第27話 乗合馬車は女の敵
王都からエルセラムのような遠方の街へは、乗合馬車が出ているという。
1日に1便しかなく、定員は10名。
交通手段としては、利用できる人数が少なすぎるが、自らの武力もなく、護衛を雇う金もないにも関わらず、何らかの理由で他の街に用事がある人は、乗合馬車に頼るしかく、乗車券売り場の前には、乗車券を手に入れるために何日も前から並んでいる人も珍というしくない。
この乗合馬車の乗車券が買えなかった人たちは、商人たちのキャラバンに多めの金を積んで徒歩でついて行くというのが慣例のようだ。キャラバンには護衛がいるので、商人の馬車と一緒に護ってもらうことが出来る。これでも、単独で護衛を雇うよりも、かなり割安だそうだ。
普通の冒険者であることの心地よさを、もう少し味わっていたかった私は、王都をから出る乗り合い馬車に、観光気分で乗り込んだ。
王都から、この国の南東の国境にあるエルセラムまで9泊、途中にある街に泊まりながらの道中になるとのことだ。
この国では、街と街の距離は、馬車で朝に出発すれば、夕方には着く距離と決まっているそうで、約50キロのようだ。
馬車には、私の後から乗り込んで来る者も多く、10人の乗客を乗せたところで出発した。
こんな大勢が乗り込んでも、馬車を引く馬は1頭のみ。もっとも、地球の馬より格段に大きく、犀のような角も付いてる。
馬車には、乗客の他に、御者と護衛が3人乗っている。出発前に護衛についての説明があった。
皆、私と同じCランクだそうだ。冒険者になって数年経った冒険者は、ほとんどCランクなので、Cランクの人数は多い。
さて、ガタゴトと馬車が進んでいく。
乗客は、馬車の側板を背にした横長の座席に、5人ずつ向かい合って座っている。
私の右隣が農夫のようなお爺さん。左隣はまだ少年といっていい冒険者。正面には、幼児を膝の上に抱えた若い夫婦。乗客の中で、女は、私と、正面の若い奥さんだけだ。それ以外は、皆、男だ。冒険者の3人も男だ。
一番後の席は、乗客の席ではなく、護衛が向かい合って座っている。何かあれば、直ぐに馬車から降りて対応出来る位置に居る。もう1人の護衛は、御者の隣に座って前方を警戒している。
馬車の揺れは激しい。座席はただの木の板なので、振動が堪える。
そんな揺れでも、現地人は逞しく、正面の座席の幼児が私をじっと見ているので、小さく手を振ってやると。無邪気に笑った。
馬車の中では、誰も喋らない。下手に喋ると舌を噛むからだ。
それどころか、座席になっている木の板をしっかり掴んでいないと、隣りの人にぶつかったり、座席の前に落ちてしまいそうになる。
それほどに揺れる。正面の幼児も、母親が膝の上にしっかり抱え込んでいる。
早朝に王都を出て、昼飯は無しで、夕方まで進み、一つ目の宿泊地であるアンテノンの街に着いた。
この世界の人は、昼飯の習慣がない。朝と夕の2食だけだ。
だから乗り合い馬車は、朝に街を出ると次の街に着くまで、用足しのために何回か小休止するだけだ。
アンテノンの街では、乗り合い馬車が契約している宿屋に泊まったが、翌朝、別の馬車に乗り換えることになった。
どういうことかと御者に尋ねると、乗合馬車には担当エリアがあって、次の街までしか行かないそうだ。
つまり、最初に乗った乗合馬車は、王都とアンテノンの間を往復するだけで先には進まず、アンテノンから先に行く乗客は、アンテノンから次の街ユルスクの間を往復する乗合馬車に引き継がれるということだった。
私の目の前で、王都から乗って来た乗合馬車が、新しい客を乗せて王都に向けて出発した。
そして私は、次の街ユルスクに行く乗合馬車に乗り込んだ。
正面の席にいた子連れの若夫婦は降りて居なくなり、替わりに2人の男の農夫が座った。よく見れば、私以外の客は全て入れ替わっており、女の客は私1人だけになった。
あの幼児が可愛かったなと想いに浸っていると、馬車が急停車し、右隣の老人が、慣性を利用して私を押し倒してきた。
そして、それを合図に、乗客の皆が私に襲い掛かってきた。
まぁ、私からすれば、何ほどのこともないことなので、睡眠魔法で御者を含めて全員を眠らせた。
さて、催眠魔法を使って尋問すると、この乗合馬車に乗っているのは御者も含めて、全員が女を襲う犯罪者グループだった。
ここ数年で、20人以上を襲ったということで、襲った女は男たちが楽しんだ後、闇の奴隷商に売り飛ばすか、殺したということだった。
詳しく聞くと、この乗り合い馬車の沿線の街ごとに犯罪グループがいるだけでなく、王都から出る乗り合い馬車の全ての沿線に、同じような犯罪グループがいるということだった。
驚くことは、その手口の狡猾さだった。
乗り合い馬車と御者と冒険者は、街ごとに替わり、乗客たちは、街から街へとリレーして運ばれていくことになる。
犯罪グループは、ここに目を付けた。
被害者は、乗合馬車に乗った次の街までは襲われない。次の街が目的地だった場合、何処で行方不明になったか分かるためだ。
つまり被害者は、1つ目の宿泊地を出ても、乗り合い馬車に乗り続けていた場合に限って襲われる。
犯罪グループは、継続して乗っている獲物が居ると分かったら、乗客をごっそり入れ替える。そして、途中で馬車を急停車させて、乗客に扮している誰かがつんのめった振りをして獲物に襲いかかる。獲物は若い女だから抵抗できずに押し倒される。後は、集団で暴行する。獲物と一緒に馬車を乗り継ぐ乗客が居たら、それも、獲物と一緒に始末する。
聞き出したのは、だいたいこんな感じだった。
これらの犯罪は、ことごとく被害者が旅の途中で行方不明になっているので、犯罪があったこと自体が発覚していない。
仮りに、行方不明になった被害者が到着するのを待っている人が居て、どこそこの街から乗った筈だと主張しても、御者も冒険者も、そんな人物は、知らないと言い張れる状況をつくり上げているのだ。
それで私も、1つ目の宿泊地を出た後で襲われたわけだ、
何とも、巧妙で大掛かりな仕掛けだが、その割に得るものが少ないと思うのだが。そこまでして女を襲いたいのかと思うと、鳥肌が立った。




