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私が死んだ日、冷血大公の夫は国を焼き始めました――三年後、花屋になった私を見つけた暴君が絶対に離してくれません  作者: 茗子


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7話 墓の中で私は目を覚ました


 目を覚ましたとき、私は、自分が死んだのだと思った。


 暗かった。


 ひどく静かで、指先の感覚さえなかった。


 何も見えない。


 何も聞こえない。


 ただ、遠くで水が落ちるような音だけが、かすかに響いていた。


 ――ここは、どこ?


 息を吸おうとした。


 胸が、痛んだ。


 喉の奥から、ひゅっと細い音が漏れる。


 私は、ゆっくりと目を開けた。


 頭上に、青白い光が浮かんでいる。


 透明な蓋の向こうに、石造りの天井が見えた。


 見覚えのない天井だった。


 私は、ぼんやりと瞬きをした。


 ここは、寝室ではない。


 大公邸の礼拝堂でもない。


 壁には古い聖人の彫刻が並び、天井から細い鎖で吊るされた燭台が揺れている。


 どこか地下のようだった。


 私は、身体を動かそうとした。


 けれど、指先がわずかに震えただけで、腕は持ち上がらない。


 身体が重い。


 まるで、何日も眠り続けていたかのようだった。


 そのとき、記憶が戻ってきた。


 小さな黒い瓶。


 かすかな薬草の香り。


 ミレーヌの泣き顔。


 そして、私が飲み干した禁制の秘薬。


『死者の眠り』


 三日ほどのあいだ、呼吸も鼓動も、魔力の流れさえほとんど感じられなくなる薬。


 私は、目覚めたのだ。


 生きている。


 そう理解した瞬間、涙が滲んだ。


 けれど、喜びは長く続かなかった。


 私は、自分の周囲を見回した。


 透明な壁。


 青白い光。


 冷たい空気。


 身体の下には、柔らかな白い布が敷かれている。


 私は、息を呑んだ。


 ――棺。


 私は、棺の中にいた。


 *


 最初は、普通の棺だと思った。


 けれど、指先を動かして内側に触れた瞬間、それが違うとわかった。


 冷たい。


 硬い。


 氷のようだった。


 しかも、ただの氷ではない。


 透明な結晶の奥で、複雑な魔法陣がゆっくりと回転している。


 私は、目を見開いた。


 氷晶石。


 帝国でも、ごく限られた貴族しか扱えない高価な魔石だ。


 亡くなった王族や高位貴族の遺体を、長期間保存するために使われることがあると聞いたことがある。


 まさか。


 私は、震える手を持ち上げた。


 透明な蓋を押す。


 動かない。


 もう一度、力を込める。


 びくともしなかった。


 私は、唇を噛んだ。


 どうして。


 こんなものを、誰が。


 答えは、考えるまでもなかった。


 クロード様。


 あの方しかいない。


 私は、目を閉じた。


 予定では、葬儀の準備が整うまで、普通の棺に納められるはずだった。


 礼拝堂へ運ばれ、葬儀職人の方が正式に遺体の移送を任されれば、その機会に屋敷の外へ出られるかもしれない。


 それが、私たちの考えていた方法だった。


 けれど、確実な計画ではなかった。


 それでも私は、薬を飲んだ。


 次の機会が訪れないことを恐れて。


 ミレーヌとの約束を破ってまで。


 そして今。


 私は、冷たい棺の中に閉じ込められている。


 胸の奥に、鈍い痛みが走った。


 私は、思わず息を吸った。


 けれど、思うように空気が入ってこない。


 この棺は、死者を保存するためのものだ。


 生きた人間が目を覚ますことなど、想定されていない。


 私は、震える手を胸に当てた。


 心臓が、動いている。


 弱々しく、それでも確かに。


