63話 幸福の残骸(ざんがい)
お父様が愛人と息子をつれて別荘へ旅立ったきり、そのまま行方不明になって半年がすぎた。
今になって目的地の別荘とは、王都をはさんで反対側の東南地域で。
お父様たちが乗っていたロンスヴォー伯爵家の馬車が見つかったと……
伯爵家の当主となった従兄のシリルお兄様のもとへ、報告が届いたらしい。
そのことを私に直接伝えるために、シリルお兄様はモンパトワル子爵邸までわざわざ来てくれた。
「それでシリル卿、義父上の捜索はいつまで続けるつもりですか?」
私の隣に座るユベールが、これからの方針をたずねた。
「ああ、ユベール卿。実はそのことも相談したくて、今日は来たんです」
「なるほど、そうでしたか」
「実は愛人のリリーが屋敷で雇っていた雑役婦を見つけて…… その……」
急にシリルお兄様は口ごもり、私とお母様を見た。
「シリルお兄様?」
「その雑役婦から…… 叔父上の護衛騎士と愛人のリリーが、浮気をしていたようだと聞きまして」
「浮気⁉ お父様の愛人が浮気をしていたの? それって……」
「雑役婦は子供も浮気相手の子ではないかと、言っているんだ」
「やっぱり。今までお父様には何人も愛人がいたけれど、今になって息子ができたと聞いて…… 何かおかしいと思っていたの」
銀行に作ったリリーのための口座から、お金が全額引き出されていたことを、シリルお兄様は突き止めていた。
これで愛人のリリーと恋人の護衛騎士が協力し、お父様からお金を奪ったのは確実となった。
「それで…… 叔父上の捜索を依頼していた騎士たちの話では、恐らくですが… 叔父上は生きてはいないだろうという、結論になりまして」
「シリル卿は義父上の捜索は打ち切るつもりですか?」
「はい、ユベール卿……」
シリルお兄様は申し訳なさそうに、お母様と私を順番に見た。
『捜索を終わらせて良いか?』とシリルお兄様は、私たちに許可を求めているのだろう。
「このあたりで、区切りをつけた方が良いでしょうね」
お母様はシリルお兄様に同意し、私もハァ───…… とため息をついてからうなずいた。
「私もそう思います。シリルお兄様、忙しい時にお父様を捜して下さりありがとうございました」
「叔母上、デルフィーヌ、本当にすみません。僕がもっと強く叔父上に、愛人のリリーのことを調査するべきだと言っていれば…… こんなことにはならなかったのに」
「お父様が調査しなくても良いと言ったなら。シリルお兄様が何を忠告しても、お父様は聞き入れなかったと思うわ」
(お父様はそういう人だから)
応接室のソファセットに座り、私の向かいがわでガックリと落ちこむシリルお兄様に、慰めの言葉をかけると。
私のななめ横の一人用のソファに座るお母様が……
ユベールに似たアメジスト色の瞳をキラキラと輝かせる、私の娘モニークを膝に抱いて吐き捨てるように言った。
「そうよ、シリル卿。すべてあの人の自業自得だから、気にすることはないわ」
「叔母上……」
お母様のいうとおりだ。
「伯爵家と事業を引き継いだばかりで。いきなりお父様が行方不明になって、シリルお兄様がどれだけ苦労したことか……」
(それを考えると、シリルお兄様が悪いだなんて誰も思わないわ)
お父様が愛人に裏切られたすえに殺されて。
この世にはいないかもしれないと聞いても、私は少しも悲しくない。
薄情かもしれないけれど、お父様に同情心さえわかない。
お父様に何があったのかわかれば、私はそれでじゅうぶんだ。
……おそらく、お母様も私と同じ気持ちだろう。




