58話 思わぬ再会3
神学校に入学したセルジュからシャルロットのようすを聞き、正直…… 『やっぱりね』と思った。
「……」
(我がままなシャルロットが神学校へ行くと言ったこと自体、驚きなのに。厳しいことで有名な神学校の規則に、シャルロットが耐えられるとは思えないわ)
「セルジュ卿、それで?」
シャルロットの話で黙りこんでしまったセルジュに、焦れたユベールが話の先をうながした。
セルジュは嫌そうに重い口を開いた。
「実は…… 廊下で会ったシャルロットが、僕の顔を見ると癇癪を起こして突っかかって来たんです」
とても淑女とは思えない口汚い言葉で、セルジュはシャルロットに罵られたそうだ。
『アンタのせいよ、セルジュ! アンタがバカみたいにちょっとしたウソを信じて、お姉様と婚約解消なんてするから!』
『僕がウソを信じた? どういうことだ、シャルロット! まさか……』
『そうよ、マヌケなセルジュ。私は虐待なんてされてないわ! 扉に腕をはさんで痣ができたから。マヌケなアンタを揶揄って遊んであげただけよ!』
『何だと⁉ デルフィーヌが嫉妬して君を虐待したという話はウソだったのか?』
『ええ、そうよ! おマヌケさん』
『……このっ!』
「危うく僕はシャルロットの挑発にのって飛び掛かりそうになって。学友たちが僕を止めてくれたから、大事にはならなかったけど……」
セルジュは心底、悔しそうな顔をする。
「まぁ……」
(セルジュは八つ当たりをされたのね。そこで初めて真実を知ったなんて)
自分がシャルロットに騙されて婚約解消までした。そのうえ神学校にまで入れられたのだ。セルジュはその原因が、何かようやく知ったのだ。
普通の感覚の持ち主なら、セルジュのように口が重くなり落胆して当然で。
シャルロットのような人間のほうがおかしいのだ。
「でも僕が悪いんだ。婚約者だったのに…… 僕は君を信じなかった。僕だけは君の味方でいなければいけない時に、僕は君の敵になった」
セルジュは一番信じてはいけないシャルロットを信じて、シャルロットの味方になった。
元凶のシャルロットは自分のせいで、セルジュが辛い立場に追い込まれても。
自分は少しも悪いと思っていなければ、反省もしていない。騙される方が悪いのだと。
「そうね」
ほんの少しだけセルジュに同情したけど、そのことを口には出さなかった。
「君は何度も僕に、そう話してくれたのに。僕は君を信じようとしなかった。だから僕が悪いんだ」
「……」
(今頃になって私が感じた屈辱が、ようやくセルジュに伝わったのね)
「本当にすまなかった、デルフィーヌ。君を傷つけてすまなかった。許して欲しいとは言わないよ。……でも僕は、心から反省し後悔していることを君に伝えたかったんだ」
「セルジュ……」
(確かに簡単に許すとは言えないわ。だって私には醜聞という一生、消えない傷がついてしまったから)
セルジュの話を聞き、私が沈鬱な気分でいると……
いきなりポコンッ! とお腹の中から蹴られた。
私の暗い気持ちが赤ちゃんに伝わってしまったのかもしれない。
「ううっ!」
私はお腹をおさえてうめき声をあげた。
「フィーヌ……⁉」
「ううぅっ…… ユベール、赤ちゃんがお腹の中から…… うっ!」
ポコッ! ポコッ! ポコッ! ……と続けて蹴られた。
私はいつもの癖でユベールの手を取り、ペタリとお腹にくっ付けた。
「うわっ! こんなに力強く蹴るなんて」
「痛っ! ううぅ~…… 痛っ……!」
「コラ、コラ、娘よ。お母様をそんなに蹴ってはいけないよ?」
ユベールが私のお腹をなでながら、お腹に話しかける。
「あら、息子かもしれないわよ? ……っ痛!」
「私は君にそっくりなかわいい娘が欲しいな」
「そう? 私はあなたにそっくりな麗しい息子が良いわ」
「まぁ、元気に産まれてくれればどっちでも良いけどね」
「ふふふっ…… そうね」
ユベールがお腹をなでてくれたのが良かったのか。お腹の子は蹴り上げるのをやめた。
私はホッ…… とため息をつく。
そんな私たちのやり取りを、向かいがわからセルジュが目を丸くして見ていた。
「ああ、話し中にごめんなさい。お腹の子がすごく元気が良くて…… 最近はいつもこんな調子なの」
「そうなんだ……」
「セルジュ、あなたを許すわ」
「えっ⁉」
さっきはセルジュを簡単に許せないと思ったけれど。そんな私に怒った赤ちゃんが、お腹の中から抗議しているように感じたから。
「穢れのない赤ちゃんの前で。誰かを恨んだり憎んだりするような、醜い姿をさらしたくないの。だって私はもうすぐ母親になるのよ? いつまでも根に持ってあなたを恨むのはやめるわ」
セルジュを許すと決めたら。沈鬱だった気分が不思議と軽くなった。
過去の屈辱や恨みは綺麗に忘れて、清らかな心で自分をこの世に産みだしてほしいと──
お腹の中から赤ちゃんにそう言われた気がした。