 生きているのに。


 このままでは、本当に死んでしまうかもしれない。


 私は、唇を噛んだ。


 まだ、死にたくない。


 ようやく自分の人生を選ぼうとしたのだ。


 誰かの妻としてではなく。


 誰かに愛されることを待つのでもなく。


 ただ、私自身として生きてみたかった。


 私は、目を閉じた。


 ミレーヌ。


 お願い。


 気づいて。


 *


 どれほどの時間が過ぎただろう。


 私は、棺の中でじっとしていた。


 薬の効果が完全には抜けていないのか、身体はまだ思うように動かない。


 息をするたびに胸が痛んだ。


 透明な蓋の向こうには、誰もいない。


 私は、何度も指先で蓋を叩いた。


 けれど、音はほとんど響かなかった。


 やがて、遠くから足音が聞こえた。


 私は、反射的に目を閉じた。


 石の床を踏む音が近づいてくる。


 扉が開く。


 そして。


「……セリア様」


 聞き慣れた声だった。


 私は、目を開けた。


 ミレーヌ。


 彼女は、棺のそばに駆け寄ってきた。


 私の顔を見るなり、口元を押さえた。


「……っ!」


 私は、必死に唇を動かした。


『ミレーヌ』


 声は出なかった。


 けれど、彼女には伝わった。


 ミレーヌの目から、大粒の涙がこぼれた。


「……よかった……!」


 彼女は、棺に手をついた。


「本当に……よかった……!」


 私は、指先で結晶を叩いた。


 ミレーヌは、すぐに周囲を見回した。


「……お静かに」


 彼女は、声を落とした。


「ここは、大公家の地下霊廟です。見張りが持ち場を離れているのは、ほんのわずかな時間だけです」


 地下霊廟。


 つまり、私はすでに墓へ運ばれていたのだ。


「……奥様が薬を飲まれてから、まる三日が経とうとしています」


 ミレーヌは、私の表情を読み取ったように囁いた。


「閣下は翌朝に帰還されました。そして、その日のうちに氷晶石の棺を用意するよう命じられたのです」


 私は、息を呑んだ。


 クロード様は、帰ってきたのだ。


「その翌日、保存術式を安定させるため、棺はこちらの霊廟へ移されました。地下には魔力を一定に保つ設備がございますから」


 ミレーヌは、棺の縁にある魔法陣を見つめた。


「葬儀職人の方も、お帰りいただくことになりました。埋葬は、当面のあいだ延期されたのです」


 私は、目を閉じた。


 やはり、あの方が。


 ミレーヌは、涙を拭った。


「奥様が亡くなったと聞いて……閣下は……」


 彼女は、そこで言葉を切った。


 私は、続きを待った。


 けれど、ミレーヌは首を振った。


「……今は、そんなことよりも、ここから出ることが先です」


 *


 ミレーヌは、懐から小さな鍵を取り出した。


 銀色の鍵。


 先端には、複雑な紋様が刻まれている。


 私は、驚いて目を見開いた。


「……この二日間、ずっと方法を探しておりました」


 ミレーヌは、棺の縁にある魔法陣を確かめながら言った。


「氷晶石の棺は、閣下の魔力で封じられています。ですが、保存術式の点検や棺の移送のために、管理用の補助鍵が用意されているのです」


 彼女は、鍵を握りしめた。


「この鍵で閣下の封印そのものを解くことはできません。けれど、点検のための短い時間だけ、棺の蓋を開けられる仕組みになっているそうです」


 私は、彼女を見つめた。


「棺がこちらへ運ばれたとき、魔術師たちが、この鍵を使っているのを見ました」


 ミレーヌの声が震えた。


「作業が終わると、鍵は霊廟の管理室へ戻されました。私は、夜間の清掃を申し出て、管理室へ入る機会を待っていたのです」


 彼女は、一度言葉を切った。


「今夜、管理を担当する魔術師が交代する隙に……持ち出しました」


 私は、必死に首を振った。


 ミレーヌ。


 駄目よ。


