第26話 後悔先に立たず
私が臨時パーティに入った金翡の盾のオーク狩りは、成果を上げ続け、他のパーティから羨む声が上がっていた。
こうなると、私が最初にエルセラムでやったことは何だったのかと疑問に思い始めた。
最初に出会ったこの世界の住人は、盗賊と盗賊に廃人寸前まで追い込まれた2人の少女だった。
そもそも、そのときから歯車が狂っている。
それから最初の街で冒険者ギルドに登録したときに絡んできた冒険者が、逆恨みして、私を殺しにきたので返り討ちにした。
そこから、一気に歯車が狂い始めた気がする。
きっと、この世界が危険過ぎたので、過剰反応していたんだろうな。自分を護る軍団をつくろうなんて思ってしまって。
それが、カーミラとブールを配下にすることに繋がった。
ところが、そのブールの仲間に囲まれて、今は、とても満たされている。
最初に、こういう出会いがあったら、私の辿った道も、随分違ったんだろうな。
とはいっても、ブールが死んだのは事故だし、蘇生した以上は支配しておかなければ、自分に危険が及ぶ。
やはり、根底にあるのはこの世界の危険さなのだろう。そして私には、防衛する力があったから、それを使ったまでだ。
力のない者と私を同じ天秤で量ることは出来ない。
そこまで考えて、そうだ、要は天秤なんだと私は思った。
人生には岐路がある。
選んだ道と、あり得た道、人生はそこで分岐する。
そして、道を選んだ基準は、天秤がどちらに傾いたかだろう。その都度、天秤の傾いた方を選んで、選び続けて今がある。
例えば、盗賊をそのまま活かしておくリスクと、蘇生して支配してするリスク、そのどちらに天秤が傾いたのか、私は、リスクが少ない方と考えて、蘇生して支配することを選んだ。カーミラにしてもそうだ。ブールにしてもそうだ。
だけど、今、金翡の盾のメンバーと臨時パーティを組んでいるのは、この世界の危険さに追われていないからだ。きっと私は、この世界で初めて、天秤が軽い方を選んだのだ。
いままで、ホラーとスプラッターから逃げ惑うドラマだったのが、いきなり、幸せなホームドラマになったようなものだ。
どちらが真実なのか?どちらの現実を信じたら良いのか?
そんなことは、分かっている、
ホームドラマは、束の間の夢でしかない。ホラーとスプラッターに追い回される。それが、この世界の本質だ。
だが、もう少しだけ、このホームドラマに浸っていたい。甘いと言われようとも。
そんなことを考えて、その夜は、涙が止まらなかった。弱いな私は・・・。
翌朝、泣き腫らして真っ赤な目にヒールを掛けて、治す。
そういえば、金翡の盾の仲間には、私がヒールを使えることを言っていなかった、
切羽詰まって使わないといけないときが来るかもしれないから、今のうちに伝えておこう。
ああ〜、人付き合いは面倒だ。
そんな、愚痴を溢しながら、『これって贅沢なこと言っているかな?』と自問自答してしまう。
服を着て装備を付けて、部屋を出る、食堂がある1階に降りると、アニタがもう朝食を食べている。
「おはよう」
「おはよう」
挨拶を交わしながら、アニタの横に座って、朝食が運ばれて来るのを待つ。
「みんなはまだなのね」
「直ぐに起きてくるよ。きっと」
と言いながらパンを頬張るアニタ。
私の席にも朝食が運ばれて来たので、さっそくパンを千切って口に入れる。そのあとからオートミール風のミルクスープをスプーンで掬って、口に入れる。口の中でパンが柔らかくなって食べやすい。
そんな長閑な朝を楽しんでいると、2階から男連中が降りて来た。
「相変わらず早いな、2人は」
「誰かさんみたいに、夜遅くまで飲んでませんからね」
カーゴとアニタが、いつもの軽口を叩き合う。
幸せな時間だ。いつまでも続いて欲しいな。
そんな穏やかな日々が突然終わった。
ブールたちが王都に帰って来たのだ。
カミーラとクラリスも一緒だ。
アニタが妙に思ったのは、カーミラとクラリスが仲良くしていることだ。
あれ、クラリスはカーミラを嫌っていた筈なのに?。アニタだけ、そんな思いが頭の片隅に閃いたが、カーゴとテオドールには、そんな女心の機微は分からないので、クラリスは兄のブールが恋しくて追いかけたと今でも思い込んでいる。
ブールとカーミラには、あらかじめ念話で、私が金翡の盾の臨時メンバーになっていること、クラリスが復帰したら、私は臨時パーティを解消して王都を出ていくことを伝えてある。
ブールとクラリスは、揃ってギルドに入って来た。そして兄妹で受付に行って、護衛の任務終了を報告し、書類の手続きと精算をしている。
ブールはカーミラからの指名依頼で動いていた体裁にしていたようだ。そして、クラリスも途中からその任務に加わったことにしたようだ。依頼人のカーミラとグルだから、体裁はなんとでもなる。
そして、私は、ブールとクラリスに挨拶をし、2人からお礼を言われ、こちらもお礼を言って、最後は、カーミラブール商会が経営するレストランでお別れ会を開いてもらい、私の幸せな時間にピリオドが打たれた。
クラリスはパーティに復帰し、ブールも、暫くは金翡の盾のメンバーとして活動すると言っていたが、心ここにあらずの私は、聞き流していた。
クラリスがカーミラの魅了にかかっているのは、一目で分かったからだ。やっぱり私は、幸せを壊して回っている。
クラリスには、いずれ魅了が解けても問題がない日が来ることを祈っておこう。罪悪感は感じないが、寂しくはあった。後悔先に立たずとは、よく言ったものだ。
さて、そろそろ、ほったらかしにしていたエヴァのところに帰るとしよう。




