56話 思わぬ再会
来月には臨月(出産予定の月)に入り、いよいよ出産の日が近づいてきた。誰が見ても妊婦だとわかるほど、私のお腹は大きくなった。
お父様はよほど愛人と子供と三人で一緒に暮らしたいらしく。従兄のシリルお兄様にロンスヴォー伯爵家をわたす継承式を、早々に領地の神殿でおこなった。
「フィーヌ、やっぱり屋敷で休んでいたほうが……」
椅子に座ってシャンパングラスからレモネードを飲んでいると。私の横に立つユベールが渋い顔でつぶやいた。
「嫌よ。お兄様の継承式にも出られなかったのよ? いくら私が妊婦でも、せっかくのお祝いの日に留守番なんてできないわ」
来月が出産予定の私は残念ながら、馬車で数日かかる田舎の領地まで行くことができず。
シリルお兄様の継承式には出席できなかった。
そのかわり……
貴族たちに向けてシリルお兄様が王都で開いた、新しいロンスヴォー伯爵夫妻のお披露目パーティにだけ出席することにした。
「そうかい?」
「確かに足が少しむくんでいるから、立っているのは辛いけど。椅子に座っていれば平気よ」
(せっかくお兄様とソフィアお姉様が、妊婦の私も出席して良いと言ってくれたのに。きっと後悔するわ!)
お腹が大きな妊婦がパーティーに出席するのは、貴族の常識からだとマナー違反だけど。
今日はお父様からシリルお兄様が、ロンスヴォー伯爵家を継いだ記念すべき日だから。
絶対にお祝いしたかった。
「挨拶が終わったら帰るからね? フィーヌ」
「わかっているわ。私もシリルお兄様たちに迷惑はかけたくないから」
「うん」
ユベールも私の心配をすればこそだから。
お互いが少しずつ妥協して、これ以上の我がままは言わない。
椅子に座ったままの私は、シャンパンを片手に立つ麗しい礼装姿の夫にニッコリと笑いかけた。
「ユベール、愛しているわ。今日のあなたは一段とステキで、誇らしいわ」
「ふふっ…… フィーヌ、媚を売ってもダメだよ。私たちは途中で帰るからね?」
「はい、はい」
ユベールはため息をついて苦笑する。
ロンスヴォー伯爵となったシリルお兄様の、招待客への挨拶が終わり。
ユベールもお披露目パーティーに出席する知人たちへ挨拶に行く。
ユベールが私から離れ、ちょうど一人になったとき。思わぬ人に声をかけられた。
「デルフィーヌ」
名前を呼ばれて振り向くと、そこにはセルジュが立っていた。
「セルジュ⁉ なぜ、こんなところにいるの? 神学校へ行ったはずではないの?」
神学校は規則が厳しいことで有名な、全寮制の学校だから。気軽にパーティーなんかに出ることは、出来ないはずなのに。
前回、セルジュと会ったのは私の結婚式の時で。あのときの騒ぎを思い出すと、緊張に襲われた。
「急にごめんよ。シリル卿が伯爵位を継承したから、お披露目のパーティーに出席したいと学校に申請したら。特別に許可してもらったんだよ。明日には学校に帰らなくてはいけないけどね
「………」
(シリルお兄様とセルジュはそれほど、親しい仲ではなかったはずだけど?)
私は不信感いっぱいの気持ちを隠しきれず、眉をひそめてセルジュを見つめた。
セルジュは警戒する私の態度に、顔を強張らせる。
「……その、君とどうしても話がしたくて。だから、そんなに警戒しないでほしい」
「私と話……?」
(まさか…… 私に会うために、わざわざ学校に許可をもらって来たというの?)
「どこか、静かな場所に移動できないかな? あまり人前で話せることではないから」
「でも……」
(今さら、セルジュと話なんてしたくないわ)
「お願いだよ、デルフィーヌ。こんなことを君に頼むのは、これで最後だから!」
セルジュの必死さが伝わって来た。




