☆14 「わたしとパーティーを」
・「☆13」にて、ジャスミンの感情が想定以上に重すぎた部分を修正
雑木林を切り開いて作られた道を、つくしとジャスミンの二人が連れだって歩いている。歩幅の小さいつくしのほうが半歩前を進む。
ジャスミンは手のひらに汗がにじむのを感じた。もともと人見知りするほうであるし、なにより助太刀に入りながら死んでしまうというヘマをやらかしたせいで、つくしの前でどんな顔をしていればいいのかわからなかったのだ。
「ねえ、ジャスミンさん。さっき助けてくれてありがとう」
人懐こい笑顔を向けるつくしに、ジャスミンは顔をそむけて表情を曇らせる。
「結局助けらなかったんだから、お礼なんて言われる筋合いないわ」
「えへへ。二人ともやられちゃったもんね。でも、つくしうれしかったよ」
「ふうん……」
「うんっ。あのね、つくし、オンラインゲームってやるの初めてなんだー。いつも昔のRPGとかやるんだけど、つくしゲームあんまりうまくないから、すぐゲームオーバーになっちゃうの。このゲームでも死んでばっかりだから、さっきもね、鳥がいっぱい来て、ああまた死んじゃうんだーって思ってたんだけど、そしたらジャスミンさんが来てくれたでしょ? あれすっごく嬉しかったし、かっこよかったなー。共闘イベントみたいでどきどきしちゃった」
「ふ、ふ~ん」
ジャスミンはつくしに自分の行動を肯定されて、まんざらでもない顔をしていた。
「ねえ、ジャスミンさんって剣士? さっきのスキルすごく強かったよね。あーいうのつくしもほしいなー」
「フ……フフン。わたしは剣士じゃなくて戦士よ。……知ってる? 戦士って、全職業のなかで一番強いのよ」
少し自慢げに自分の職業をアピールするジャスミン。
「そうなの!?」
なにも知らないつくしが自分の話で驚いてくれることに嬉しくなったジャスミンは、熱をいれて語りはじめる。気分はまさに、小学生にものを教えるお姉さんである。
「ええ。一番耐久力があって、一番強い武器を装備できるのよ」
ジャスミンの言葉には若干の語弊があった。確かに耐久力は全職業の中でトップだが、武器に関しては職業間での装備制限はないし、スキルとの兼ね合いもあるのでどれが強いとは言い難い。もちろん、全職業の中で何が一番強いかというのは、いくら議論を重ねても答えの出ない問題だ。
だがゲーム初心者のジャスミンは、ネットで流れていた情報を鵜呑みにしてしまったのだった。
ジャスミンはさらに戦士の魅力をつくしに語る。
「スキルだってすごいんだから。〈挑発〉はさっき見せたわよね。敵を自分に引き付けて仲間を守れるの(……さっきは死んじゃったけど)。ほかにもサポート、防御スキルが沢山あるわ。でも戦士の真骨頂はやっぱり攻撃スキルよ。わたしはまだスラッシュしか使えないけど、レベルが上がればどんどんスキルを繋げて強力な、コンボ? が出せるんだから。それに、一撃必殺の大技とか、範囲攻撃だってできちゃうのよ!」
情報サイトを見て覚えてきたことを並べ立て、鼻息も荒く、どうだ、といわんばかりに胸をはる。
これはジャスミンにとって承認欲求を満たすと同時に、自分を売り込むチャンスなのだ。これだけ良いところを話せば、この目の前のちっちゃい子は自分を仲間にしたがるに違いない。と、ジャスミンは思った。
「すごーい。いいなー。戦士いいなー」
つくしは目をらんらんと輝かせてジャスミンを見上げている。ジャスミンの作戦通りだ。
「そうでしょう。そうでしょう。戦士はパーティープレイに欠かせない職業なのよ!」
戦士の売り文句をひとしきり言い切ったジャスミンは、深呼吸をして胸に手を当てた。
「だ、だから、その……もしよかったら……」
ジャスミンはぎゅっと目をつぶり、準備していた言葉を言い放つ。
「わ、わたしとパーティーを組んでくれないかしらっ」
少し声が上ずったが、言い切ることができた。ジャスミンは、どきどきしながらつくしの返事を待った。
「……………………」
だが、つくしの返事は返ってこない。数秒が経過し、さすがに変だと思ったジャスミンが恐る恐る目を開くと、そこにつくしの姿はなかった。
どこに行ったのだろう、探そうとすると、ジャスミンを呼ぶ声が聞こえた。
「つくしのお墓あったよー! ジャスミンさんもはやくはやくー」
手を振るつくしは砂浜にいた。つくしと話している間に、いつのまにか目的地に着いていたのだ。
ということは――
「さっきの話、聞いてなかったのね……」
ジャスミンはがっくりと肩を落としながらつくしのもとへ向かった。
自分の墓石に触れて、失っていた経験値とアイテムを回収していく。
つくしを誘うなら、ここが最後のチャンスだ。いま自分がつくしと一緒にいるのは、デスペナルティを回収するためだ。これが終わってしまえば一緒にいる意味がなくなってしまう。ジャスミンはそう思っていた。
ジャスミンはわざとゆっくり装備を着け直し、ちらりとつくしの様子を盗み見た。つくしの方からなにかアクションを起こしてくれればやりやすくなるかもしれない。そう思ったのだが、つくしはまだ装備を着けていなかった。アイテムインベントリかなにかを確認しているようで、ジャスミンは手持ち無沙汰になってしまった。
「あ、あの……わたしと……」
パーティーを、と小声で言いかけたが、そこでジャスミンの勇気はしぼんでしまった。そもそも、会ったばかりの自分から突然パーティーを組んでくれと言われても迷惑に思われるだけだ。やっぱりやめておいたほうがいい。ジャスミンは思った。
「じゃ、じゃあ、わたしはこれで……」
そっと立ち去ろうとしたジャスミンを、つくしが呼び止める。
「あれ? どこいくの? 一緒に遊ぼうよー」
ジャスミンは足を止めて振り返った。
「……一緒にって、わたしと?」
「あ、もしかして他に用事あったりする?」
「ないわよ! 暇すぎてどうしようかと思っていたところよ!」
つくしの言葉に食い気味にかぶせてジャスミンが言う。
「やったあ。じゃあつくしからパーティー誘っていーい?」
「しょっ、しょうがないわね。そこまで言うならパーティーを組んであげてもいいけど!?」
言葉とは裏腹に、嬉しさが顔に出ているジャスミンである。
「えーっと、これでできたかな」
つくしが空中に指を走らせて操作を完了させると、ジャスミンの前にメッセージが表示される。
〈つくしからパーティー加入要請を受けました。パーティーに参加しますか? はい/いいえ〉
ジャスミンはどきどきと胸を高鳴らせながら、かすかに震える指で〈はい〉のボタンを押した。
〈つくしのパーティーに参加します。〉




