第7話 返り討ち
森の奥に着くまでに、何回かゴブリンと戦った。
戦闘はバンズとダルクに任せて、私は周囲を警戒しているだけにした。
バンズもダルクも、上手く実力を隠しながら戦いを長引かせて、やっと倒せたという演技をしている。
数回そういった戦いを繰り返していると、いつの間にか森の中頃を過ぎていた。
私はバンズに近寄って、
「次にゴブリンと出会ったら、どちらかが怪我をしたフリをして。手当をしているところを襲ってくるに違いないから」
と囁いた。
実際のところ、私たちをつけて来た4人組は、私たちとの距離を詰めて来ている。
もう、何かきっかけさえあれば襲いかかる気満々だ。
前方の薮に3匹のゴブリンが潜んでいた。
私たちを待ち伏せしているようだ。
『ここで仕掛けて』と、念話で指示を出す。
バンズたちは、剣を振り上げてゴブリンに駆け寄り、ゴブリンの棍棒と打ち合う芝居を始める。1匹がバンズたちの横を抜けて私を目掛けて駆けて来る。
私は慌てたフリをして剣を抜いて、わざとへっぴり腰で剣を構える。
そしてゴブリンが目をぎらつかせて振り下ろす棍棒から、「キャー」と悲鳴を上げながら逃げ回る。
「くそっ、待ってろよ。今助けに行く」
バンズが、私に駆け寄ろうとして、敵に背中を向けて、ゴブリンの棍棒を背中に受けるという小芝居を演じた。
「痛ぇ〜」
バンズが大袈裟に痛がって前のめりに転がる。
私は私で、「キャー」「キャー」と悲鳴を上げては、ゴブリンの棍棒から逃げ回る。
その様子を見ながら50メートルぐらいまで近付いて来ていたゲイブスたちは、今がチャンスと考えて、隠れていた茂みから飛び出した。
「今、助かるぞ」と言いながら腰から剣を抜いて振りかぶって、こちらに走って来る。
『誰を助けるかって?ゴブリンを助けるのに決まってるじゃね〜か』
とゲイブスは内心でせせら笑いながら、女とゴブリンの方に駆け寄って行く。
そして、ゴブリンに向かうと見せかけて、急に向きを変えて、女に向かって剣を振り下ろした。
そうくるだろうと読んでいた私は、「キャー」と悲鳴を上げて転ぶフリをしながら、ゲイブスの太腿に斬り付けた。
「えっ」
ゲイブスは、何が起こったのか分からずに、その場で硬直したが、直後にバンズに背中を斬り裂さかれて前に倒れた。
ゲイブスの後ろから駆けて来たポイズンスネークの面々も、続けてバンズとダルクに倒された。
生き残っているのは、最初から戦っていたゴブリン3匹だけだった。
その3匹も、バンズとダルクが、あっという間に始末した。
ポイズンスネークの死体は、証拠隠滅のために収納に回収しておいた。
今回、私は誰も殺していないので、何のスキルもドレインしていない。こんなクズからスキルをドレインするなんて虫唾が走るところだったので、始末を買って出てくれたバンズたちに感謝だ。
そろそろ街に帰ろうかと思ったとき、バンズから提案があった。
「イヴ様、私たちのような者をもっと増やしませんか?」
「増やしてどうするの?」
「イヴ様の配下が増えれば、こんなゴミみたいな奴を、あらかじめ排除出来ます」
「ゴミなんか気にしてないわよ。本当は、他に狙いがあるんじゃないの?」
と聞くと、
「傭兵団をつくりたいです」と言う。
「傭兵団?ダルクも賛成なの?」
するとダルクは、
「同じ気持ちです」
「傭兵団をつくって何をするの?」
「イブ様は、きっとそのうちに貴族に目を付けられると思います」
「嫌なことを言うわね。理由を聞かせてもらえる」
「まずは、その美貌です。貴族の目に留まれば、必ずちょっかいをかけてくるでしょう。次に、その強さとスキルです。これも、貴族に知られたら厄介なことになるでしょう」
「う〜ん。それじゃ、私もエヴァみたいに顔を隠そうかしら。でも、私が貴族に絡まれたとして、傭兵団で何か出来るの?」
「暗殺が出来ます」と、珍しくダルクが口を開いた。
「ということは、暗殺傭兵団をつくるつもり?」
2人は返事をしなかったが、顔を見れば、答えは明らかだ。
「却下、却下よ。なにを物騒なことを考えているのよ」
「しかし、イヴ様、いずれ必要になりますよ」とダルク、
「いやに自信たっぶりね。根拠はあるの?」
「我らの望みは、イヴ様に国を持ってもらうことです」とバンズ。
「大きく出たわね。あなたたちは、もしかして、何処かの国に仕えていたの?」
と、当てずっぽうに聞くと、2人とも首を縦に振った。
そして2人とも私に向かって跪き、
「私は元は、今は亡きサルバリア王国の騎士でした。それが、流浪を重ねて盗賊に身を落としていましたが、イヴ様に救われました」とバンズ。
「私は、モネリア王国のある貴族の暗殺部隊におりましたが、モネリア王国は数年前に滅ぼされ、私もバンズ殿と同じように流浪を重ねて、この国の盗賊団に身を潜めておりました」とダルク。
「よりによって、困った経歴を持っていた者を蘇生させたものだわね。あなたたち、今の話は、他所でしてはダメよ。秘密にしておきなさい。それと、何故、跪いているの?」
「我が主に忠誠を誓います」と言って、バンズとダルクは揃って、自分の剣先を自分の胸に当て、剣の柄を私に向けて差し出した。
これは騎士の誓い。騎士の忠誠を受け入れない場合は、剣をそのまま押し込んで自分を殺してくれという、死の覚悟を示す姿勢だと聞いたことがある。
『私は現代人なんだから、そんな中世の騎士道みたいなことをされても困るんだけどなあ』と思いながらも、口に出すわけにはいかず、剣の柄を取って、それぞれの剣の腹で、バンズの肩とダルクの肩を叩いて、2人に剣を返した。
「「イヴ様、この命、如何ようにもお使いください」」と、2人は声を揃えた。




