第29話 冒険者ギルドの手は汚れていた
私は、バルバトスがアジトにしている、新市街地の大きな酒場の地下室に転移した。
「これはセニア様。お帰りなさいませ」
とバルバロスも、彼の執務室に転移で現れた私を見て、執務机から離れて、床に片膝を着いて礼をする。
「まず、座りましょう」と、私は言ってソファに対面して腰を掛ける。
「実は、乗合馬車で女を襲う犯罪グループがいて、バンズから、あなたのところに居るベレトという男が、何か知っているかもしれないって聞いて来たのだけど」
「ベレトですか?直ぐに呼びますので、少しお待ちください」
バルバトスは、そう言って、いったん部屋から出て行き、顏に入れ墨を入れた細いが筋肉質の男を連れて戻って来た。
「こいつは、ベレトという、地獄の揺り籠にいた元暗殺ギルドのメンバーです。おい、ベレト、乗合馬車で女を襲う話をお聞かせしろ」
「乗合馬車ですか、あれは女にとっては棺桶も同じです。一度乗ってしまえば、簡単に閉じ込めて、後はどうとでも出来ますから」
「その犯罪は、国中で行われているって聞いたんだけど」
「その通りです。国中で行われていますね」
「何故、今まで問題にならなかったの。とういか、そんな犯罪があるって誰も知らないのは何故?」
「それは、冒険者ギルドと乗合馬車事業の免許状を売っている領主が、隠蔽しているからです。乗合馬車の評判が悪くなると、乗合馬車の免許状の入札の値段が下がりますから、領主はそれを嫌っているのです。それに領主の中には、犯罪グループと通じていて、攫った女を上納させている者も少なくありません」
「何、それ?ということは。領主は、犯罪グループをわざと見逃しているわけ?」
「領主だけではありません。冒険者ギルドも犯罪グループと持ちつ持たれつでやっています」
「それは、どういうこと?」
「乗合馬車の護衛の依頼は毎日あって、しかも危険が少ないので、冒険者には人気の仕事です。ところが、護衛の仕事を引き受けると、直ぐに、仲間の冒険者や御者から、犯罪の誘いを受けます。これを断ると、もうその仕事が受けられないと思って冒険者のほとんどは、犯罪に加担します。断った冒険者は口封じのためにその場で殺されます。これが、国中で行われているわけですから、冒険者ギルドの耳に入らないわけがありません。考えてもみて下さい。乗合馬車の乗客者襲撃で共通しているのは、加害者の中に護衛が含まれていることです。しかも、それが、どの街でも当てはまります。そうなると、冒険者に護衛の仕事を紹介している冒険者ギルドが、乗合馬車で起きた失踪事件を把握していないはずがないでしょう」
「そう言われてみれば、その通りだわね」
「それと、事件が起きたとき、冒険者ギルドは、派遣した冒険者たちから事情聴取をしていたのか、ということもあります」
「続けて」
「おそらく、事情聴取なんてしていないでしょう。もし、事情聴取をしていたら、失踪事件が起きたときに護衛をしていた冒険者の証言に、何処かで矛盾が生まれて、勘のいいギルド職員ならその矛盾に気付くはずです。おそらく、これまでに、失踪人の捜索願いがギルドに持ち込まれたことは何度もあったに違いないはずです。それでも、この犯罪が発覚してこなかったのは、冒険者ギルドが、この犯罪を隠してきたからです」
「冒険者ギルドが何故そんなことをするの?乗り合い馬車で女が1人になったところを襲う、そんな金にならないことに冒険者ギルドが手を貸している意味が分からないんだけど」
「隠しているというよりは、わざと見逃しているといったところでしょうね。多くの冒険者ギルドは、犯罪グループから賄賂をもらっているとも聞いています。しかも、この犯罪を摘発すると、ギルドに加入している多くの冒険者が対象になりますから、摘発すると、冒険者ギルドにとっても、かなり具合が悪いことになります」
「う~ん、腐っているわね。それでは、冒険者ギルドも、犯罪ギルドの一味のようなものじゃない」
「冒険者ギルドは、いろんな犯罪に目を瞑ります。冒険者ギルドが犯罪に関わっている場合は、暗殺ギルドよりたちが悪いと言われています」
「どいうこと?」
「冒険者ギルドは、国の治安維持の仕事もしています。その見返りとして、冒険者ギルドが犯罪に関与しても、領主や国は目を瞑るという暗黙の了解があります。ほとんどの冒険者ギルドが、犯罪ギルドの顔を持っているというのは、暗殺ギルドの構成メンバーの間では常識です」
「よくそんなことがまかり通っているわね」
「腐敗した組織というのはそんなものです」
「乗合馬車の犯罪だけでも撲滅したいんだけど」
「乗合馬車の犯罪は、冒険者ギルドだけじゃなくて、御者組合や免許状を発行している領主も絡んでいたりしますから、叩いても叩いても無くならないと思いますよ」
とベレトに忠告された。
確かに昔の日本では、二足の草鞋といって、裏社会の親分が十手持ちを兼業していたこともあるくらいだから、この世界でも、冒険者ギルドの二足の草鞋は、十分にあり得ることだ。
ベレトの言葉は、大いに参考になった。まさか冒険者ギルドが犯罪を隠蔽している当事者だとは思わなかった。
ラノベの影響もあって、冒険者ギルドは善意の団体だと無意識に信じていたからね。だけど、今回の乗合馬車の犯罪の件では、護衛を派遣している冒険者ギルドは、最初から疑わなければいけなかったのだ。
しかし、この世界は、力が無い者は踏み躙られるだけという理不尽が、まかり通りすぎだよ。