 そんなことをすれば。


 大公家の魔導具を盗んだ罪。


 それも、クロード様が直々に封印を命じた棺の鍵だ。


 見つかれば、ただでは済まない。


 ミレーヌは、私の表情を見て、小さく微笑んだ。


「……お叱りになりたいのですね」


 私は、目を見開いた。


「わかっております。奥様は、私に危険を冒してほしくないとおっしゃいました」


 彼女は、銀の鍵を見つめた。


「私も、お約束しました。少しでも無理があると思ったら、計画を中止すると」


 ミレーヌの唇が、かすかに震えた。


「ですが……」


 彼女は、棺の中の私を見つめた。


「目を覚ました奥様を、このまま置いていくことだけは、できませんでした」


 私は、何も言えなかった。


「お許しいただけなくても構いません」


 ミレーヌは、涙を拭った。


「私は、あの日お約束したのです」


 銀の鍵を、棺の縁にある小さなくぼみへ差し込む。


「必ず、お迎えにまいりますと」


 カチリ。


 乾いた音がした。


 棺を包んでいた青白い光が、一瞬だけ揺らいだ。


 ミレーヌの表情が、強張る。


「……お願い。開いて……」


 彼女が鍵を回す。


 細い光が、棺の表面を走った。


 魔法陣の一部が、ゆっくりと動きを止める。


 やがて、重い蓋が、わずかに浮き上がった。


 隙間から、新しい空気が流れ込んでくる。


 私は、思わず大きく息を吸った。


「……っ、は……!」


 胸が痛んだ。


 けれど、今度は確かに空気が入ってきた。


 ミレーヌが、両手で蓋を押し上げる。


 重い結晶が、少しずつ動いた。


「……奥様、今です」


 私は、震える腕を伸ばした。


 ミレーヌが、その手を掴む。


 温かかった。


 私は、彼女に引き上げられるようにして、棺の外へ身体を起こした。


 足を床につけた瞬間、膝が崩れた。


「……っ!」


 ミレーヌが、慌てて支えてくれる。


 私は、彼女の肩にしがみついた。


 肺いっぱいに空気を吸う。


 胸が痛い。


 喉が焼けるように熱い。


 それでも。


 生きている。


「……ミレーヌ……」


 かすれた声が出た。


 彼女は、泣きながら笑った。


「はい……はい、奥様……!」


 私は、彼女を抱きしめた。


「……ありがとう……」


 ミレーヌは、何度も首を振った。


「まだです。まだ、終わっておりません」


 その言葉で、私は我に返った。


 そうだ。


 ここから出なければ。


 自由になるために。


 *


「……でも、この棺は……」


 私は、振り返った。


 透明な氷晶石の棺。


 中には、もう誰もいない。


 もしクロード様が棺を開ければ、すぐに気づかれてしまう。


 ミレーヌは、うなずいた。


「……そのために、用意してきたものがございます」


 彼女は、足元に置いていた布包みを開いた。


 中には、人の形をした白い人形があった。


 顔も髪もない、滑らかな表面。


 まるで、白い蝋で作られたようだった。


「……これは?」


「葬送用の形代です」


 私は、目を見開いた。


「形代……?」


「古い葬送術に使われていた魔導具です。亡くなった方の姿を写し、棺に納めるためのものだそうです」


 ミレーヌは、人形を持ち上げた。


「以前、葬儀職人の方に相談した際、こうした魔導具があると教えていただきました」


 彼女は、声を潜めた。


「昔は、遺体を長く安置できない場合や、遠方で亡くなった方を弔う際に、形代を用いることがあったそうです」


「……でも、葬儀は延期されたのでしょう?」


「はい。実は、職人の方が念のため持参してくださっていたのです。正式な葬儀ができるかもわからない状況でしたから」


 ミレーヌは、人形を見つめた。


「お帰りになる前に、葬送の準備に使うものとして、譲っていただきました。職人の方は、私たちの計画をご存じありません」


