7話 婚約解消2
学園から帰宅すると父上に話があると執務室へ呼ばれ、会いに行くと……
執務机についた父上に厳しい表情で見つめられた。
「ついさっき帰ったロンスヴォー伯爵から、デルフィーヌ嬢とお前の婚約を解消したいと相談されたぞ」
「婚約解消ですって⁉」
「セルジュ…… お前はデルフィーヌ嬢とケンカをして、ずっと彼女を無視しているそうだな?」
「それは…… はい、その通りです。でもデルフィーヌが妹のシャルロット嬢を虐めているから、僕は彼女に反省して欲しくて……」
(ケンカをしていても僕はずっとデルフィーヌが好きだし。デルフィーヌも僕を好きだから、婚約解消の話が出るとは夢にも思わなかった)
「その話だがな。ロンスヴォー伯爵はお前が誤解していると言っていたぞ」
「誤解ではありません! 僕はシャルロットの手首にできた痣を、この目で見ました」
それに僕はケガをしているシャルロット自身から、話しを聞いたから間違いない。
『お姉様は後継者だから大切されていて、私を虐めても両親にウソをついて、上手くだましてしまうの』
それほど姉妹の仲が悪いと僕は知らなかった。
「くわしく話しなさい、セルジュ」
「はい」
父上に事情を聞かれ、僕はこれまでのいきさつをすべて話した。
「なるほどなぁ…… 残念だが、ここまでお前との仲がこじれると関係の修復は難しそうだ」
「待って下さい、父上。僕はデルフィーヌがシャルロットに謝罪すれば、許すつもりです。妹を虐めているのは姉妹の仲が悪いからで、僕にはそんな態度をとったことはないから……」
(僕はデルフィーヌが嫌いになったわけではないし。ずっと無視しているけれど、変わらずデルフィーヌのことが好きだから!)
「しかしだな……」
「僕はこんなことで解消する気はありません!」
「だが、セルジュ。これ以上、関係を悪化させるよりも。婚約をスッパリと解消して、お互い傷つけあわないよう距離を取ったほうが良い」
「ですが、父上!」
「デルフィーヌ嬢自身が解消したいと言っているそうだ。このまま謝罪を無理強いしても、彼女にお前が嫌われるだけだぞ?」
「……でも、僕たちの結婚は両家の結びつきを強くする、政略結婚なのに?」
「ああ…… それならロンスヴォー伯爵が、妹のシャルロット嬢との婚約を考えてほしいと言っていた」
「な… 何ですって⁉」
「デルフィーヌ嬢とケンカしたあと。お前はずっとシャルロット嬢と、仲良くしているそうじゃないか」
「確かにそうですけど……」
「ケンカをして仲直りできないから。婚約者をシャルロット嬢に変えた方が良いと、デルフィーヌ嬢が言っているらしい」
父上は口髭を指先でなでながら困った顔をする。
「そ、そんなのデルフィーヌが意地を張って言っているだけです!」
「そうは言っても…… 何か月も無視されれば、どれだけ相手に好意を持っていても女性の気持ちというモノはすぐに冷めるものだ」
「デルフィーヌに限って、そんなはずありません!」
(僕たちはずっと愛し合ってきたんだから。そんなのありえないよ!)
「とにかくだ。デルフィーヌ嬢がお前と結婚するのは嫌だと言うなら、この婚約は解消する。こちらは妹のシャルロット嬢が相手でも問題はないからな」
「ですが父上、僕たちは……」
(お互い相思相愛で、ずっと愛し合って来た。こんな簡単に婚約を解消するなんて……)
「それともお前が婚約解消したくないと、デルフィーヌ嬢を説得するか?」
「……っ」
ふと、最後に話した時のデルフィーヌの言葉を思い出した。
『セルジュ、後悔しても知らないから!』
(あの時デルフィーヌが言った捨て台詞の意味はコレだったのか?)
“デルフィーヌは婚約解消で僕をあわてさせて、コチラから先に折れるのを待っているのでは?”
……と、そんな考えが脳裏に浮んだ。
(婚約解消は本気ではなくて…… デルフィーヌはきっと僕が自分を引き止めるのを期待して、かけひきをしているとしか思えない。ずっと一緒だったデルフィーヌが、僕から離れるはずないから)
だったら、僕の方もデルフィーヌをあわてさせてやれば良い。
「わかりました、父上。 ……でもシャルロット嬢との婚約は、しばらく待って下さい」
(こんなかけひきで僕はデルフィーヌの罠に引っかかったりしない! 絶対に僕は先に折れたりしないぞ! 君が謝らないから悪いんだ。デルフィーヌ、少しだけ君に頭を冷やして考える時間をあげるよ)
「そうだな。シャルロット嬢との婚約は、お前が学園を卒業してからの方が良いだろう」
「はい」
(僕が折れずに婚約を解消して、デルフィーヌの思惑が外れれば…… 僕がどれだけ本気で怒っているのか理解できるだろう)
デルフィーヌは今度こそ僕のいう通り、シャルロットに謝罪するはずだ。
僕たちの評判が少し悪くなるけど。婚約をしなおせば良い。
破談の話が出てからデルフィーヌと1度も話し合うことなく、僕は婚約解消を受け入れた。




