの。空を見上げると群青色の空が高く吹き抜けて空の奥行きを感じた。風はぬるい。暑くも無ければ寒くもないというところだ。
「よっ、凛城」
「びっくりした。なんだ躑躅森か」
後ろから抱きつくように肩を回してきたのは、俺がいるクラスの友人の躑躅森宮高だ。長身で茶髪のメガネ男子という属性を纏いしイケメンである。俺とは幼馴染みで小学生時代からの長い付き合いになる。
俺は凛城廻というごくごく普通の高校生。イケメンやブサメンでもなくフツメンと自負している。イケメンやブサメンも両方とも人気があるのだ。
イケメンはルックスで、ブサメンは知識で圧倒してくる。そして、俺はどちらにも属さないフツメンというその中間にいる。安全地帯と言っても良いだろう。
「なんだよってなんだよ。朝からつれないなぁー。今日さ、放課後駅前に新しくできたハンバーガーショップに行こうぜ」
「ハンバーガー? 駅前にそんなのあったけか?」
「あーるんだよ。しかも、先週オープンしたばかりで人気らしいぜ」
「へぇ、それじゃいつものメンバーで行ってみるか」
「さっすがは凛城! フッ軽で助かるぜ」
躑躅森と一緒に学校へ向かった。会話をしながら、ポケットが震えていたので、スマホを見ると通知がいくつかあった。動画の更新通知だ。内容はニュースでどこかの国が何かの実験を開始したとか。よく見ずにそのままメッセージの返信をいくつかして躑躅森の話を聞いた。
「あっ、やべ。今日って小テストがある日だっけ?」
「そうそう、確か数学だったと思うよ」
「小テストって嫌だよね」
「まぁ、今日やるかわからないけどね。あの先生、抜き打ちだまし討ちテストするから」
「確かに」
俺らはくだらない話をしつつ、クラスについた。
「おはよ、りん」
「おはよう、艶島」
「今朝のニュース見た?」
「いや、何も」
「なんかさ、得体の知れない実験をしているんだってさ」
「お前、オカルト好きだからな。朝からほどほどにしとけよ」
ゆるめのチョップを艶島の脳天に直撃すると、うひーん、といいながら、自席へ戻っていった。躑躅森とも席が違うので別れ、窓側の一番後ろの自分の席へ座り教科書を机にしまった。窓の外を眺める。校庭には部活動をしている人たちがいる。この朝の時間は野球部とサッカー部が活動している。俺は部活動には興味が無くて入っていないので、帰宅部だ。そして、校庭を眺めていると部員の様子が変だ。何かを叫んでいるようにも聞こえる。窓越しなので何を言っているのかは何もわからない。俺が校庭にいる部員へ集中していると、クラス内からも声が出た。キャーともなんだあれ? という声も聞こえた。
「何だ?」
俺はクラスメイトたちが指さす視線の方向へと向けた。その先には上空に大きな真っ黒な大穴が空いていた。あれが何かはわからないが、あれは危険だと本能が知らせる。
「実験は失敗したんだ……」
「艶島、何を言っているんだ?」
隣にいた声へ反応した。
「……」
艶島は大穴を見つめて動かなかった。俺も大穴を凝視する。何も無い。真っ黒な穴だ。しかも徐々に大きくなっている。クラスのほとんどが逃げ出そうと動いていた。
「おい、凛城! 艶島! 逃げるぞ!!」
躑躅森の声がした。
「おい、あれは何だ? 艶島」
「CERN(欧州原子核研究機構)が、別の世界への入り口を観測し始めたんだって。ほら、この動画見て」
俺はギョッとした。欧州だった広大な地が壊滅的に破壊されていた最新の動画が投稿されていた。艶島はあれが何かは知らないという。ただ、ニュース記事をネットで見た時には、今いる世界と別の世界を繋ぐ理論が完成して本格的な実験の公開に踏み切ったのが先日だという。正確な日時まではニュースには載っていなかったので詳細はわからないという。艶島が言うには生成AIではないということ。つまり、あの黒い球体も何かのドローンとか、新型のテクノロジーの企業のパフォーマンスでも無いということ。
「おい、凛城、艶島、このままじゃ危ないって」
「落ち着け、躑躅森」
「落ち着けって、あれ何だよ。どんどん大きくなっていくぞ」
「俺の直感というか本能だが、俺たちもというかこの国も助からん」
「凛城何を言って……」
躑躅森に動画を見せた。黒い球体が世界中に展開されて飲み込まれた国は全て通信不可能だと報じている。既に欧州全域とは連絡が断絶。軍の出動も開始されているとのこと。そして、日本にも多数の黒い球体が覆い被さるように展開されていると報道されていた。
「おいおい、俺たちの人生ここまでかよ!」
「まぁ、クラスの皆逃げちまったが、外よりはこの校舎のほうが安全だとも言える。先生たちは少なくともこの場所を動けないしな」
「……ああ、俺たちはここまでだな」
躑躅森と艶島の顔が見えたのは、ここで最後だった。




