☆15 「二人なら」
日差しがさんさんと降り注ぐ白い砂浜に、二人の少女が立っている。
金色の髪を海風になびかせて、ジャスミンは決意を秘めた強い眼差しをつくしに向けた。
「パーティーを組んだからには、もう仲間よ。わたしのことは呼び捨てで構わないわ。……だっ、だから、わたしもあなたのことを、つくしって呼んでも、いい、かしら……?」
きりりとつり上がった眉や目尻は、ジャスミンの言葉から勢いが失われていくにつれて、ふにゃふにゃと自信のない表情へと変わっていった。
「もちろん。ジャスミンっ」
つくしが快諾するのを聞いて、ジャスミンの顔がぱっと明るくなる。
「いくわよ、つくし! わたしたちのパーティーの初陣を飾るのよ!」
「お、おー?」
ジャスミンは剣を抜いて掲げると、突然走り出す。しかしジャスミンには別に目標などなく、パーティーを組んだことがただ嬉しくて、居てもたってもいられない。ただそれだけだった
つくしはそんなジャスミンを戸惑いまじりにぽけーっとした顔で見つめている。
「何ぼーっとしてるの、つくし。早く来ないと置いていくわよ!」
「あっ、まってー。ジャスミーン」
追いかけてくるつくしをジャスミンが満足そうに見守る。すぐにつくしが追いついて、二人は波打ち際を並んで走りながらけらけらと笑いあった。
「つくし! カニよ! カニがいるわっ」
ジャスミンが前方に現れたグレートクラブを指して叫ぶと、つくしもそれに呼応する。
「今夜はカニ鍋だあー!」
二人は蛮族めいた雄叫びを上げながら突っ込んで、目についたグレートクラブを端から殲滅してはしゃぎまわった。
「まって、いまレベルが上がって新しいスキルを覚えたわ!」
次のグレートクラブを見つけて走り出したつくしをジャスミンが呼び止める。
「ほんと!? どんなスキル?」
「ええと……これね。〈パワースマッシュ〉武器を頭上に振りかぶり、1秒間ためた後、降り下ろす。効果は目標に大ダメージ。……強そうだわ!」
「大ダメージ!? つよそう!」
二人のすぐそばで、砂がもぞもぞと動いて地中から新たなグレートクラブが出てきた。ジャスミンは目で合図を送り、つくしは無言でうなずいた。
グレートクラブに近づいたジャスミンが剣を振りかぶる。
「行くわよ! 〈パワースマッシュ〉!!」
狙いを定めて振り下ろした剣は、水色のエフェクトをまとってグレートクラブの甲羅に直撃し、その衝撃が周囲の砂を舞い上げる。
グレートクラブは断末魔の悲鳴を上げて力なく崩れた。
「すごい! 一撃でやっちゃった!」
つくしが感激の声を上げ、ジャスミンははっと我に返る。予想よりもスキルが派手で、使ったジャスミンのほうが驚いていた。
「ま、まあね! わたしにかかればこんなものよ!」
「あっ、ジャスミンっ、また鳥がきたよ!」
「わたしに任せなさいっ!」
グレートクラブの死骸によってきた海鳥型モンスターのバードに向かって、ジャスミンは〈パワースマッシュ〉を放つ。硬い甲羅を持つグレートクラブでさえ一撃なのだ。当たりさえすれば、バードが耐えられるはずもない。
ジャスミンは砂埃の舞う中、砂に埋もれた剣をゆっくりと持ち上げて肩にかついで胸を張った。
「一撃で粉砕してやったわ! 所詮鳥は鳥ね!」
「か……かっこいい~。ジャスミンかっこいいよー」
つくしは手を叩いてきらきらした視線をジャスミンに向ける。そんなつくしを見て、ジャスミンは満足そうに鼻を鳴らした。
「もうこのエリアにわたしたちの敵はいないわ。次のステージに行くわよ!」
「うんっ。ジャスミンとならどこにでも行けそうだよ」
