☆17 「とっても素敵だわ」
☆前回までのあらすじ
VRMMO『ファイナルフロンティアVR』を始めたつくしは、人見知りの少女ジャスミンと出会い、一緒に遊んだ。
別れ際に、また明日も一緒に遊ぶ約束を交わし、二人はログアウトする。
現実世界に戻ったジャスミンこと風越茉莉は、浮かれ気分で母親に友達ができたことを報告するのだった。
「つくし!」
ログインして早々、ジャスミンの声がつくしを出迎えた。
「おはよージャスミン。もう来てたんだ」
時計は8時50分を指している。約束の時間にはまだ10分の余裕があった。
「う、うん。ちょっと早く目が覚めたから……。あ、違うわよ? べつに何時間も前からログインしてたとかそういうわけじゃなくって、わたしもさっき来たところだし」
早口で捲し立てたジャスミンが咳払いをひとつ。
「それで、今日は昨日のつづきをするってことでいいのかしら!?」
「うんっ。あの向こう側も気になるし、行けるところまで行ってみようよ」
目的地の岬を指差して、弾むような足取りで先を行こうとするつくしをジャスミンが呼び止める。
「ちょっと待ちなさい。つくし、これをあげるわ」
そう言って、ジャスミンはインベントリからアイテムを取り出してつくしに差し出した。
「なにこれ。〈水〉と、〈パン〉?」
「そろそろ必要なころでしょ」
「えー? つくし朝ごはんたくさん食べたからおなかいっぱいだよ?」
「いや、リアルは関係ないから。……それ、冗談で言ってるのよね?」
不思議そうに首をかしげたつくしを見て、ジャスミンは眉根をよせる。
「まさか、補給したことないの?」
「うん」
「まあそんなことだろうと思ったわ。いい? その食料と水はね――」
VRMMORPG『ファイナルフロンティアVR』の世界では、プレイヤーキャラクターの行動に応じて微量の食料ゲージと水分ゲージが消費される。
各ゲージが残りわずかになると、キャラクターの動きを阻害するバッドステータスが付与され、最終的に空になってしまうと、行動するたびにhpを消費するようになってしまう。
ゲージの回復には各種食べ物や水に属するアイテムを摂取する必要がある。または一度死んでリスポーン地点に復活することでもゲージはリセットされる。
「ってわけなのよ」
「ねーねー、ジャスミン。これ食べてもいいの?」
すんすんと鼻をならしてパンのにおいを嗅ぐつくし。
「つくし、あんた話聞いてた? まあいいわ。食べてみなさいよ」
「もぐもぐ……。ふわふわしてちょっとあまーい。美味しいねーこれ」
「でしょう? お店によって売ってるパンが違うのよ。わたしのおすすめはそのロールパンね」
「へえ~。ジャスミンって物知りだねー」
「ま、まあね! わたしのほうがいくらか先輩なわけだし? そのくらいは知ってて当然でしょ。あと、ついでにこれもあげる」
ジャスミンが大きな円盤状のものを取り出すのを見て、つくしは目を丸くした。
「これ、ジャスミンが使ってた盾だよね? ジャスミンはどうするの? 盾がなくなっちゃうよ」
「わたしは新しいの買ってきたから平気よ。ほら」
ジャスミンが左手に装備した頑丈そうな金属の盾をつくしに見せた。
「昨日の狩りでレベルも上がったし、お金もたまったでしょ。たまたま早くログインして時間があったから買ってきたの。だから、こっちの古いのはつくしにあげるわ」
「けどつくしも盾持ってるよ?」
木製の小盾をジャスミンに見せるつくし。
「昨日見てて思ったんだけど、その盾だと防御力が低くってガードしてもHPが結構減っちゃうでしょ。こっちの盾のほうが防御力が高いから替えたほうがいいわ」
「そうなんだ。つくしあんまり性能とか見ないで買っちゃったからなー」
つくしはジャスミンから受け取った盾を装備してみせた。
「それと、これ。昨日忘れてたでしょ」
「あ、真珠かあ。忘れてた。それはジャスミンにあげる。つくしたくさんもらっちゃったもん」
「でも、わたしが持ってても仕方ないわよ。錬金術師なら何かの素材に使えるんでしょ?」
「使えるかどうかはわかんないけど。んー。じゃあ、つくしがアクセサリー作れるようになったら、その真珠で何か作ってジャスミンにプレゼントするっていうのはどう? つくしも作ってみたいし」
「えっ、それって…………とっても素敵だわ!」
ジャスミンは両手を組んできらきらと目を輝かせる。
「そうと決まったら、がんがん敵を倒してレベル上げするわよ!」
「おーっ」
ジャスミンの提案に、つくしが威勢よく返事をした。




