5話 決心
セルジュと仲たがいしてから数ヶ月が過ぎた。シャルロットに謝罪しない私は、ずっとセルジュに無視され続けた。
「私がどれだけ辛い思いをしても…… セルジュは平気なのね?」
人の目を気にして裏庭のガセボで昼食をとりながら、ふと…… 考えた。
悪いことに私と婚約者の仲が悪くなった原因は、私が『妹を虐待したからだ』と学園中で醜聞が広がっている。
「セルジュが口を滑らせたのか。シャルロットが言いふらしたのかはわからないけれど…… 2人のうちどちらかが、醜聞を流したのは間違いないわね」
醜聞のせいでセルジュだけでなく、仲が良かった友人たちにまで距離をとられるようになり、私は完全に学園で孤立してしまった。
「こんな寂しい場所で私は一人ぼっちでいるのに。婚約者のセルジュはシャルロットと食堂で昼食をとっているなんて……」
(どう見ても異常事態だわ! 貴族の常識ではありえない。まともな婚約関係ではないとセルジュはわかっているのかしら?)
「確かに…… 私を無視してシャルロットと仲良くされると嫉妬するわ。でも意地悪はしていない。だってそんなことしたら、妹に告げ口されて私が両親にしかられるから。なぜセルジュはそんな簡単な理屈がわからないの?」
それに裕福で力のある高位貴族トレザン侯爵家の子息セルジュが、私を無視し続けるから。
同じく高位貴族出身のセルジュの友人たちが中心となり、学園じゅうで私は陰口が言われている。
『姉より妹のほうがセルジュの婚約者みたいだな?』
『結婚するなら暴力的で傲慢な姉よりも、誰だって可愛い妹の方が良いさ』
『セルジュが愚痴を言っていたけど…… デルフィーヌ嬢は美人だが生意気すぎるんだよ』
『いくら政略結婚でも、セルジュも災難だな!』
『デルフィーヌ嬢はオレたちと一緒に領地経営の講義を受けているから、頭の中まで男みたいだとセルジュから聞いたことがある』
『うへぇ~!』
……たぶんセルジュも友人たちと一緒になって、私の悪口を言っているのだ。
「あんなことを友人に言わせておくなんて。セルジュは私の婚約者失格よ!」
思い出しただけでも怒りが込みあげて来て、ギリギリと歯ぎしりをした。
「私の方が成績が良いからって。醜聞を撒き散らすセルジュの友人たちに、気持ちで負けたくないわ」
自分の悪口が聞こえると、私はその場で相手を睨みつけるようにしている。
……そうすると、悪戯を見つかった子どものように相手が逃げ出すから。
確かに淑女らしい行動ではないけれど、とにかく負けたくない。
悪女だと言われても、惨めな存在にだけはなりたくない。
私にはセルジュこそシャルロットと浮気をして、婚約者の私に不誠実な態度をとっているようにしか見えない。
(もしかして、セルジュは私よりも妹に引かれているの? シャルロットが好きなの……? だから自分の友人たちが私の悪口を撒き散らしても、止めずに知らない顔をしているの?)
ケンカが原因でセルジュに距離を取られていると思っていたけど。
──『本当は他の理由があるのかもしれない』と一度疑いを持つと、そう思わずにはいられなくなる。
「やっぱり…… 私を信じてくれないセルジュと結婚するのは嫌。彼は私にふさわしくない」
(自分の間違いに気づいて、セルジュが謝ってくれるのではないかと。期待していたのに…… セルジュの態度は悪くなるばかりだわ)
ケンカした時よりもずっと、私たちの関係は悪くなっている。
ここまで二人の関係が悪化してしまうと。
私もうすうすだけど…… 『セルジュと元の関係には戻れない』と感じていた。
好きだった時間が長かったぶん、初恋のセルジュを妹のウソであきらめるのが嫌で今まで耐えていたのに。
昼食を食べる手を止めて空を見あげると、雲一つない綺麗な青空が広がっていて…… 私の頬を涙が一粒、流れ落ちた。
「婚約を解消をしたいと、お父様に話してみよう」




