59話 特別な場所
私がセルジュの謝罪を受け入れたから、お互い清々しい気持ちで別れの挨拶をかわすことができた。
「今後はたぶん…… お二人とお会いすることは、なくなるでしょうが。どうかお元気で。元気な赤ちゃんが無事に誕生することを、毎日女神様にお祈りします」
「ありがとう、セルジュ卿」
謝罪を受け入れた私と足なみをそろえて。
ユベールもセルジュに対する態度がおだやかになり、握手の手を差し出した。
私が過去に愛していた男性と。今、愛している男性が、友好的に握手をかわす。
「あなたもお元気で。立派な神官になって下さい」
「……それと学園生時代の友人(高位貴族の子息)たちに。君がシャルロットを虐待した話は全部ウソだったと、手紙を送って伝えたよ」
「そうですか。ありがとう、セルジュ卿」
「少しは醜聞を消す手助けになれば良いけど……」
年下の女の子のウソに踊らされたマヌケな人間だと、自分の恥をさらけ出すようなことだけど。
潔癖症の気質があるセルジュは、自分の間違いが許せなかったのだろう。
こういう部分は昔から好ましく思っていた。今回は間違った方向に進んでしまったことが、本当に残念だった。
「セルジュ卿、どうかシャルロットの…… 妹の無礼を許して下さい。それとあの子によろしくお伝え下さい」
セルジュとの別れぎわに、何気なくそういうと。セルジュは「えっ⁉」という顔をした。
「シャルロットは先生に反抗的な態度をとり続けたせいで、退学したよ?」
「何ですって⁉」
(私は何も聞いていないわ!)
シャルロットと私はお茶会以来、まともに会っていないから。
婚約式のときは結局……
パスカル卿と大ゲンカをしていたシャルロットと、言葉をかわすことなくユベールと一緒に帰ってしまったし。
会えばきっとシャルロットは私に、噛みついて来るのがわかっていたから避けていた。
私が驚いていると、隣にいたユベールが反応した。
「……ああ。その話か」
「ユベールは知っていたの?」
「うん」
ユベールは気まずそうに私から視線をはずすと、斜め上を見ながらポリポリと指先で顎をかく。
「どういうことなの?」
「さっき義父上と義母上と話した時に、シャルロット嬢が神学校を辞めたことを聞いたよ。でも……」
確かに私がセルジュに声をかけられたとき、ユベールは両親と話し込んでいたけど。どうやらユベールも聞いたばかりの話らしい。
「でも……? それで?」
「君はほら、もうすぐ子供が産まれるだろう? 大事なときに心に負担がかかるといけないからと。義母上はずっと君に会いに来ても黙っていたらしいんだ」
「お母様が?」
最近のお母様は私との間にできた溝を埋めるように、頻繁に会いに来てくれるようになったけど。お母様はシャルロットの話題を、ずっと避けていた。
以前はシャルロットの話ばかりしていたのに。
「うわっ! そう言うことか、申し訳ない。僕は本当に気づかいがたらなくて……」
向かいがわにいたセルジュが自分が口を滑らしたことで。お母様の気づかいを無駄にしたことを知り謝った。
「ということはシャルロットはもしかして、この屋敷(ロンスヴォー伯爵邸)にいるの?」
(シャルロットに見つかる前に帰らないと!)
シリルお兄様の祝いの日にケンカはしたくない。
「いや、フィーヌ。シャルロット嬢はこの屋敷にはいないよ。特別な場所に送られたみたいだから」
「特別な場所?」
「うん」