 私は、ほっと息をついた。


 少なくとも、あの方を巻き込まずに済んだのだ。


 けれど、ひとつ疑問が残った。


「……そんなもので、クロード様を欺けるの?」


 ミレーヌは、首を横に振った。


「完全には無理だと思います」


 その答えは、あまりにも正直だった。


「形代は、姿を写すことはできますが、魔力の波長までは再現できません。詳しく調べられれば、偽物だとわかってしまいます」


「……それなら……」


「ですが、棺を空にしておくよりは、時間を稼げます」


 ミレーヌは、私を見つめた。


「閣下は、誰にも棺を開けさせないよう命じておられます。封印を元に戻せば、しばらくは確かめられないはずです」


 私は、息を呑んだ。


 クロード様が、誰にも触れさせない。


 そのことが、今だけは私たちを助けてくれるのかもしれない。


 ミレーヌは、形代を棺の中へ横たえた。


「奥様。少しだけ、魔力を分けていただけますか」


 私は、うなずいた。


 彼女に導かれるまま、人形の額に触れる。


 薬の影響が残っているせいか、魔力を集めるだけでもひどく疲れた。


 それでも、指先からかすかな温もりが流れ出した。


 次の瞬間。


 白い人形が、淡い光に包まれた。


 輪郭が変わる。


 髪が伸びる。


 顔が形作られる。


 やがて、そこには。


 私が、横たわっていた。


 銀色の髪。


 白い頬。


 閉じられた瞼。


 私は、息を呑んだ。


「……まるで、本当に……」


「はい」


 ミレーヌは、静かにうなずいた。


「ですが、あくまで外見だけです。長くは欺けません」


 私は、棺の中の自分を見つめた。


 奇妙な気分だった。


 死んだ自分が、そこにいる。


 けれど、本当の私は生きている。


 私は、そっと目を閉じた。


 さようなら。


 大公妃セリア。


 あなたは、ここで眠っていて。


 私は、これから生きていくから。


 *


 ミレーヌは、棺の蓋を閉じた。


 銀の鍵を回すと、青白い魔法陣が再び輝き始めた。


 点検のために緩められていた術式が、元の状態へ戻っていく。


 けれど、その光は、先ほどよりわずかに不安定に揺れていた。


 ミレーヌは、それを見て唇を噛んだ。


「……補助鍵を使った記録は、術式に残るそうです」


 私は、彼女を見た。


「……では、すぐに……」


「はい。魔術師が点検すれば、誰かが棺を開けたとわかります」


 私は、胸の奥が冷たくなるのを感じた。


 時間がない。


 ミレーヌは、私の肩に外套をかけた。


「……参りましょう」


 私は、うなずいた。


 けれど、彼女が向かったのは、霊廟の正面扉ではなかった。


 奥に並ぶ古い石棺の、そのさらに向こう。


 壁際に、小さな鉄扉があった。


「……こちらです」


 ミレーヌは、扉の前で足を止めた。


「覚えていらっしゃいますか。以前、葬儀職人の方が、古い礼拝堂には使われなくなった葬送用の通路が残っていると教えてくださったことを」


 私は、うなずいた。


 計画を立てていたとき、確かに聞いた話だった。


「この霊廟は、昔の礼拝堂の地下に造られております。棺がこちらへ運ばれたときに、古い見取り図を確かめました」


 ミレーヌは、鉄扉に手をかけた。


「葬送用の通路は、霊廟の奥から敷地の外へ続いているそうです」


「……通れるの?」


「昨日のうちに、入口だけは確かめました。ですが、出口まで安全に通れるかは、まだ……」


 ミレーヌの声が曇った。


 私は、彼女の手にそっと触れた。


「……行きましょう」


 彼女は、私を見た。


「奥様……」


「ここにいても、助からないもの」


 私は、微笑んだ。


「それなら、前へ進みたいわ」


 ミレーヌは、深くうなずいた。


 鉄扉が、重い音を立てて開いた。


