第31話 外伝1 ベラリアの怪
バンズから、エルセラムの隣の街ベラリアの乗合馬車事業の買収について相談があった。
ベラリアの乗合馬車事業の免許状は、ベラリアの中堅の商会が持っていたが、ここでも、儲からない事業なので手放したいと思っていたということで、簡単に買収に応じたということだ。
ただし、御者と護衛を引き続き使うという付帯条件を付けてきたというのだ。
私は、その条件を呑んで、買収しろと命令した。
べラリアの街は、エルセラムの街よりかなり小さく、街壁は一辺2キロほどしかなく、人口も約1万人と少ない。
ミリデウス王国の都市は、街の性格によって、幾つかのタイプに分かれている。
一番大きいのはもちろん王都で、面積が約15キロ四方と例外的に大きく、人口も約20万人と多いが、その他の街は、領主の城がある大規模都市、領主はおらず代官だけを置いている中規模都市、代官すらおらず代官代理が置かれている小規模都市に分かれている。
大規模都市は、人口約5万人、街壁の大きさは約5キロ四方あり、エルセラムの街もこのうちの一つだ。
大規模都市には、街全体の4~5割の面積を占める貴族街区または上層街区と呼ばれる区域がある。そこには領主の城があり、城の規模は、庭園と付属の森も含めてほぼ2キロ四方あるのが普通で、高い壁で囲まれている。
その壁の外側には、領主の一族や血縁関係者、姻戚関係のある貴族の大きな敷地と豪邸があり、さらに、規模を小さくして、家臣たちとその一族の邸宅があり、厳重な警備の貴族街門を挟んで、平民以下の者が住む中層下層街区と接している。
そして、この上層街区と、中層下層区外をぐるりと石の壁が取り囲んでいる。
軍事拠点としての領主の城には、巨大な領主の居館と、別棟として、学校の校舎ほどもある大規模な兵舎があり、その他に、使用人の居住用別館、貯蔵庫や厩舎などの複数の施設がある。警戒は常に厳重であり、城門だけでなく、その内側に、さらに高い塀を巡らせた主城門を通らなければ、領主の居館のある敷地には辿り着けない。
中規模都市は、人口は約1万人、街の大きさは1キロ四方から3キロ四方ほどで、べラリアの街は、この中規模都市にあたる。
領主の代官が置かれ、貴族街区もあるが、領主の城やその周囲の豪邸に比べると、いずれも規模が小さい。中規模都市にもかかわらず、街の大きさが2キロ四方以上もある場合は、貴族の敷地が大きい場合だ。
小規模都市は、さらに小さく、人口も5千人を下回り、大きさも500メートル四方ほどしかない。代官代理が街を治めており、貴族街区もない。街によっては、貴族の別邸があるが、貴族の縁者が住んでいるだけのことが多く、人数も少ない。
王都とエルセラムの間には、このような大小様々な都市が9つある。その中で大規模都市は3つだけで、残りの6つは中規模都市か小規模都市だ。
ミリデウス王国では、街から街への交通として、乗合馬車が運営されている。
馬車は原則として、朝に出発して、夕方に次の街に着き、次の日の朝に折り返す。
そのために、これらの都市の間隔は、馬車が1日で進める距離、50キロ前後と定められている。
カーミラブール商会が買収したばかり乗合馬車事業の事務所は、べラリアの街の中央広場の南側に建っている。
そして、私はインビジブル化して、この乗合馬車事務所の上空まで来て、2階の執務室に転移した。今は夜なので、事務所は無人だった。
中央広場自体は、街全体の中央ではなく、中層下層地区の中央にあるため、街全体からみれば、南寄りの位置にある。
中央広場の北側にある冒険者ギルドとは、この乗合馬車事務所から300メートルも離れていない。
この事務所からでも、ギルドの内部を空間透視できる。特に注意するのは、ギルドマスターだ。しかし、ギルドマスターにも、カウンターでの受付にも、ホールの冒険者たちにも、不審な動きはない。
次に、500メートルまで伸びるデビルアイの視幹を4体繋いで、2キロの長さのデビルアイリレーを8方向に繰り出した。
もちろん、デビルアイはインビジブル化させている。
このデビルアイリレーの先端から、500メートル先まで空間透視が有効だから、半径2.5キロの範囲が、乗合馬車事務所に居ながら探索できる。
街の北側に広がる貴族街区も、南の貧民街と壁外のスラム、西側の商業区域や東側の職人区域も、空間透視で調べていく。
特に、貴族街と貧民街、スラムを、重点的に探索した。
興味を引かれたのは、あちこちにある地下室や地下通路だった。
迂闊なことに、エルセラムでは、街の規模が大きいこともあって、壁内の街のことを調べたことがなかった。
しかし、ベラリアでは、街の規模が小さい割に、やたらと多い地下通路を見つけたことで、街の地下に興味が湧いてきた。
特に、地下室に溜まっている奴らが面白い。
貴族の家や大きな商人の家には、隠し部屋や隠し通路が沢山あって、ところどころに、人が潜んでいる。最初は、侵入者かと思ったが、単に、その場所で待機しているようだった。
娼館の地下には、必ず地下室があって、ならず者たちが溜まっている。テーブルを囲んで何かの賭け事をしている奴らが多い。用心棒たちだろう。
壁内の貧民街から壁外のスラムは、地下通路で繋がっていた。
『壁内と壁外が、こんなに簡単に行き来できたら、門衛が居る意味がないわね』
その地下通路を見張っていると、数人の男たちが、一つの袋を担いで現れた。袋の中身は死体だった。壁外のスラムに向かって歩いている。
スラムでは、死体から怪しげな薬をつくる錬金術師や、死体を魔術の贄にしようとする魔法使いなどの外道の所業が日常的に行われている。
この死体を担いだ数人の男たちが、何処へ行くのか見張ることにした。




