第3話
●喫茶店(夜)
落見と神崎、人の少ない喫茶店のテーブル席に着いている。
落見、ドリアやナポリタン、サンドイッチといった食事を片っ端から食べている。
その様子を神崎は遠慮がちに眺めつつ、クリームソーダを飲んでいる。
神崎、遠慮がちに尋ねる。
神崎「あの……本当によかったんですか?」
落見「何がだ」
神崎「お礼の件です。命を救ってもらったのに、ここの奢りだけというのは……」
落見「構わん。成り行きで助けた形になっただけだ。気にするな」
落見、次々と食事を頬張りながら答える。
神崎、また遠慮がちに訊く。
神崎「あの、怪我は大丈夫ですか? 烏天狗からだいぶ攻撃されてましたけど……」
落見「問題ない。食えば治る」
神崎「さっきの銃は本物ですか?」
落見「ああ。相手は強力な妖怪だった。それ相応の武器を用意した」
神崎「でも……日本じゃ違法ですよね」
落見「怪異は法の外にいる。だったら俺も法を捨てるしかない」
落見、毅然とした態度で述べる。
神崎、気圧されつつも、意を決して語り出す。
神崎「えっと、私のこと話してもいいですか?」
落見「好きにしろ」
神崎「私、陰陽師の家系で……妖怪退治とかしてるんですけど、やめたいんです。普通の人間として生きたくて」
落見「普通になればいいだろう。自分の人生は自分のものだ。進む意志を持たないのなら、望む道を選べばいい。それだけのことだ」
落見、ハンバーグを食べながら断言する。
神崎、感銘を受けた様子で尋ねる。
神崎「落見さんにも道があるんですか?」
落見「……そうだな。譲れない道がある」
その時、落見の背後に黒い靄が出現する。
靄が烏天狗の頭部となり、落見の肩に噛み付く。
神崎、驚愕して席を立つ。
神崎「烏天狗!?」
落見「力の一部を分裂させていたか」
冷静に分析した落見、食事中のナイフで烏天狗の額を突き刺す。
烏天狗、悲鳴を上げる。
自分の肩から烏天狗を引き剥がした落見、烏天狗をナイフでテーブルに刺し止める。
落見、もう一方の手にフォークを握り、烏天狗の顔面を滅多刺しにする。
断末魔の叫びを上げた烏天狗、黒い靄になって蒸発して消える。
落見、唖然とする居酒屋の店主に札束を放り投げる。
落見「騒がしくしてすまない。受け取ってくれ」
店主「は、はい……えっ!?」
狼狽える店主を横目に、落見は料理を完食する。
落見、さっさと席を立って店の出入り口へ向かう。
その際、落見は神崎を一瞥して告げる。
落見「奢ってくれて感謝する。美味かった」
落見、退店する。
残された神崎、考え込みながら呟く。
神崎「望む道かぁ……」
●神崎家の屋敷(深夜)
屋敷の玄関を開ける神崎。
そこには厳格な雰囲気の父が立っている。
神崎「ただいま……」
父「遅かったな。烏天狗は倒したか」
神崎「私じゃ敵わなくて、落見さんって人に……」
父「!!」
父、顔を顰めて嫌悪感を露わにする。
神崎、戸惑った様子で尋ねる。
神崎「ど、どうしたの?」
父「落見……怪異狩りと遭遇したのだな」
神崎「有名な人なの」
父「特別な力を持たない一般人だが、あらゆる手段で妖怪や霊、悪魔といった超常存在を無差別に殺す。管轄も勢力も関係なく活動するせいで、あちこちで恨みを買っている。賞金も懸けられているらしい」
神崎「すごいね……」
父「あんな男、勝手に野垂れ死ねばいいのだが、ゴキブリのようにしぶとくてな。不死身だと持て囃す者までいる始末だ」
父、神崎を睨んで告げる。
父「あの男には二度と関わるな」
神崎「でも悪い人じゃなさそうなのに……」
父「黙れ。次の任務も決まっているぞ。早く準備しろ」
父、さっさと告げて屋敷の奥へ去る。
神崎、ため息を吐く。
●落見の家
薄暗い部屋。
棺桶の中に落見の妻が眠っている。
落見、妻の口にドロドロの液体が入った小瓶を近づけて傾ける。
液体が妻の口の中に吸い込まれていく。
落見、空になった小瓶をしまうと、両手を組んで懸命に祈る。
落見「早く起きてくれ……」




