60話 特別な場所2
「シャルロットさん。食事は残さず食べて下さい! 遅刻は厳禁です! 廊下は静かに歩いて下さい! 無駄なおしゃべりはいけません!」
……と、神学校の先生は規則を守れとうるさいから。
私は先生を黙らせたくて……
「平民のくせになれなれしくしないで!」
……と言ってやった。
先生は本当に平民出身だったから、私は本当のことを言っただけなのに。
その話が校長先生の耳に入り、私は退学を言い渡された。
「シャルロットさん。あなたは神官になる前に礼儀作法がまったく身についていないようですね。そんな人はこの神学校に相応しくありません。退学して下さい」
「フンッ! いいわ。ちょうど家に帰りたいと思っていたから」
(こんな学校こそ、私にふさわしくないわ! 退学しろというなら、喜んでしてあげる)
私を神学校までむかえに来たお父様は、顔を真っ赤にして怒り。お母様は涙をハンカチで拭いながら落胆していた。
「お前がここまで愚かな娘だとは思わなかった! お前を入れるために、この学校にどれだけ寄付金を出したと思っているんだ⁉」
「シャルロット…… 神学校が最後の機会だったのに。何てことをしたの?」
「でも…… お父様、お母様! ここは本当にひどいところなのよ? 食事は庭師が飼ってる、犬のエサのように粗末だし。ベッドは硬くて部屋は狭くて汚いし。病気になってしまいそうなの!」
(それに五人で一つの部屋で暮らすなんてありえないわ!)
ハァ───…… とお父様は大きなため息をつく。
「これからお前が行く場所は、神学校が楽園に思えるほど厳しい場所だ! 覚悟しておけ!」
お父様は吐き捨てるように言った。
「どういう意味ですか? 私はロンスヴォー伯爵邸に帰るのでしょう?」
「シャルロット。あの屋敷はもうすぐ、シリル卿が爵位と一緒に継ぐ家なの。そんな場所に、問題をおこしたあなたを連れて帰れないわ」
また私が問題をおこしたら困るからと、お母様は悲し気に言った。
「そんな……っ! お母様、どういうことなの⁉」
(冗談じゃないわ! ロンスヴォー伯爵邸は私の家よ? なぜ娘の私が帰ったらいけないの⁉)
「ごめんなさい、シャルロット。あなたの育て方を間違えてしまって」
「お、お母様。何を言っているの⁉ 嫌よ、怖いわ!」
「ごめんなさい」
「お母様⁉」
両親は私の荷物を馬車につむと、ロンスヴォー伯爵邸には帰らず。
そのまま王国の最北端にある、ラバジュー神殿というところへ向かった。
目的地のラバジュー神殿へ着くと、私はお父様に馬車から引きずりおろされた。
「サッサと降りるんだ、シャルロット!」
「ごめんなさい、シャルロット…… ごめんなさい……」
「嫌っ! 待って! お母様、お父様───っ!! 嫌よ、おいて行かないで!」
両親は門前に私と荷物をおいて去っていった。
いくら叫んで引き留めようとしても、両親が乗るロンスヴォー伯爵家の馬車は止まらなかった。
門番の指示でしばらく待っていると、女性神官が一人神殿からむかえにきた。
「ようこそシャルロットさん。あなたには今日から見習い神官として、ジャンヌ様について修行してもらいます」
『ようこそ』と私に言いながら、迎えにきた神官はニコリとも笑わず。
神殿の建物へ向って歩きながら、無表情で説明をはじめた。
「見習い神官なんて嫌よ! 修行なんてしないわ!」
「あなたが修行を拒絶するのは自由ですが。ここでは修行をしない者は、食事をあたえられないので、注意してくださいね」
「何ですって⁉」
ラバジュー神殿は一年じゅう雪に覆われ、陸の孤島と呼ばれている場所で。
私のように問題をおこした貴族の令嬢が、幽閉される場所だと知ったのは……
私が神殿の見習い神官になって三日後だった。
私は神学校よりもっと厳しい規則にしばられ、毎日女神様に祈りを捧げながら。
その合間に年老いてボケてしまった老神官ジャンヌ様の、修業とは名ばかりの介護を朝から晩までするのが仕事となった。
雪で覆われた極寒の地で寒さに震えながら。
どれだけ泣き叫んでも、両親は助けに来てくれない。
規則を破れば食事をぬかれ。暴言を吐けば、ひどい時は地下の謹慎室へ入れられる。
私はおとなしく。毎日、年老いたジャンヌ様の世話をした。




