48話 つかの間の平和
従兄のシリルお兄様の奥様、ソフィアお姉様から手紙がとどいた。
モンパトワル子爵邸の執務室にある、応接用のソファセットでくつろぎながら。
ユベールが仕事をする横で私はソフィアお姉様の手紙を読んだ。
手紙には“そろそろ赤ちゃんに会いにおいで”と書いてある。
「ねぇ…… ユベール? シリルお兄様の赤ちゃんに会いに行っても良いかしら?」
(私に過保護なユベールはきっと『ダメだ』というでしょうね)
私はあきらめ半分で、仕事をするユベールに聞くと……
「良いよ」
「……えっ⁉ 良いの?」
「うん」
「本当に?」
「あまり遅くならないようにすると、約束するならね」
「もちろん、するわ!」
赤ちゃんに会いたかったのもあるけれど。ソフィアお姉様に妊婦の心得とかがあれば、聞いてみたかったから。
嬉しくなって執務机で仕事をするユベールのもとへゆき、抱きついて頬にキスをした。
「どうして今回は良いの? いつもなら『ダメだ』というのに?」
「私がフィーヌを行かせたくないのは、よく知らない人たちが多く集まる夜会や。客が多い流行りの店。それに不愉快な思いをするとわかっている、君の実家とかだよ」
「ああ!」
「気晴らしに友人の家や親戚のところへ行くのなら、私は反対はしないよ。とにかく疲れが溜まりそうな場所はダメ」
「言われてみれば、私が今までユベールに行きたいと言ったのは…… 夜会や実家のお茶会ばかりだったわね?」
「うん」
「過保護だなんて言ってごめんなさい」
「良いよ。本当はどこにも出さずに、私が見えるところにいて欲しいぐらいだから」
「まぁ……!」
「結婚した君を遊び相手にしたいと狙っている男は、君が知らないだけでたくさんいるんだ。君は美人だし。私は男色家だと思われているから」
実家のお茶会に出席した人たちの口から、ユベールの男色家疑惑は間違いだと広がれば。噂はじょじょに消えてゆくはずだ。
そのことを考えていたら、ふとお母様のことを思い出した。
お母様は憎悪を感じるほどお父様の浮気に傷ついていたけど。
お父様はきっと…… お母様が自分以外の男性に狙われていても、嫉妬もしなければ心配もしなかったのではないかと。
「心配してくれるあなたがいて、私は幸せだわ」
「うん」
「もしもユベールに愛人ができたらと思うと、胸がつぶれてしまいそうなほど苦しくなるわ」
「……っ?」
いきなり私がそんなことを言い出したから、ユベールは驚いて口をパカリとあけた。
「あなたのような素敵な人なら、お父様のように愛人がたくさんいてもおかしくないから。つい、そう思ってしまったの」
「……フィーヌ、私はそんな面倒なことはしないよ。愛する女性は君一人でじゅうぶんだからね」
ユベールは首を横にふりながら笑った。私はユベールの額にキスをした。
「本当に私は運が良かったわ。ユベールに出会えて」
そのあと私はソフィアお姉様に… “明日、訪問します”と先触れの手紙を書いて使用人にとどけさせた。
「ジャムと果実のシロップ漬けをたくさんもってい行くと良いよ」
モンパトワル子爵家が栽培する異国の果実は、生で食べても美味しいが。
実家のお茶会で出たジャムやシロップ漬けも、高級品として貴族たちの間で流行りつつあり品薄なのだ。
「まぁ! ありがとう、ユベール。きっとソフィアお姉様も喜ぶわ」
「産まれたばかりだから、子供の離乳食には早いけどね。母親が食べるなら問題無いから。とても身体に良い果物だし、ぜひ食べてほしいと伝えておいて」
「ええ」
(何でも気が利く、本当に素晴らしい旦那様だわ!)




