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妹にだまされ、私を無視する婚約者をすてることにした  作者: みみぢあん


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51話 強力な説得 


 トレザン侯爵が事業のことで相談があるから訪問すると先()れが来た。


 ロンスヴォー伯爵邸の執務室で侯爵を待っていると……

 私の右腕として使っている嫁いだ姉の息子シリルが、有能な男にしてはめずらしく血相をかえて執務室へ飛び込んできた。



「叔父上! トレザン侯爵がいらっしゃったのですが……」

「シリル、仕事中はロンスヴォー伯爵と呼べと言っているだろう?」


 執務机に広げた帳簿から視線をあげ、メガネごしに見て甥を注意した。


「申、申し訳ありません。ですが、トレザン侯爵といっしょにクレシー伯爵とアルヴィル男爵までいらしていて」


「何だって?」

(クレシー伯爵とアルヴィル男爵と言えば…… 私たちの事業の大口の出資者じゃないか!)

 

 トレザン侯爵といっしょに、多額の出資をする二人があらわれたのなら。シリルがあわてるのも無理ない。


「事業のことで相談があると、トレザン侯爵は手紙に書いてよこしたが。何か嫌な予感がするな」


「はい、伯爵。それと三人とも機嫌が良さそうには見えませんでした」

「そうか…」 


 私は執務をするときにだけ使うメガネをはずして、シリルと一緒に応接室へと急いだ。



 応接室へ入るとシリルが言ったとおり。

 三人の客たちはピリピリとした雰囲気をただよわせ、険悪な表情をうかべていた。



「これはこれは…… おそろいで。事業の相談ということでしたが、何か問題でもありましたかな?」


 私は客たちに声をかけながら、空いていた一人掛け用のソファに腰をおろした。


「ロンスヴォー伯爵、単刀直入にいうが。君が婚外子を養子にすると聞いたのだが、それは本当かね?」


 最初にトレザン侯爵が口を開いた。


 友人としてなら、穏やかな人格者で付き合いやすい人だが……

 権力も財力も人望もあるトレザン侯爵は、敵となればこれほど手強い人はいない。


 私は緊張から背中に冷や汗をかく。


「……婚外子ですか?」

(どこから話がもれたんだ? 妻か? それともシャルロットか? あの二人のどちらかに違いない。口の軽い二人に口止めはできないから、外部に知られないよう、急いで進めていたのに! クソッ!)


 書類はすでに作成して弁護士に渡してある。あとはそれを国に届けて受理されれば完了だった。


「伯爵の愛人の子を傍系の子だと偽り、養子にして後継者にすると私は聞きましたが?」


 トレザン侯爵といっしょに来たクレシー伯爵が、追い打ちをかけるように私にたずねた。

 クレシー伯爵はまだ若いが、王太子の側近をつとめるほどのヤリ手で。

 次代の財務大臣の有力候補だと言われている。


「いいえ、クレシー伯爵。それは違います。婚外子ではありません。本当に傍系の子です」

(クソッ! そこまで知られているのか?)


「ロンスヴォー伯爵、ウソはいけません。私たちはこの件を詳しく調査してから、ここに来ているのですよ?」


 冷ややかに言い放つアルヴィル男爵は、ロンスヴォー伯爵家の出資者であるのと同時に。

 伯爵家が他国から仕入れた輸入品を、王国中に流通させる契約を交わしている。


 アルヴィル男爵は“流通王”の異名をもつ男で、流通業だけでなく情報収集の能力も高いのだ。


「いいか、伯爵。ロンスヴォー伯爵家の価値をさげるようなマネはやめたまえ。君にはすでに有望な後継者候補がいるではないか」


 トレザン侯爵はチラリと応接室のすみに立つ、甥のシリルに視線をむける。


「……っ」

(妻との約束で愛人と子供を作らないよう気を付けていたが。それでも若い愛人に息子ができた)


 妻に望んでもできなかった念願の息子ができて、私は女神の導きだと運命を感じた。

 だから息子を私の後継者にしたいのだ。


「厳しい環境の中に幼子を強引に引きずり込んで…… そんなに苦労をさせる必要はないだろう?」

「ですが、トレザン侯爵」


「貴族たちはこういう話を嫌いますから。これでロンスヴォー伯爵家があつかう輸入品を、貴族たちが買わなくなれば……」


 次代の外務大臣候補のクレシー伯爵は、政府の高官らしい分析を淡々と話した。


「そうやって大きな損失を出して。ロンスヴォー伯爵家の事業に関わる末端で働く者たちが職を失えば。王国中で深刻な問題となるでしょう」


「だ、だから私は息子を傍系の子にして養子にしようと……!」


「ですが私たちはすでに、その子が伯爵の婚外子だと知っている。それはつまり、私たち以外の貴族にもすぐに醜聞となって広がるということですよ。ロンスヴォー伯爵」


「クレシー伯爵、いったい誰からこの話を聞いたのですか?」


「私が誰から聞いたかは重要ではありません。あなたはこの話を誰にも知られないよう細心の注意をはらい、秘密裏に養子縁組をすすめなくてはならなかった。それができなかった時点で、この計画は失敗なのです」


 私よりも一回り以上も年下の伯爵に、説教をされて屈辱を感じたが。

 クレシー伯爵の言い分は正しく、私は言い返すことはできなかった。



「なぜ、こんなことになるんだ⁉ 私はただ…… 可愛い息子を自分の手もとに置いておきたいだけなのに!」


「それなら早々に、優秀な者を選んでロンスヴォー伯爵家をゆずり。君は引退して領地で息子とおだやかに暮らせば良い」


「トレザン侯爵……」


 私がこのまま息子を伯爵家に引き入れれば。きっとこの三人はロンスヴォー伯爵家の事業から手を引くだろう。


 そうなれば結局、息子が継ぐ伯爵家自体が没落してなくなってしまう。


 この三人に睨まれては、私の望みを叶えることはできないと悟った。

 私はトレザン侯爵の説得を受けいれることにした。




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