第16話 こういう奴
「ルー、こいつのお面を外して」
ルーが頷くとお面を力尽くで引き剥がした。お面を引き剥がすと無精髭を生やしたおっさんの顔があった。こちらを睨んでいる。
「人?」
おっさんは、睨んだまま何も答えない。
「ルー、これは人だと思うか?」
「んー、多分違う。お兄ちゃんと雰囲気が違う」
ルーが俺とは違うと感じているのは何か理由があるんだと思うけど、具体的にどう違うかはわからないという。ただ、お兄ちゃんとは雰囲気が違うだけを繰り返す。つまり、ルーから見たらコイツは人間ではないということだ。この世界の原住民? 何故、このビルにいた? しかも、日本で見るような鎧武者の格好をしている。これはどういうことだ? この世界には武士がいるということなのか? ルーは鬼族だし、もしかしたら、有り得るかも知れないと考えを巡らせた。
「おい、何故、武者の格好をしている! ここで何をしていたんだ」
男の目が見開いた。
「お主、武者を知っておるのか」
「ああ、知識ではな」
「お主、どこから来た?」
「言う必要は無い。そういうのは、おっさんから話すのが道理だろ」
「おっさんだと?! ひ、失礼な! 我は由緒正しき白錦家の嫡男にて、この遺跡を守る者ぞ」
「白錦家? この辺りの人なのか?」
「我が家を知らぬとは、余程の蛮地から来たと思われるな。我は白錦義虎と申す。お主の名は?」
「俺は凛城廻だ。そして、この子はルー」
「そうか、失礼した。主も我と同じ地の出身か」
言っている意味がわからないが、多分勘違いしているのだろう。
「いや、多分違う。俺はこの世界に迷い込んだだけだ。手が掛かりを探しに旅をしているんだ」
「ぬッ、賓か」
「ひん?」
「そうだ。凛城殿は招かれたのだ」
「どういう意味だ、答えろ」
「そのままの意味だ。我も賓客を見るのは初めてだ。お主がこの建物に来たことも運命かも知れん」
この白錦という武者からは先程あった強烈な殺意はもう感じ無い。だが、油断してはいけない。剣を喉元に突き立てたままで質問を続ける。俺やルーにとってもこの世界のことをよく知る必要がある。それにこの白錦というおっさんは強い。この世界にはこういう存在がごろごろしている可能性があるということだ。このおっさんだけが特別ってわけではないだろう。
「何故、俺たちを襲った」
「我がお主らを襲ったのは聖地へ侵入して来たからだ」
「聖地?」
「ここが何かも知らずに来たのか?」
「言っただろ。俺たちは手が掛かりを探しに来たと」
「そうか、このような場所は太古の昔から世界の各地に点在しているという。我もいつからこの場所があったのかまでは我も知らん」
「いつから、ここにいるんだ? 俺たち以外にも侵入者とやらはいたのか?」
「覚えておらん。我は悠久の時に住む者。我の聖地へ侵入してきたのはお主らが初めてだ」
「その白錦家はこの近くにあるのか?」
「無い。とうの昔に無くなった」
「俺たちに敵意はあるのか?」
「無い。我は既にその剣が我の喉に突き立てられ、両手を組み敷かれ身動き出来ない状態で生殺与奪の権利はお主らにある。我の愛刀も手には無い。お主らの好きにするがいい」
この白錦というおっさんの言葉を信じてよいものか考える。敵意や殺意は無さそうだ。
「ルーはどう思う?」
「危険は無いと思うよ。この男から殺意や敵意も感じない」
「そうか、わかった」
俺も同意見だから剣を離し、体から離れた。おっさんはゆっくりと起き上がる。
「よいのか? 我を殺さなくて」
「無用な殺しはしないんだ。少なくともお前は俺たちに危害を加えないと判断した」
「お主ら、甘いぞ。一度殺し掛けた相手に情けをかけ懐柔するつもりか?」
「そんなつもりはない。俺たちの主義に則したまでのことだ。他意はない」
「ふふ、お主らは面白いな」
「そういうことだ。後、最後に聞きたいが、この都市には他にもあんたみたいな奴はいるのか?」
「いや、おらん。我だけだ」
「そうか、それじゃ邪魔したな。ルー、行こうか」
「わかった」
もうここには用は無い。この白錦という男も興味はあるが、この男から聞けることは聞いた。それに他の都市にもこういう奴がいるということがわかっただけでも充分だ。




