☆13 「このくらい楽勝よ!」
・「☆12」に登場した戦士のスキル名称を変更
・その他、軽微な文章の修正
ジャスミンが戦士のスキル〈挑発〉を発動させると、つくしに集っていた鳥たちが一斉にターゲットを変えてジャスミンへと襲いかかる。ジャスミンは盾を上に向けて構えて鳥の攻撃を防ぎながら、後ろにいるつくしをちらりと見る。
「ここはわたしに任せて!」
「え? でも」
「いいから、見てなさいっ!」
「う、うん」
つくしは突然現れたプレイヤーに戸惑ったものの、自分を助けてくれたということは理解できた。実際、あのまま鳥の攻撃を受けていればつくしは死んでいただろう。
「いくわよっ、〈スラッシュ〉!」
ジャスミンがスキル名を叫びながら剣を左右に斬りつける。
戦士のスキルは決められた型を再現することで発動する。〈スラッシュ〉の型は右方向、左方向の横斬りからの振り下ろしだ。その順番に斬ることで、最後の振り下ろしが強力な一撃となる。
スキルエフェクトをまとった3撃目の振り下ろしが、ジャスミンに向かってきた鳥に命中した。
「ピギィー!」
「やった!」
ぱっと顔を輝かせるジャスミン。スラッシュの直撃を受けた鳥は一撃で絶命した。もともとバードというモンスターはHPが低い。通常攻撃であれば1,2発は耐えるが、スキルで強化された一撃には敵わない。
「すごいっ、一発で倒しちゃった!?」
戦士のスキルを初めて見たつくしが驚嘆の声を漏らす。それを聞いてジャスミンはぞくりと体を震わせた。いままでソロプレイに徹してきたジャスミンにとって、他者の反応を得ることは未知の感覚だった。
ジャスミンは調子づいた。
「このくらい楽勝よ!」
気持ちを昂ぶらせたジャスミンは、2発目のスラッシュを放ち、立て続けにバードを落とした。しかし次のスラッシュは横振りがかすっただけで本命の一撃は空振りに終わる。
「くっ、飛んでばっかりで……! 降りて戦いなさいよ!」
空を飛ぶバードに剣を当てるには、向こうが攻撃するタイミングを狙うしかない。しかし、動く標的に3連撃の最後の一撃を合わせるのはかなり難しい。
「〈スラッシュ〉! 〈スラッシュ〉!」
当たりさえすれば一撃で倒せると知ったジャスミンはむきになってスキルを振り続けるが、まぐれ当たりがそう何度も続くはずもない。
「いったぁ!?」
正面ばかりを見ていたジャスミンの後頭部を後ろからやってきたバードがつついた。振り向いたところでもう遅い。相手は剣の届かない空の上だ。
「ちょっと! 後ろからなんて卑怯でしょ!!」
ジャスミンが空に向かって叫ぶ。
バードはリンク属性を持ったモンスターだ。敵対したらすぐに倒さなければ、周りにいる仲間が寄ってきて取り囲まれてしまう。そうなると360度どこから攻撃が来るかわからない。
一回つつかれたくらいでは大したダメージにならなくても、数が増えれば手に負えなくなる。
「こっ、この! 〈スラッシュ〉! 〈スラッシュ〉! 〈スラッシュ〉!」
もはや闇雲に剣を振り回すばかりで、ジャスミンのHPが尽きるのは時間の問題に思えた。
「ど、どうしよう。このままじゃ――そうだ、ポーション!」
つくしはヒールポーションをジャスミンに向かって投げた。
体に当たった瞬間、緑色のエフェクトが出てジャスミンのHPがわずかに回復する。
通常は飲んで使うポーションだが、体に当てた場合も回復量は下がるが効果はある。ただしそれは通常のポーションの場合で、つくし作の大失敗ポーションでは被ダメージ量を補えるほどの効果はなかった。
「がんばってー、ジャスミンさんっ」
それでもつくしはポーションを投げ続ける。
「〈スラッシュ〉! 〈スラッシュ〉! 〈スラ――〉 あ……っ」
「あっ」
バードの攻撃を受けたジャスミンが、力を失ってぱたりと砂浜に倒れた。HPがなくなったのだ。
すると、それまでジャスミン一人を標的にしていたバードがつくしに殺到した。
「きゃーっ」
戦士の装備を着けたジャスミンですら溶けた猛攻に、軽装のつくしが耐えられるはずもない。
つくしは数秒で死んでしまった。
「えへへ、つくしも死んじゃった」
ジャスミンに向かって話しかけるつくしだったが、すでにその姿は消えていた。
つくしが死ぬのを見届けてからリスポーン地点へ帰還したジャスミンは、両手で顔を覆った。
「かっこ悪すぎる……死にたい……」
自信満々で助けに入っておいてあっさりやられてしまった。
それに、手を出さなければ、つくしはあのまま死ぬだけでアイテムを消費せずに済んだ。何もしないほうがマシだったのだ。
ジャスミンが落ち込んでいると、石碑の前につくしの後ろ姿が現れた。
「あ……」
つくしはまだジャスミンに気付いていない。この状態で顔を合わせることに気まずさを感じたジャスミンは、つくしに気付かれないように、そーっと逃げ出そうとする。
「待って、ジャスミンさん!」
しかし、つくしに見つかってしまった。ジャスミンは硬直して、振り向くこともできずに立ち尽くす。
――助太刀に入ったのに勝手に死んで、挙げ句道連れ死までさせておいて、合わせる顔がないわよ……!
ジャスミンはギュッと拳を握りしめる。
「そっちじゃないよ。海はあっち。ねえ、はやく装備取りに行こ?」
ジャスミンの前に駆けてきたつくしが、太陽のような明るい笑顔を見せてジャスミンを誘うのだった。
「え、ええ……」
別に方向を間違えていたわけではないのだが、つくしがあまりにも当たり前のように言うので、ジャスミンはつられて頷いてしまった。




