54話 シャルロットの婚約式2
控室で大ゲンカをする、シャルロットとパスカル卿に会うのはあきらめて。
私たちはその場をシリルお兄様にまかせ、祭壇前広間の参列者席についた。
──でも、時間になっても婚約式ははじまらず。広間中がざわざわとしはじめたころ。
シリルお兄様が顔を真っ青にして、広間にかけこんできた。
「ロンスヴォー伯爵!」
「どうしたシリル?」
「そ…… それが……っ!」
私とユベールの前に座るお父様に、シリルお兄様はあわてたようすで耳打ちする。
「パスカル卿が怒って神殿から出て行きました。止めようとしましたが、馬車に乗ってそのまま……」
「何だと⁉」
ヒソヒソと話すシリルお兄様の声が、私とユベールにも聞こえた。
「コンブルー公爵にもお伝えしてきます!」
シリルお兄様は祭壇へ続く青い絨毯が敷かれた、通路の向こう側に座るコンブルー公爵様のもとへ行き耳打ちした。
「あの愚か者め! もう、我慢できん。絶縁だ!」
顔がみるみる真っ赤になったコンブルー公爵様は、席から立ちあがり荒々しい足取りで祭壇前広間の扉へ向かって歩いて行く。
私は困惑して隣に座るユベールの顔を見あげると。厳しい表情をうかべてコンブルー公爵が出て行った扉を見ていた。
「ユベール、これは…… どうなるの?」
(まさかこんなことになるなんて。パスカル卿がここまで常識のない行動をするとは思わなかったわ)
「コンブルー公爵があのようすだと、シャルロット嬢とパスカルの結婚は間違いなく破談だね。そしてパスカルは公爵家から絶縁される。もしかすると貴族籍からも抜かれて、平民になるんじゃないかな?」
「まぁ……」
「自業自得だよ。本当にパスカルというヤツは、どうしようもない愚か者だよ」
「……そうね」
(今までユベールを苦しめてきたことを思えば、私も同情はしないけど)
「パスカルはコンブルー公爵が、最後の親心で用意してくれた物を。怒りにまかせて、自分の手で捨てたんだ」
「ええ」
男爵位も…… 領地も…… それにシャルロットが嫁ぐ時に持たされる、多額の持参金も。
パスカル卿は全部捨てた。
たぶんパスカル卿は自分が何を捨てたのか、まだ気づいていない。シャルロットだけを捨てたつもりなのだろう。
「さてと…… フィーヌ、私たちは帰ろう」
ユベールは私の手を取りニコリと笑う。
「え?」
「このまま神殿にとどまれば、面倒ごとに巻き込まれそうだからね」
「ああ、そうね。そうしましょう」
「シリル卿は気の毒だけど。コレも後継者の宿命のようなものだから、仕方ない」
「ええ」
『シリルお兄様、がんばって!』 ……と心の中で応援しつつ、私たちは神殿を出た。
翌日。
新聞のゴシップ欄にさっそくシャルロットが、パスカル卿に置き去りにされて婚約式を失敗したことが載っていた。
私とユベールは朝食をとりながら新聞を見て、ため息をついた。
「公開求婚なんてするから、こんなことになるんだよ。昨日の婚約式は注目の的になっていたからね」
「王都中の人たちが興味津々だったわよね」
注目する人たちの中には、シャルロットとパスカル卿が『いつ別れるか?』と賭けの対象にして。
盛り上がっていた人たちまでいたそうだ。
婚約式から数日後、ユベールの予想どおりになった。
新聞のゴシップ欄に、“男色家詩人の末路!” ……と大きく見出しに書かれ。
“恋人のシャルロット嬢を神殿に置きざりにして。
婚約式から逃げ出したパスカル卿は、怒ったコンブルー公爵に屋敷以外はぜんぶ取りあげられた。
そのうえ絶縁されて、公爵家からも追い出された”
“男色家詩人は平民になったのだ!”
……と書いてあった。




