8話 婚活
破談の話が出てから1度も会うことなく、薄情なセルジュがすんなりと同意して婚約解消が正立した。
「たぶん、セルジュは私のことが嫌いなのね……? 私の初恋がこんなカタチで終わるなんて」
(私から先に言い出したことだけど、さびしくて、さびしくて、どうしようもなく孤独を感じるわ)
そして私の気持ちを尊重した両親は、すぐに新たな結婚相手を探し始めた。
けれど学園で流れた私の『嫉妬に狂い妹を虐待した』という醜聞のせいで、同じ年代(学園生たち)の男性は私を嫌い。
私の縁談は思うように進まなかった。
そんな中で私は母方の5歳年上の従兄(妻子持ち)にエスコートされ。
数ヶ月前にデビューした社交界で、自分の目で結婚相手をさがすことにした。
今年のデビュタントたちのために、今夜の夜会は王家の主催で開かれた。
今期の社交シーズン中で、もっとも大きくて華麗な王宮舞踏会となった。
「連れて来てくれてありがとう、シリルお兄様。ずっと憧れていたの…… この舞踏会で踊ることを」
「どういたしまして」
従兄のシリルお兄様はロンスヴォー伯爵家の歪な家族関係を、少し離れた場所からずっと見て来た人だ。
だから理不尽な理由で両親にしかられ、私が悲しむ姿も知っていて。
側にいる時は慰めてくれる、数少ない私の理解者だった。
「少し前までセルジュと踊ることを夢見ていた場所だけどね……」
うっかり声にさびしさを滲ませてしまうと、すかさずシリルお兄様が慰めてくれた。
「そう、腐ってはいけないよ。君は今年のデビュタントの中で一番綺麗なんだから」
「ふふっ…… そう言ってくれる身内はシリルお兄様だけだわ」
いつも甘え上手で可愛らしい妹の陰になり、私の存在はぼやけてしまうから。でもシリルお兄様はシャルロットよりも、いつも私を気にかけてくれる。
「さぁ、嫌なできごとは早く忘れて。幸せになった者の勝ちだよ、デルフィーヌ」
「ええ」
少しだけ卑屈な気持ちになり、ヂクッ…… と胸が疼いたけど。優しいシリルお兄様の笑顔でじんわりと疼きが癒される。
本来なら両親がお目付け役となり、夜会に付きそうのが普通だけど。私が先に社交デビューしたことで、妹のシャルロットが癇癪を爆発させて大騒ぎした。
そこで伯爵家の事業を手伝うお父様の右腕。従兄のシリルお兄様がその役目を両親から任された。
「そういえば…… ソフィアお姉様はお元気になられた?」
シリルお兄さまの奥様はつい先日、出産したばかりだから気になってたずねた。
「うん。医師には産後の回復は順調だと言われたよ」
「ふふっ…… お姉様と赤ちゃんに会えるようになったら教えてね?」
「もちろんだよ」
私はお兄様が知る未婚の男性たち(みんな年上)に、次々と引き合わされたけど。
学園で流れた『嫉妬で妹を虐待した姉』という醜聞が耳に届いているのか、いまひとつ反応が悪い。
私に近寄ってくるのはお金に困った人たちばかりで。そんな人たちはシリルお兄様が追い払った。
「ねぇ、お兄様…… あの男性は誰? お城の絵が掛けてある壁際に立っている人」
扇で唇をかくし、私をエスコートする従兄にさりげなくたずねた。
貴族名鑑で名前とその家の歴史は暗記したけれど。顔は自分の目で実際に見るしかおぼえようがない。
「ああ。モンパトワル子爵だよ」
「ふぅ~ん…… 見たことが無いかただわ」
社交シーズンに毎晩、夜会に出ていると……
だいたい顔ぶれが同じで、私も有力な貴族たちの顔はすでにおぼえた。
「彼はめったに社交には出て来ないから、デルフィーヌが顔を知らなくても当然だよ」
シリルお兄様は仕事の関係で社交界でも顔が広く。
いろいろな貴族たちの諸事情を知っていて、すごく頼りになる。
「シリルお兄様の知っている人?」
「仕事で何度か話したことがあるけど、結構なヤリ手だよ。とにかく交渉するのが上手くてね、悪い人ではないけど……」
大きな声を出せば相手に聞こえてしまいそうな距離にいたため。従兄はヒソヒソと私の耳元で答えてくれた。
「どうして社交には出ないのかしら?」
「先代のモンパトワル子爵が、ギャンブルで大きな借金をかかえたんだ。その返済に追われて忙しかったからだと思うよ」
「まぁ…… それはお気の毒に」
「でも異国の果物の栽培に成功して、その収益で返済したと聞いた」
「本当に子爵様はヤリ手なのね?」
「だけど婚約解消を2度もしているらしい」
パッと胸の中に期待する気持ちが湧く。
「あら、あんなにステキな男性がもしかして独身なの?」
「うん。確か年齢は…… デルフィーヌより10歳ぐらい年上だったと思うよ」
「10歳…… それなら許容範囲だわ」
──正直。
同じ年代の男性には散々、学園で陰口をたたかれたから不信感を持っている。
醜聞持ちの私には礼儀は必要ないと、嫌な態度をとられたこともあり。
少し年が離れていても、シリルお兄様のような大人の男性が良い。




