2.その後のこと
「エレーナ様……エレーナ様?」
名前を呼ばれていることに気が付いて、わたしは、はっとしてそちらへ顔を向ける。
「ステラ……。どうしたの?」
いつからいたのか、身の回りの世話をしてくれているステラがドアの前に立っていた。
「サマンサ様よりお手紙が届いておりましたので、お持ちしました」
「あぁ、ありがとう」
ステラから手紙を受け取る。
サマンサ叔母さまと一緒に観劇に行った日から、半月ほどが経過していた。
あの日、帰ってきてから、わたしは熱を出して寝込んだ。
熱は数日で下がったものの、慣れない外出の影響は思っていた以上で、疲れがいつまでも残っているような状態が続いていた。
起き上がれるようにはなったものの、ほとんど部屋から出ないまま日々を過ごしている。
「おかげんはいかがですか?」
「まだ疲れが取れていない気がするわ」
「もう半月ですよ?」
「やっぱり、外出はするものではないわね」
「外出しなさすぎて、体力が落ちていたのが原因なのでは?」
ステラは、わたしに対して遠慮なく思っていることを言う。
一理ある、とは思う。
「ま、まあね。でも、こんなに代償が大きいのであれば、無理をして外出をしなくてもいいと思うわ」
「大きな代償……ですか?」
ステラが怪訝そうな顔で、首を傾げる。
「熱を出して、寝込むことになったわ。半月が経った今でも、部屋から出る気力も湧かないし」
「お好きな本はお読みになっていますよね」
「新刊が手に入ったのよ。読まずにいられる?」
「熱は数日で下がりましたし、お部屋から出られないのはいつものことでは? そして、お好きな本をお読みになる元気もある。大きな代償というほどのものは見当たりませんが」
「そう……なの……かしら……」
そう言われてみれば、確かに、出かける前とそんなに変わらない生活をしている。
なんとなく、体が重いような気がするのと、ぼーっとしてしまうことが多いような気がする以外は。
「私には、そう見受けられますけれど」
そうだったのか。
でも、熱が出てしまうくらい疲れたのは本当だし、観劇するという目的を達しないまま帰ってくることになってしまった。
やっぱりわたしにはこの部屋が一番だ。
部屋をぐるりと見渡す。
好きな本に囲まれている安心感。
「まあでも、そうね、代償が大きくなかったのであれば、なによりだわ」
こうして、好きなことができるのだから。
「そうですね。では、私はこれで失礼します」
さらりと流して、ステラが部屋を出ていこうとする。
「ちょっと待って、ステラ」
「なんでしょう?」
「この新刊なんだけど、とうとう、メイソンとキャロラインが思いを伝えあってね、それを見てしまったマイクは自分の思いに蓋をすることを決めるの。あんなに……あんなにキャロラインのことを想っていたのに……ねえ聞いてる? ステラ」
ステラの反応がとても薄いから、つい確認してしまう。
「聞いております。お好きなものについて話される時、早口になるのはなかなか直りませんね」
また早口になってた?
つい、好きなもののことになると、伝えたい気持ちが先走ってしまう。
「き、気を付けるわ。でもね、わたし、キャロラインの従妹のサヴァンナは、マイクに好意を抱いていると思うのよ。いえ、そうであってほしい。――というわけで、あなたにこれを読んでほしいの」
わたしは、先ほど書き上げたばかりの紙をステラへ差し出した。
「これは?」
「こうであってほしい、というわたしの願いを、書いてみたわ」
「つまり、エレーナ様の妄想物語ですね?」
妄想物語……?
「妄想というよりは……願望?」
「どちらでも結構です。わかりました、これはお預かりします」
「ええ。読み終えたら、ぜひ感想を教えてね」
「かしこまりました」
前のめりになるわたしとは対照的に、やや身を引き気味にステラは頷くと、今度こそわたしの部屋を出て行った。




