第18話 ロッシム砦
新市街地の支配が落ち着いてきた頃、視幹の結合から離して盗賊の探索に放っていた10体のデビルアイの1体が、盗賊を見つけたと念話で連絡してきた。
私は直ぐにインビジブル化して、連絡してきたデビルアイの横に転移すると、眼下にあるのは砦だった。
転移してきたのはいいが、ここが何処か分からないので、上空に昇る。雲のはるか上から周囲を見ると、かなり遠方に街が見える。視覚強化を使って見ると、見覚えのある街並みから、それがエルセラムだと分かる。
この街は、デビルアイの視界で、いつも上空から見ていたので見間違うことはない。
そして、その右側に、エルセラムからかなり離れて、見たことのない街が見える。街の規模はエルセラムと、ほぼ同じようだ。
エルセラムはミリデウス王国の南東の端にある。すると、その右側にあるのは、隣国のサラマハム王国の南西の端の街ということになる。
するとここは、どちらかの国の砦の可能性があるが、暫く空中から観察すると、建物はちゃんとした砦なのだが、そこにいるのが軍人や兵士らしくない。顔も鎧も汚れたままで、壊れていても平気で身に付けている。しかも、武器や装備が統一されておらず、規律らしきものが感じられない。集団で一つの行動をしている節もない。
接近しても相手に悟られないように、幻影と隠密も使って、もっと近くから観察した。
近寄って観察すると、砦に居るのは軍隊ではなく、民兵を装っている盗賊らしく思えてきた。これ以上のことは、潜入してみないと分からない。仕方がないので、夜を待って砦の中に転移した。
砦の中の兵舎を空間透視して、盗賊たちが眠っている部屋に転移し、睡眠魔法を掛けて、盗賊たちをより深い睡眠に導く。その後、一番近くのベッドで横になっている男の足首を掴んで、砦の外に転移した。
砦から離れた場所に転移すると、男に催眠魔法を掛けて尋問した。
その結果分かったことは、ここはミリデウス王国と隣国のサラマンハム王国の国境の緩衝地域にあるロッシム砦で、理由は分からないが放棄されたらしい。そこに、いろいろな盗賊団が住み着いて、今では150人以上の盗賊の根城になっているそうだ。
砦内に、全体を纏める指導者はおらず、いくつかの盗賊団の勢力争いがあるという。
この砦が誰のものでもなければ、この砦が欲しいと思った。
砦から攫ってきた男を、心臓を範囲指定した氷魔法で即死させ、収納に入れると、さっきの部屋に転移した。
ここで、収納から朱雀蜘蛛を一体取り出して、蘇生支配し、この部屋に寝ている盗賊たちを殺させた。
朱雀蜘蛛は、眠っている盗賊の首を毒牙の一噛みで殺すと、次の犠牲者に向かっていく。1人につき2〜3秒、この部屋で眠っている20人ほどを殺すのに2分も掛からなかった。
その部屋の死体を収納に入れると、続けて、他の部屋を空間透視して、朱雀蜘蛛と一緒に転移し、その部屋の盗賊を朱雀蜘蛛に殺させて収納に入れいった。起きていた盗賊も、睡眠魔法で眠らせてから朱雀蜘蛛に殺させた。
瞬く間に、150人以上いた盗賊がいなくなり、砦の中は無人になった。
その後の砦の整備には時間が掛かった。
まず、砦には、至る所に隠し部屋や隠し通路があり、隠し部屋や地下室など何箇所にも分けて財産が隠されていたので、全て頂戴した。
その財産はかなりのもので、これで今後の活動資金は大丈夫だ。
次に、この砦は魔物たちの基地にするつもりなので、魔物を追加しておくことにした。
砦の外で、ケッツアル、腐蝕毒蛙、剣鎧大蜥蜴、炎帝狼、竜帝大蟻、鉱顎百足、雷皇熊、幻影獅子、腐死鳥、単眼大鬼を1体ずつ蘇生支配して、砦と砦の周囲を見張るように命令した。
さらに、砦の上空に、新しく蘇生支配して眷属化したデビルアイたちに、インビジブルと念話を付与して配置した。
また砦の中には、いくつかの魔法陣が描かれた場所があり、転移陣かもしれないので、魔法陣の上に眷属化した擬態スライムを被せた。これで、転移して来た奴は、擬態スライムという罠の中にとび込むことになる。
これだけの魔物の監視の目をすり抜けて、砦に辿り着ける奴がいるとは思えない。
エルセラムの街では、人間スタンピードに続いて、新しい問題が持ち上がっていた。
ことの起こりは、10日ほど前だ。トロールという深層の魔物が、サラマンハム王国との国境の緩衝地帯の森で目撃されたのだ。
オークやゴブリンの討伐に出たCランクやDランクのパーティが、大慌てで森から逃げ帰って来た。
エルセラムの街の冒険者ギルドは、すぐに緩衝地帯の森を立ち入り禁止にし、調査隊を出した。
しかし、その後、トロールは目撃されなくなり、森の安全は回復したかに思えた。
ところが3日前、緩衝地帯の森の中層でトロールの死体が見つかった。見つけた冒険者によると、死体は何者かによって食い散らかされていたという。
AランクどころかSランクとされるトロールの捕食者が森に居る。これは冒険者ギルドにとって悪夢のような出来事だった。
この情報を冒険者ギルドは公開せずに隠し、直ぐに国の宰相に報告した。もちろん、森の立ち入り禁止は解かないままだった。
ミリデウス王国の南東の端にあるエルセムラの街と、サラマンハム王国の南西の端にあるデラスの街の間には、国境の緩衝地帯があり、その真ん中に放棄された砦、ロッシム砦がある。
このロッシム砦の領有権を巡って、ミリデウス王国とサラマンハム王国は長い間争い続け、この砦の帰属は幾度となく変わってきた。
ロッシム砦は魔物が支配する森の深奥にあるため、この砦を領有しても、経済的にも領土的にも益はなかった。両国とも『ロッシム砦は我が領土だ』と主張したいがため、いわば、ただ面子だけを理由に、この砦の領有権を争っていたに過ぎない。
それが、ある時期から、この領地争いには益が無いという機運が高まり、遂に、両国ともに、ロッシム砦の領有を諦め、砦がある国境の一帯を緩衝地帯とする取り決めがなされた。
それからかなり長い間、ロッシム砦は放置されて、いつの間にか盗賊たちが住み着いたが、両国は敢えてそれを無視してきた。
盗賊討伐に兵を動かして、揚げ足を取られたくなかったからだ。
そして、その放置された砦を私が見つけて、魔物たちの棲家とした。
今回の騒動を引き起こしたのは、間違いなく私が配置した魔物たちだ。




