第4話 エルセラムの街
正気を失ったままの2人を連れて森を歩くとなると、人手が足りない。
それに、女だけの4人では、他の冒険者パーティと出会ったときに舐められるので、殺した盗賊の中から善人に見えそうな男を2人選んで死者蘇生で生き返らせ、蘇生者支配で支配した。
死者蘇生は、死んで1日以内なら蘇生させることができるスキルだが、確実なのは死んで1〜2時間以内で、それ以降は時間が経つほどに、蘇生の成功率が落ちる。
この2人は殺してから2〜3時間しか経っていなかったので、蘇生は無事に成功し、掻き切った喉の傷も綺麗に治っていた。
しかし、蘇生させたままだと盗賊に逆戻りするだけなので、直ぐに蘇生者支配で支配しておいた。蘇生者支配は、洗脳と違って、自分の意思があり、自分で判断して行動出来るが、蘇生者支配を掛けた者に絶対的に服従するようになる。
キキーラとシルカの服は、エデンの園から持ち出した服を着せている。
私がキキーラと手を繋ぎ、エヴァがシルカと手を繋いで洞窟を出た。
エルセラムの街までは少し距離があるが、2人を連れて森の中を進んで行く。
2人は洗脳状態特有の虚な目をして、私たちに大人しく手を引かれて着いてくる。
先頭と殿に元盗賊の男を配置して進んでいく。
キキーラとシルカが、エルセラムの街に着くまでに正気に戻らないようなら、一度殺して、死者蘇生しなければならないかもしれない。だけど、それは絶対に成功すると言えない方法だから、できれば、徐々にでも正気を取り戻して欲しいと思う。
正気の状態なら彼女たちでもゴブリンぐらいなら倒せるだろうが、今の精神状態では、戦うことは出来ないだろう。
盗賊だった男たち2人は、ゴブリンの2〜3匹くらい蹴散らせる強さがあった。基本は、私たちのパーティに近寄る魔物は私とエヴァで排除出来るが、もしものときにはこの男たちが役に立ってくれるだろう。
3日掛けて森の中を進み、人目につかないところで街道に出た。
キキーラとシルカの容態は、少し快方しており、もう虚な眼をしていない。しかし、意思を感じるところまでは回復していない。
とはいえ、キキーラは剣を振ることが出来るようなっているので、元盗賊の男たちと別れて、女4人だけでエルセラムの街を目指すことにした。
元盗賊の男2人組には、私たちとは時間をずらして自分たちだけで街に入るように命令し、資金として盗賊から奪った金の一部を渡しておいた。
キキーラとシルカが、エルセラムの街のギルドに登録している冒険者だったということもあり、街にはすんなりと入ることが出来た。私とエヴァは入街税を取られたけれど。
そして、キキーラたちが泊まったことがあるという宿屋で4人部屋を取った。
4人で部屋に入って鍵を閉めて、やっとひと息つけた。
キキーラたちの洗脳は、徐々に弱くしていっているが、まだ解いてはいない。解いてしまうと、また泣き喚く恐れがあるので、様子を見ながら洗脳を弱めていくしかない。下手をしたら、正気を取り戻すまで、数ヶ月かかるかもしれない。
盗賊から奪った金がそれなりにあるので、直ぐに金欠になるわけでもない。数日は宿に籠って、キキーラたちの様子を見守っていた。
キキーラは日増しに正気を取り戻している。
だけどシルカの方が、正気に戻るのに、まだ時間がかかりそうだ。
そろそろ私も冒険者として活動したいので、エヴァには2人と一緒に宿にいてもらい、1人で冒険者ギルドにやって来た。
両開きの扉を開けてギルドの中に入ると、ホールに居た冒険者たちが一斉に振り返る。
中にはヒューと口笛を吹く者もいて、好奇の視線を浴びながら受付に向かった。
最初にエデンの園に転生した頃は、年齢は13歳で身長も140センチほどだったけれど、あれから2年が経ち、15歳になった今では、162〜163センチある。胸もお尻も大きくなった。
そんなことはさておき、今は、冒険者の登録に集中しなければ。
「今日は、どういったご用でしょうか?」
受付嬢が用件を聞いてくる。
「冒険者登録をしたいんですけど」
「畏まりました。それではこの用紙に必要な事項を記入して下さい。代筆を希望されますか?」と用紙を差し出してきた。
異言語理解のお陰で言葉は理解できるが、文字はどうかと思って用紙を見ると、文字が分かるが、自分の名前のスペルが分からないので、
「代筆をお願いします」と答えた、
「お名前は?」
「イヴです」
「イヴさんですね。年齢は?」
「15歳」とボソッと答えた。