 *


 通路は、ひどく狭かった。


 壁には湿った苔が生え、足元には長い年月をかけて積もった土埃が残っている。


 ミレーヌが持つ小さな魔導灯だけが、暗闇を照らしていた。


 私は、彼女の肩を借りながら、一歩ずつ進んだ。


 三日間も眠っていた身体は、まだ思うように動かない。


 足元がふらつく。


 胸も苦しい。


 何度も立ち止まりたくなった。


 けれど、そのたびにミレーヌが支えてくれた。


「……少し、お休みになりますか」


「いいえ……大丈夫」


 私は、首を振った。


 大丈夫ではなかった。


 それでも、止まるわけにはいかなかった。


 どれほど歩いただろう。


 やがて、通路の先に古い石段が現れた。


 その上には、木製の扉があった。


 ミレーヌが、慎重に扉を押す。


 ぎい、と小さな音がした。


 冷たい風が、頬を撫でた。


 草の匂い。


 湿った土の匂い。


 そして、遠くで鳴く虫の声。


 私は、息を呑んだ。


 外だ。


 私たちは、屋敷の敷地を囲む古い外壁の向こう側へ出ていた。


 目の前には、夜の森が広がっている。


 私は、ゆっくりと空を見上げた。


 満天の星が、広がっていた。


 こんなに綺麗な夜空を見たのは、いつ以来だろう。


 私は、しばらく動けなかった。


 ミレーヌが、隣で小さく笑った。


「……奥様?」


 私は、首を振った。


「……ごめんなさい」


 そして、微笑んだ。


「少しだけ、空を見ていたかったの」


 ミレーヌは、何も言わずに待ってくれた。


 私は、夜空を見上げた。


 もう、誰の許可もいらない。


 空を見ることも。


 花を育てることも。


 自分の人生を選ぶことも。


 私は、そっと胸に手を当てた。


 心臓が、動いている。


 確かに、生きている。


 私は、生きているのだ。


 その事実が、何よりも嬉しかった。


 けれど。


 そのとき、遠くから鐘の音が響いた。


 大公邸の方角だった。


 ミレーヌの顔が、強張った。


「……警備の交代です」


 私は、彼女を見た。


「……もう、時間なのね」


「はい。次の巡回が始まれば、霊廟の異変に気づかれるかもしれません」


 私は、うなずいた。


 名残惜しさを振り切り、歩き始める。


 夜の闇の向こうに、小さな荷馬車が待っていた。


 御者が、静かに帽子を取る。


 ミレーヌは、私を支えながら荷馬車へ近づいた。


「お願いしていた荷物の運搬です」


 御者は、私の顔をちらりと見たが、何も尋ねなかった。


 彼は、ミレーヌが前もって雇っておいた男だった。


 私たちの詳しい事情を知らない。


 ただ、夜のうちに二人の女性を街道まで運ぶよう頼まれているだけなのだろう。


 私は、最後に一度だけ振り返った。


 遠くに、大公邸の屋根が見えた。


 三年間、私が暮らした場所。


 愛されることを願い続けた場所。


 そして、何も望まなくなった場所。


 私は、ゆっくりと目を閉じた。


 さようなら。


 クロード様。


 どうか、私のことは忘れてください。


 あなたの人生に、私はもう必要ありません。


 そして。


 私の人生にも、あなたはもう必要ないのです。


 私は、荷馬車に乗り込んだ。


 ミレーヌも、その隣に腰を下ろした。


 車輪が、静かに動き始める。


 夜の闇が、私たちを包み込んだ。


 私は、外套の襟を握りしめた。


 怖くないわけではない。


 これから先、何が待っているのかもわからない。


 それでも。


 私は、初めて自分の意思で未来へ向かっていた。


 墓の中で、私は目を覚ました。



 そして、今。


 私は、ようやく生き始めるのだ。



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