しかし次のステージとは言ったものの、どこに行けば良いのかわからない。ジャスミンはきょろきょろと周りを見て、海に突き出した岬に目をつけた。周辺をごつごつとした岩場に囲まれたその岬は、陸地が丘のように上に突き出して海に接した部分は崖のようになっていた。
「ねえジャスミン、あっちに行ってみない?」
つくしが岬に向けて指を差す。
「奇遇ね。わたしもそう思っていたところよ」
二人は見つめ合い、にっと笑った。
海岸沿いを歩いていくと、それまで足元を覆っていた砂浜の景色が変わる。砂の代わりに、ごつごつとした岩石がむき出しになった磯へ入っていく。二人は林立する大小様々な岩石の間を縫うようにして前へ進んだ。
「あっ、ジャスミン、ジャスミン! やどかりがいるよ!」
「ヤドカリ? うわっ、ずいぶん大きいわね……」
つくしの指差した先、大きな岩の影をのっそりと巨大なヤドカリ――ロッキークラブが現れた。
「どうかな、あれ、倒せるかなあ」
「いけるわよ。二人なら」
幸い、向こうからは攻撃を仕掛けてこないモンスターだったので、ジャスミンはそっと後ろに回り込みながら近づいて、剣を振りかぶった。
初撃でジャスミンが〈パワースマッシュ〉を食らわせる。
「くっ、かなり硬いわね」
ジャスミンのパワースマッシュを受けてもロッキークラブのHPは半分以上残っていた。防御力はグレートクラブよりも高く、つくしの攻撃は硬い殻にはばまれて殆ど効果がない。ジャスミンはロッキークラブの強烈な攻撃を盾でガードし、すきを見てスラッシュを繰り出したが、それも有効打にはならなかった。
「だめだわ! パワースマッシュ以外全然効かない。それなら、もう一回食らわせるまでよ! 〈パワー――〉――ぎゃふんっ!」
剣を高々と掲げるパワースマッシュの構えを取ったジャスミンの無防備なお腹に、ロッキークラブの大きなハサミによる突き攻撃が刺さった。ジャスミンは身体をくの字に折ってうずくまる。
「ジャスミンっ!」
ジャスミンはお腹に穴が空いていないことを確かめると、すぐに立ち上がって盾を構える。いまの一撃で、HPは半分近くまで減っていた。
「くっ、平気よ! でも、これじゃパワースマッシュが打てない!」
パワースマッシュは威力が大きい分、スキも大きい。構えている間に攻撃を受ければカウンターダメージを受けてしまう上にこちらの攻撃がキャンセルされてしまう。真正面から撃てるようなスキルではないのだ。
攻めあぐねるジャスミンの前に、つくしが小さな身体を潜り込ませた。
「つくしにまかせて! 攻撃はつくしがガードするよっ。ジャスミンはパワースマッシュを打って!」
両手で小盾を構えたつくしが、ロッキークラブの攻撃を受け止めた。しかし攻撃のダメージを完全に防ぐことはできず、つくしのHPは大きく削れてしまう。長くは持ちそうになかった。
「つくし……! わかった! いくわよ、パワー――」
力を溜めたジャスミンの剣が輝きを増していく。ロッキークラブは強力なパンチを放つが、それはつくしの盾が受け止める。
「ぐっ……やっちゃえ、ジャスミン!」
「スマーッシュ!!」
青い光を帯びた剣が振り下ろされ、残光が稲妻のように走る。最大威力のパワースマッシュは岩のような貝殻を打ち砕き、ロッキークラブのHPを根こそぎ削り取った。
巨大ヤドカリはズシンと音を立てて岩盤の上にその身を倒した。
「やったあ! ん~っ、やっぱりジャスミンはすごいね!」
「わたしだけじゃないわ」
「え?」
「言ったでしょ。二人なら勝てるって」
ジャスミンは照れくさそうに視線をそらしてつぶやいた。