「クラスはお持ちですか?」と聞かれたが、ジェネシスなんて訳の分からないことは言えないので、
「剣士です」と誤魔化す。
受付嬢はそれを書き込むと、
「少しお待ち下さい」と言って、用紙を持って奥に下がった。
暫くすると受付嬢は戻って来て、金属で出来たプレートを差し出した、そのプレートには早くも私の名前が刻まれていた。
「これが冒険者タグです。最初はFランクからです。冒険者として実績を積み、ギルドへの貢献度を積んでいけば、次はEランクにアップ出来ます。依頼の受け方や報酬などについては、午後から、2階での初心者講習で説明しますので、それを受けて下さい」
「分かりました」と言って、一旦受付を離れた。
森の奥で倒した魔物は収納にたっぷり入っているが、ここで出すのは具合が悪いので、当分は死蔵かな。
そんなことを考えながら、依頼票が張り出してある依頼ボードに向かおうとすると、男たちに行く手を遮られた。
「嬢ちゃん、1人かい。俺たちのパーティに入らないかい?」
どうやら勧誘らしい。
改めて見ると20代そこそこの4人の冒険者たちで、下心が見え見えの奴らだった。
私がどうしたものかと思っていると、
「悩むことはないぜ。冒険者のことを、手取り足取り教えてやるよ」と先頭の男がニヤけながら私の腕を掴もうとするので、その左手を躱して、逆に、その手首を外側から掴んで手前に引くと同時に、足払いを掛けてやった。
すると男の下半身が宙に舞い、後頭部から床に突っ込んだ。
私に手首を掴まれたままだったので、受け身は全く取れていない。
「何をしやがる」と仲間の男たちが私を取り囲もうとしたが、その1人が後ろから頭を殴られて、ドサッと音を立てて倒れた。
残りの若い男たちが、慌てて後ろを振り返ると、目つきの悪い2人の男が短剣を抜いて、残りの2人の首筋に刃を押し付けながら、
「死にたいのか?」
と凄む。
私に絡もうとしていた若い男たちは、何が起きているのか分からないまま、目つきの悪い男たちの殺気に当てられて震えている。
「ギルド内で、剣を抜かないて下さい。登録を取り消しますよ」と受付嬢が叫んだ。
それを聞いた目つきの悪い男たちの1人が、
「仕方がねえな〜」と大袈裟に声を上げながら、短剣な刃を首から離す振りをして、柄で若い男の頬を横から突き上げた。
「グアッ」
若い男は、鈍い悲鳴を上げて、口から白い歯を撒き散らしながら蹲る。
「嬢ちゃん大丈夫かい」
と目つきの悪い男が私に声を掛けてくる。
絡まれた私を助けようとしたというアピールなのだろう。やり過ぎだけれど。
私は、
「ありがとう、助かったわ、お礼に一杯奢らせて」と2人をギルド内の酒場に誘った。
この2人は蘇生者支配したあの元盗賊だ。私たちがキキーラの介護で宿屋に籠っている間に冒険者になって、ギルドで私たちの到着を待っていたようだ。それで、若い冒険者に絡まれた私を助けるという、格好の機会を利用して、自然な形で私との繋がりを作ったようだ。
ギルドの酒場のテーブルに座りエールで乾杯する私たちを、他の冒険者たちは遠巻きにして眺めている。
仲裁の声を上げた受付嬢も、元盗賊たちが冒険者を叩きのめした手際の良さに、それ以上の追求が出来なかった、
「俺はバンズって言うんだ。よろしくな」
「俺はダルクだ。こんな綺麗な嬢ちゃんの力になれて嬉しいぜ」
「私は、イヴよ。助けてくれて有難う」
と、白々しいけど、初対面であるかのように言葉を交わす。
この元盗賊たちには、自分たちだけで街に入り、私と出会えるまで待機するように命令してあった。そして、街で会ったら、初対面を装うこと、名前をバンズとダルクに変えること、犯罪はしないことなども命じてあった。
この2人は他国からの流れ者で、この辺りの街に居たこともないし、盗賊になってからの日が浅く、たぶん誰にも顔を知られていないということから、街に潜り込ませることにしたのだ。
しかし、盗賊の中では善人に見えると思ったが、堅気の中に混ざると、なかなか凶悪な面構えをしている2人だった。
2人は、私の奢りでエールを飲んだ後、礼を言ってギルドから出て行った。
私は、そのまま軽い食事をしながら、午後の講習の時間を待った。
私に絡んできた4人の若者はいつの間にかいなくなっている。1人は、バンズに歯を何本も折られたし、多分、頬骨を骨折しているだろう。私が手首を引いて投げた男には、手首を掴んだときに尺骨骨にヒビを入れておいたから、当分は片手しか使えないだろうなぁ。まあ、これに懲りて、私にはもうちょっかいを掛けてこないだろう。




