49話 思わぬところで
従兄のシリルお兄様の奥様、ソフィアお姉様は。
シリルお兄様より三歳年下の幼馴染みで、男爵家の令嬢だった。
二人は私が思い描く理想のカップルで、私の憧れでもあった。
「お姉様、見て! エミリーがまた笑ったわ! ……なんてかわいいの!」
「ふふふっ…… デルフィーヌはきっと、良いお母様になれるわね」
「そうかしら?」
娘のエミリーと同じグリーンの瞳で、ソフィアお姉様は優しい笑顔を浮かべた。
初めてシリルお兄様に紹介してもらった時から、ソフィアお姉様はずっと優しかったけれど。
出産してからはさらに優しくなったと感じる。
それにエミリーを抱く姿は女神様のように慈愛に満ちていた。
「デルフィーヌはおむつの取り換えも、嫌がらずに手伝ってくれたし」
「素晴らしい体験だったわ」
「ほらね、ふふふっ……」
本来なら乳母に任せることも、ソフィアお姉様は自分の手でしている。
そうすることで娘の些細な体調の変化を、見逃さずにすむからだとか。
ソフィアお姉様の実家はあまり裕福ではなかった。
乳母は雇わず自分たちの手で弟妹を育てた経験から、生まれた知恵なのだそうだ。
「……でもね、デルフィーヌ。こういう話を社交界ですると、貴婦人たちは眉をひそめるの。『使用人のマネをするなんて』とね」
「ああ……」
「だから、ココだけの話にしてね? シリルに恥をかかせたくないから」
「ええ。ふふふっ…… お姉様と私の秘密ね」
(妹のシャルロットやお母様とは、どう頑張ってもこんな親密な話はできないのに。まったく血のつながりのないソフィアお姉様とは、こんなに親しくできるなんて皮肉だわ)
だから自分の血にこだわり苦労させるとわかっていて、愛人との子を引き入れたがるお父様の気が知れない。
「あのね、お姉様。お父様が愛人との子を、ロンスヴォー伯爵家後継者にしたがっているの」
私はポロリと話した。
「ああ、その話。シリルが昨日もこぼしていたわ」
「ソフィアお姉様も知っていたのね?」
「ええ。シリルがそのコトで毎日愚痴をいっているから」
「なるほど……」
(真面目なシリルお兄様らしいわ)
私が苦笑していると。
「セルジュ卿が問題をおこして、トレザン侯爵家との政略結婚が流れたときに。伯爵は弁護士に相談して、愛人との子を養子にする話をすすめていたらしいの」
「え? どういう意味⁉」
(それはつまり……?)
「シャルロットは他家に嫁がせて。伯爵は始めからシャルロットの婿養子を、取る気はなかったということね」
「……っ」
(お母様が追いつめられて、パスカル卿のような最悪な男性をシャルロットの相手に選ぶ前から。愛人との子を引き入れることを決めていたということ⁉)
「お父様はなんて卑怯なの!」
「表向きには傍系の子を養子にしたと偽っても、そういう醜聞は使用人の口からもれるものよ。特にロンスヴォー伯爵は、愛人がたくさんいることで有名だから」
「そのとおりだわ」
「貴族は相手が婚外子というだけで、相手にしないような人たちだから。このことを知ったら、ロンスヴォー伯爵家と契約を切ろうとする貴族が出てくるはずだと。シリルが悩んでいたわ」
「……」
(そうなって困るのは、ロンスヴォー伯爵家の事業に関わっている人たち。つまりシリルお兄様やソフィアお姉様のような人たちだわ!)
ソフィアお姉様に頬をくすぐられ、つぶらなグリーンの瞳をキラキラと輝かせて笑うエミリーも。
このままお父様が婚外子を引き入れることで、将来に影響が出てくるのだ。
学園で受けた領地運営の講義で、課題の本にのっていた“百害あって一利なし” という言葉が浮んだ。
百個の害があるのに一つも利益がない。




