4話 婚約者
僕とケンカをして一緒に食事をとらなくなってから。
昼になるとデルフィーヌが1人でどこかへ行く姿をみかける。
1人っきりでにぎやかな食堂で食事をすると、ポツン…… と目立ってしまうから。
デルフィーヌは裏庭で昼食をとっているのだと、しばらくたってから僕はそのことに気づいた。
それまでずっと僕が一緒だったから、デルフィーヌの孤立した姿を見てさすがに胸が痛んだけれど……
「クソッ! いつまでデルフィーヌは、自分の罪を認めないつもりだ?」
今日もいつもと同じように1人で昼食をとりに行く、デルフィーヌの姿を見つけた。
『まだ謝らないのか?』とジッと僕が見つめると。デルフィーヌが僕の視線に気づき目が合うが。
デルフィーヌは『私は謝らないわ』と僕をキッ! ……と睨み返してくる。
僕はイライラして視線をそらし、デルフィーヌの前を通りすぎようとしたら。
「セルジュ、いい加減にして!」
「……」
(君こそ…… こんなに長い間、僕に無視されても平気なのか? 僕のことが好きなら、僕のいう通りシャルロットに謝罪しても良いはずなのに)
僕はデルフィーヌとは言葉をかわさず歩き去ろうとした。
「セルジュ、後悔しても知らないから!」
「……」
僕の背中にデルフィーヌが、負け惜しみのような言葉を投げかけてきたけど。僕はそれも無視した。
ケンカをしたばかりのころはデルフィーヌは僕を追いかけて来て、必死で言いわけをしていたのに。
今はそれすらしない。
少し離れてから振り返りデルフィーヌを見る。
ピンッと背筋をのばして、凛とした背中が遠ざかってゆく。
僕は廊下を曲がってデルフィーヌの姿が見えなくなるまで見つめ…… つぶやいた。
「僕にも婚約者としてのプライドがある。だから僕から先に折れたりしないからな、デルフィーヌ!」
そもそも昔からデルフィーヌと妹のシャルロットの仲が、あまりにも悪そうに見えたから。
だから僕は姉妹の仲を取り持とうと、入学したばかりのシャルロットに親切にしたのが始まりだった。
『セルジュお兄様にお姉様のことで相談があるの……』
憐れなほど泣いて姉にいじめられていると告白するシャルロットに。
僕は同情して『婚約者の僕がデルフィーヌを諫めるよ』 ……と約束した。
それで少しでも姉妹の仲が良くなればと思ったのに。
自分が少し意地になっている自覚はある。 ……でも、それはたぶんデルフィーヌも同じだ。
「だからって…… 僕がシャルロットと仲良くしたら、こんなふうに嫉妬して意地悪をするのは間違っているよ」
(デルフィーヌが悪い! 僕は悪くないぞ!)
「僕は君のために、シャルロットと仲良くしているのに」
(なんでソレがわからないんだ?)
「僕はデルフィーヌの夫になるんだ。いくら気が強くても妻になるデルフィーヌには、僕に敬意をもって接して欲しい」
(デルフィーヌはすごく気が強いけど、でも僕の前では恥ずかしがりやでかわいい。それに美人だし頭も良い。自慢の婚約者だと、僕はずっと好きだったのに……)
友人たちにこれ以上、僕が婚約者の“尻に敷かれている” ……と揶揄われるのは嫌なんだ。
「デルフィーヌが僕のことを本当に好きなら、僕の顔を立ててシャルロットに謝るべきなんだ」
これは僕にとってプライドの問題でもあった。




