第38話 燃え上がるカーミラの野心
カーミラは、私の想像以上に野心家だった。
しかも、その野心は、見栄や自尊心に基づくものではなく、生まれてからずっと辛酸を舐めてきた過酷な人生に裏打ちされたものであり、自分を踏みにじってきた者たちを見返さずにはおかないという怨念に裏打ちされたものだった。
カーミラは、エルセラムの街の壁外にある新市街地で娼婦の子として生まれた。
成長すると、当然のように娼婦になった。その間に、どれだけの涙を流したかは、敢えて忘れた。やがて、生まれつきの美貌と強かさから、娼館の女将にまで昇り詰めたところを、イヴに殺されて、蘇生者支配された。
しかし、このことが、カーミラにとって大きな転機となった。
イヴに蘇生されて、支配を受けた者は、自分の意志を失う者が多い。
にもかかわらず、カーミラは、非常に強固な自分の意志を持ち続けていた。否、それは意志というよりは、野心だった。
そして、その野心は、それを実現する手段を得て、大きく芽吹き出した。
その手段とは、イヴが与えた魅了スキルだった。
壁外の娼館の女将だったときは、人生の絶頂にいると思った。
大きな娼館を所有し、何十人という娼婦を抱え、毎日、大金を稼ぎ、得意の絶頂だった。
その生活を奪われたが、替わりに、新しい生活と役目を与えられた。その役目の一つが、王都のAクラス冒険者ブール・ケイオスを魅了スキルで籠絡せよというものだった。
そのために与えられた魅了スキルを、カーミラは、自分の野心のために使い始めた。
最初の犠牲者は、もちろんブール・ケイオスだった。次に、ブールの妹クラリスを魅了した。さらに、ドリップ商会の御曹司ランド・ドリップを魅了し、ドリップ商会の乗っ取りに邪魔になりそうな、ランドの姉のエメラルダにも魅了を使った。
カーミラが巧妙なところは、相手によって、魅了の強さを変えていることだった。
ブール・ケイオスやクラリス、ランド・ドリップやエメラルダ・ドリップには深い魅了を掛けているが、ブールが認可を申請するときの王都の認可院の役人、司法院の役人たちには軽い魅了で済ませている。
こうして魅了の強さを使い分けることで、人々は、カーミラのことを単に人気がある女性として見るだけで、魅了が使われているとは思いもしないことになる。
とはいえ、認可院のキーマン、司法院のキーマンとなる役人には、深い魅了を掛けて、必要があれば、役人を自由に動かせるようにもしている。
しかも、魅了を使って、男女を結び付けることで、カーミラ自身の周囲を、家族姻戚関係で固め始めているのも巧妙なところだ。
ブール・ケイオスがリーダーを務める王都のBランクパーティ「金翡の盾」は、今では、カーミラの専属護衛だ。だから、ブールがカーミラに、いつもベッタリとくっついていて、暗殺の心配はなくなっている。
ちなみにブールとクラリスは、私がスキルを付与して大幅に強化しているので、化け物のように強くなっている。
そして、カーミラは、クラリスに、宰相の息子を誘惑させており、側室になるのは時間の問題というところまで漕ぎつけており、これを、高位貴族への足掛かりとするつまりでもある。
さらに、子飼いの娼婦に魅了を掛けて洗脳し、やはり魅了で洗脳したランド・ドリップと結婚させて、ドリップ商会を乗っ取っている。さらに、ランドの姉であるエメラルダ・ドリップにも魅了をかけ、やはり魅了で洗脳した司法院の下級貴族と結婚させている。
その他にも、カーミラブール商会やランド商会の従業員の中から、器量がよく能力が高い娘を引き抜いて魅了で洗脳し、やはり魅了で洗脳した官庁街の役人や買収した商会の息子たちと、次々と結婚させている。
こうした婚姻戦略によって王都では、下級貴族を中心とする上層階級と、富裕商人を中心とする中層階級の間に、カーミラを中心とする人間の輪が出来上がりつつあった。
私も、セニアの姿で頻繁に王都に転移して、カーミラを手伝っており、夜には、ヒュプノスの力で、王都の貴族たちから情報を収集しつつ、カーミラの味方を増やすための夢の暗示に力を注いでいる。
これだけ並べれば、一見派手に活動しているようだが、カーミラとて、高位貴族や中位の有力貴族には、まだ手を出していない。
ただし、ブールは元々、この王国の宰相と繋がりがあり、妹のクラリスは、近いうちに宰相の身内になるだろう。
そして、これらの全ては、表立っての動きではないこともあって、上層階級である王族や高位貴族にとっては、取るに足りないこととして、まだ関心を持たれていない。
カーミラに勝るとも劣らない活躍をし始めたのが、エメラルダ・ドリップである。40を過ぎても独身だった彼女は、カーミラの魅了で洗脳されて、これも魅了で洗脳された司法院の下級貴族と結婚することで、司法院の威光と貴族としての立場を手に入れ、王都の中堅商会に過ぎなかったドリップ商会の地位を大きく引き上げた。
エルセラムの街の商業ギルドの理事会で、理事長グロイセンが震え上ったのは、エメラルダの夫が司法院の下級貴族だと知っていたからだ。
エメラルダは、エルセラムの商業ギルドからグロイセンを追い出した後、理事たちに請われて、新しい理事長に就任した。同時に、夜逃げしたグロイセン商会の資産と販路を司法院に接収させ、カーミラブール商会に払い下げた。
この動きの裏には、宰相の影がチラつき、領主でさえも口が出せなかったという。
その後、エルセラムのドリップ商会は、グロイセン商会の施設、販路、従業員を全て手に入れたカーミラブール商会を買収して、エルセラム最大の商会になった。
私は、カーミラの推薦を受けて、このエメラルダにも、スキルを付与して強化した。
思考加速Lv1
並列思考Lv1
視覚強化Lv1
聴覚強化Lv1
気配察知Lv1
警戒Lv1
危機感知Lv1
魔力感知Lv1
完全異常耐性Lv1
毒耐性Lv1
身体強化Lv1
怪力Lv1
剛体Lv1
皮膚筋肉硬化Lv1
俊敏Lv1
回避Lv1
豪拳瞬蹴Lv1
カーミラとの違いは、超回復と魅了を付与していないことだ。
これぐらい強化しておけば、もともと、胆力、魅力、才能に優れているだけに、カーミラに勝るとも劣らぬ人材になるだろう。




