50話 私にできること
お父様が婚外子をロンスヴォー伯爵家に引き入れることについて、ソフィアお姉様と話したあと。
私は居てもたっても居られず、あわててモンパトワル子爵邸へ戻った。
「ああ、お帰りフィーヌ。楽しかったかい?」
幸運にも私が一番会いたかった人は、今日も執務室で仕事をしていた。
「ねぇ、ユベール! 私に何かできることはないかしら?」
「んん?」
「ソ…… ソフィアお姉様とお父様の婚外子のことを話していたら、不安になって!」
「ああ、その話か。もう少し詳しく話してみて」
私はユベールに、ソフィアお姉様と話したことを説明して助言を求めた。
「なるほど。でも、私たちには何もできることはないよ」
「でも、何か…… 何か探したらないかしら?」
「う~ん…… シリル卿の話どおり、義父上がすでに婚外子を養子にする手続きをすすめているなら。一日でも早く、急いだほうが良いけど」
考えている時のクセで、ユベールは長い指で自分の顎をこすりながら。
私でもできることを考えてくれた。
「あるの?」
「ダメかもしれないけれど…… 私たちにはできないから、できる人に頼むんだよ」
「ああ!」
ユベールの助言を聞き、私は『明日、訪問したいです』と先触れの手紙を書き、使用人にこの問題を解決できそうな人に届けさせた。
◆ ◆ ◆ ◆
「こうしてこの屋敷に来るのは…… 一年ぶりかしら?」
先触れを届けさせた邸宅の応接室で、私は婚外子の問題を解決してくれそうな人が来るのを待った。
昨日、助言をくれたユベールは……
『できれば私も一緒に行って、説得したいけど…… 私は少し前にケンカを売ったばかりだからね。たぶん顔を見せないほうが良いと思うんだ』
『ええ、そうね。大丈夫よユベール』
ガチャッ! と応接室の扉が開き、私の待ち人が姿を見せた。
私はソファから腰をあげ、挨拶の言葉で待ち人をむかえた。
「お久しぶりです、トレザン侯爵様」
「うむ。デルフィーヌ、君も元気だったかね?」
「はい」
「そうか」
トレザン侯爵様は立派な口髭を指先でなでながら、ニコリと笑う。
私もホッ…… として笑った。
私はユベールの助言に従い。元婚約者セルジュのお父様、トレザン侯爵様に会いに来た。
『いいかい、フィーヌ。私たちの説得に義父上が応じることはなくても。大きな事業を共同で経営しているトレザン侯爵の言葉なら、義父上も聞かざるを得ないと思うんだ』
『ああ、なるほど!』
「侯爵様、会って下さりありがとうございます」
「いや…… 私も君とはもう一度、ゆっくり話したいと思っていたんだ」
「そうでしたか」
「セルジュが迷惑をかけて悪かったね」
「いいえ、セルジュ卿とかたい絆を築けなかった、私にも責任がありますから」
「うむ。君を私の娘にできなかったのは、本当に残念だったよ」
「はい…… 私も残念です、侯爵様」
それから侯爵様としばらくの間、私とセルジュが子供だったころの話で花を咲かせた。
久しぶりに会ったぎこちなさが、懐かしい昔話でほぐれたころ。私は侯爵様に会いに来た本当の理由を切り出した。
「ロンスヴォー伯爵は自分の婚外子を後継者にするつもりだと?」
「はい」
「やれやれ…… まったく、伯爵にも困ったものだ」
侯爵様は苦虫を嚙みつぶしたように顔をしかめた。
騒ぎをおこしたセルジュが婿入りして、ロンスヴォー伯爵家の当主になることに危機感を持ち。
政略結婚をあきらめたトレザン侯爵様からすれば……
問題だらけの婚外子を後継者にするぐらいなら、まだセルジュの方がマシだと思っただろう。
「薄情かもしれませんが…… お父様が困るのは自業自得だと思います。でも、お父様の行動で事業に関わる多くの人たちに、悪い影響が出るのを見過ごせません」
お父様は今までロンスヴォー伯爵家が築いてきた信用を、すてようとしている。
今ある信用はお父様が一人で築いたものではない。事業に関わってきた、たくさんの人たちの助けがあったからだ。
「惜しいな…… 聡明で誠実、努力家。公平で決断力もある。デルフィーヌがロンスヴォー伯爵家の後継者なら、誰も文句は言わなかっただろうに……」
「侯爵様……」
「本当に惜しいことだよ。君が男だったらなぁ……」
女性は王国法で爵位を継げないと決められている。憂いをおびた表情で、侯爵様はやれやれと首を振った。
「うむ。デルフィーヌの言うとおり、私もこの件に関しては黙って見過ごすことはできない」
他家の後継者問題に口を出すなど。貴族の中でも当然、ルール違反だ。
それでも、大きな損害が出る可能性があるとなると話しは別だと。
トレザン侯爵様はお父様を説得することを約束してくれた。




