第20話 壁内進出
カーミラは、思考加速と並列思考のスキルを与えた事で、才能が開花した。
元々有能だったのだろうが、経営者としての有能さをハッキリ示し始めた。
金を増やしてみせるから資金を貸せというから、まとまった金を貸し与えたところ、商会を立ち上げて、瞬くうちに新市街地の物流を支配するようになった。ここまでなら、特に驚くことはない。新市街地の暴力面は、もう私の支配下にあるからだ。
ところがカーミラは、娼館に来る客の伝から壁内の商売にも手を伸ばし、壁内の小さな小売商を数店、傘下に収めた。そのようにして壁内に足場を築くと、進出速度を早めた。
寂れた娼館の一つを手に入れて、瞬く間に、人気店にし、その客の伝で、仲卸業の足場を築き、中堅の仲卸業者を乗っ取ってしまった。
その間、私は何をしていたかというと、カーミラによく似た顔に変身し、従姉妹のセニアと名乗って、カーミラの秘書兼護衛をしている。
カーミラの暗殺者は後を絶たず、手口も巧妙になっていくので、下手な人材では、護衛が務まらなくなってきたのも私が直接護衛をしている理由だ。
だから、私は、カーミラと四六時中一緒にいる。
冒険者としての活動は、カーミラの護衛が忙しくなったので辞めている。その分、カーミラの仕事を見て、経営者の仕事を学んでいる方が面白い。
カーミラは金髪で翡翠色の目だが、私は栗色の髪に茶色の目をしており、髪と目の色で一目で見分けがつくようにしている。顔立ちも少し変えており、カーミラは華やかさのある美人だが、私の顔は美しさで少し劣り、地味で目立たない雰囲気にしている。
背の高さとスタイルは、ほぼ同じにしている。これは暗殺を防ぐ目的があり、私が影武者を務めるときのためだ。そのため、服装もいつもお揃いだ。
壁内で手に入れた仲卸し業者は、早々に、カーミラ商会と看板を掛け替え、3階建ての商館の2皆がカーミラの執務室で、3階が私とカーミラの居室になっている。
この建物の天井裏や屋根の上をはじめ、周囲の建物の屋根には35体のデビルアイが潜んでおり周囲を監視している。
3階には、私たちの他に、奴隷の少女を2人住まわせている。
料理と掃除、日々の生活に必要な買い物をしてもらうためだ。
カーミラの商売に、貴族の後ろ盾にを持つ商人との取引が混じるようになってきた。
貴族の後ろ盾がある商人は横柄で、カーミラを見下しながら無理難題をふっかけてくる。
新市街地なら、殺すか脅せば解決するのだが、壁内ではそういうわけにはいかない。
そこで、ブールとの繋がりを活かすことにした。
ブールを王都から呼び寄せ、カーミラの娼館に遊びに行かせ、ブールがカーミラに一目惚れするという小芝居を演出した。そして、そのために、カーミラに魅了スキルを付与しておいた。
カーミラは素でも美人だが、思考加速や肉体強化系のスキルを付与してから、日に日に、知性や自信が内面から溢れ出るようになり、高位貴族か王族かと思わせるほどの気位の高さが醸し出されるようになった。
その上で魅了を使ったのだから、ブールは一目でカーミラの虜になり、その日のうちにカーミラに結婚を申し込んだ。
この結婚には、エルセラムの街の人々だけでなく王都の冒険者たちも驚いたというが、その結婚式でカーミラを初めて見た壁内の人々は、カーミラの雰囲気に圧倒されてその結婚に納得し、カーミラが元娼婦であり高年齢であることも、さほど問題にならなかった。
そして、この結婚を機にカーミラ商会は、名前をカーミラブール商会に改めた。
Aランク冒険者は、本人のみを対象として騎士爵に叙される。この地位は、本人は貴族と同等の扱いを受けるが、家族や子孫には影響が及ばない。
とはいえ、カーミラブール商会は、貴族が経営する商会となった上に、カーミラはブール・ケイオス騎士爵の正妻という立場を得た。
カーミラに横柄な態度を取ってきた商人たちは、いくら貴族の後ろ盾を持っていても、結局はただの平民に過ぎないので、カーミラの方が上の立場になった。
これまで威張っていた商人たちは、手のひらを返して、カーミラに平身低頭し始めた。
世の中というものは、実力だけではダメで、権威やら名声やら立場が無いとダメな場合が多いが、上流の階層の者ほどその傾向が強くなる。
元が壁外の娼館の女将でしかなかったカーミラには、権威も名声も立場もなかったから、ブールの権威と名声と立場を利用させてもらったというわけだ。
カーミラとブールが結婚したことは、このほかにも、カーミラに非常に大きな利益をもたらした。
平民と貴族の間には、絶望的なまでの差がある。
まず、官庁、つまり国への申請は、平民では出来ない。
だから、商人たちは、官庁の認可を申請するのに下級貴族に代理を頼むことになる。これは、下級貴族の結構な収入源になっている。
さて、この国では、商材を扱うのに、国の認可、つまり、官庁の認可が必要な商材がある。まず、穀物がそれに当たる。次に宝石、鉱石、石材、木材、さらに塩、馬、奴隷、薬剤、絹織物、綿織物などが、認可がなければ扱えない。認可なしに、商材を扱えば、下手をすると死罪になるというほど、それらの商材を扱う利権は保護されている。保護されているというより、高位貴族に囲い込まれていると言った方がいいだろう。
だから、それらの商材の流通は、高位貴族の後ろ盾を持っている大手の商人が独占している。
高位貴族の後ろ盾を持たない、ただの平民の商人が扱えるのは、日用品の販売など、利益が少ないものに限られている。ちなみに、服などの加工したものは、織物のうちに入らず、販売するのに認可は要らない。
貴族であるブールが官庁への認可を申請することができるカーミラブール商会は、下級貴族に代理を頼んでいる商会に対して、一気に有利な立場に躍り出た。




