3.思いがけない公演
叔母からの手紙を開く。
強引に連れ出したのを申し訳なく思っていること、わたしの好きそうな本を手に入れたから、今度その本を持って会いに来てくれるということ、さっきわたしが読み終えた新刊を叔母さんも読了しており、感想会をしましょう、というような内容だった。
そう、わたしと叔母は、とても趣味が合う。
というか、わたしが本好きになったのは、叔母の影響がとても大きい。
サマンサ叔母さんは、母の、年の離れた妹で、今年二十一になる。
わたしと叔母は四歳しか違わず、幼いころからよく一緒に遊んでいた。
時に、姉妹に間違えられることもあった。
わたしには実姉もいるけれど、実姉は叔母と同い年だ。
実姉は活動的な人で、部屋で本を読んでいる叔母さんとわたしたちを残して、外に飛び出し、使用人の子ども(男の子)たちと庭を駆け回っていた。
そんな姉は、昨年隣国に嫁いでいった。
時折手紙が届くけれど、相変わらず元気そうだ。
姉なら、観劇に行っても熱を出すことなく、楽しんで帰れただろう。
小さく息を吐いて、叔母からの手紙をしまう。
観劇――。
体調が悪くならなければ、わたしも楽しめたのだろうか。
創作物を楽しむ素質はあると思う。
物語も詩も、読むのは好きだ。
読んだものから妄想を膨らませることだって得意だ。
けれど――。
創作された世界を、わたしたちが生きるこの空間に作り出し、登場人物を演じる。
それはとても難しいことに思えた。
◇◇◇
「エレーナ、体調はもうだいぶんいいようね」
お茶の時間。
母がわたしの様子を見ながら微笑んだ。
「そう……ですね。そうみたいです」
先ほどのステラとの会話を思い出し、わたしは頷いた。
「それはなによりだわ。それでは、今夜のハーレイ一座の劇を観られそうね」
「今夜の……?」
劇場は屋外にある為、公演は昼に行われているはずだけれど、と首を捻る。
「ええ。私の父が一座に出資をしていることは知っているかしら?」
初耳だった。
いや、もしかしたら聞いたことはあったかもしれないけれど、興味がなくて忘れたのかもしれない。
「そう……でしたか……」
「ええ。まあ、そのような関係もあって、今夜、こちらで一公演してもらうことになっているのよ」
「なぜ、うちで……? その流れであれば、お祖父さまのお屋敷でするのが自然なのでは?」
「そこはほら、ねえ、ステラ」
母が、傍に控えていたステラに説明をするように促す。
「サマンサ様がこちらのお屋敷でと薦めて下さった様です。こちらで公演すれば、奥様も観劇できますし」
「ええ。私も興味があって、観たいと思っていたのよ」
なるほど。
サマンサ叔母さまが手紙を書いたあとに、公演の話が持ち上がったのかもしれない。
「それにしても、急ですね」
「無理はしなくてもいいのよ。あなたはこの間も、ハーレイ一座のお芝居を観てきたのでしょう?」
「この間の劇団なの⁉」
劇自体もほとんど覚えていないのだから、劇団の名前だって覚えてはいなかった。
わたしが覚えているのは、あの時ぶつかった彼女――いや、彼のことくらいだ。
「何か、問題が?」
「い、いいえ。問題は、何も……。も、もし観られそうであれば、行きますわ」
ティーカップを下ろすと、ガチャンと音が鳴った。
「エレーナ」
粗相をたしなめるような、母の声。
「ご、ごめんなさい、お母さま。わたし、少し部屋に……」
「あら、大丈夫?」
「え、ええ。なんだか少し、息苦しいような気がするだけよ。少し休めば大丈夫」
心配そうな母を部屋に残し、わたしは一目散に自分の部屋を目指す。
この動悸はなんだろう。
思わず胸を押さえる。
あの時の彼女――いや、彼がここに来ると考えた途端だった。
わたしはかわいらしいものが好きだ。
だから、あのかわいらしい彼女がまた見られると思うと、心が躍るのだろう。
そう、自分を分析する。
あの時、わたしは彼のお芝居を観ていない。
彼――彼女は、舞台の上でどんな風に動いていたんだろう。
どんな風に動くんだろう。
想像しようとするけれど、あまりにも情報が少なすぎた。
百聞は一見に如かず。
気がつけば、わたしは今夜の公演を見たくなっていた。




