6.再会
「いや。エレーナ様がご無事でなによりだよ」
少年が、わたしの背をそっと支えながら、立たせてくれる。
顔がすぐ近くにあって、わたしの心臓がばくばくと早鐘を打つ。
この人が、ジョン?
確かに、この、大きな青い瞳には見覚えがあるけれど……。
「ど、どうしてわたしの名前を?」
わたしの問いに、彼はくすりと笑う。
「劇場でぶつかってしまった際に、貴女を探しに来た方がそう呼んでおられましたから」
あの時……確かに、従者はわたしの名前を呼んでいた。
それを知っているということは、本当にジョンなの?
わたしがまだ半信半疑でいることが伝わったのか、ジョンは笑みを浮かべたまま、小さく肩をすくめてみせる。
「あの時のおれはメイド姿でしたからね。今日は手伝いなので、ただのおれの姿ですけれど」
背丈はわたしと変わらないくらい。
でも、男性の服を着ていると、確かにこの人は少年だった。
「なんだよ、ジョン。おまえ、こちらのご令嬢とお知り合いなのか?」
わたしにぶつかった方の彼が、目を丸くしている。
「一度、偶然お会いしたことがあるだけだけれどね」
そう。知り合いと言うには、あまりにも心もとない。
けれど……だからこそ、また会いたかった。
もう一度会って、確かめたかった。
あれは夢ではなかったのだと、彼(彼女)は実在するのだと。
――そして、なぜ、彼のことが気になってしまうのかも。
「ジョ……」
「エレーナ!」
ジョンに問いかけようとした時、わたしの名を呼ぶ声が投げ込まれた。
「サマンサ叔母さま」
なかなか帰ってこないわたしのことが心配になって、探しにきてくれたようだ。
「こんなところにいたの⁉︎ あら、マシューとジョンと一緒だったのね」
叔母は、このふたりのことを知っているようだ。
「これは、サマンサ様。本日は、このような機会をいただき、ありがとうございます。今宵の物語はいかがでしたか?」
マシューが叔母に礼をしてから問う。
「素晴らしかったわ。また、劇場にも観に行かせていただくわね」
「ありがとうございます」
マシューがにこやかにお礼を告げる。
あ、この人、かっこいいのかもしれない。
この段になって、わたしは改めてマシューの顔をちゃんと見た。
色の薄い茶色の髪に、淡い紫の瞳。
すらりとした長身に長い手足。
そうだ、今夜のお芝居で、主人公の友人を演じていた人だと、今更ながらに気づく。
マシューも役者さんだったんだ。
「お待ちしております、サマンサ様。エレーナ様も、ぜひ、また」
ジョンに優しく声をかけられ、わたしは反射的にこくりとうなずいた。
もう行かないとは、言えなかった。




