46話 沈黙の理由2
今までは親子だから、お母様も少しは私を愛してくれていると信じたかった。
でもユベールに愛され妊娠して、お腹の子を愛すようになってから…… ふと自分の子供時代をふりかえると。
両親から愛されていたとは、とても思えなかった。
──だから『なぜ、お母様は私を愛してくれなかったの?』 ……とたずねた。
お母様は私がその問いかけをしたとたん、黙りこんでしまった。
私の質問に怒っているのかと思い、お母様をよく見ていると。胸をおさえて眉間にシワをよせる姿は、強い痛みに耐えるケガ人のように見えた。
「……」
(なんて苦しそうな顔。お母様のこんなに弱々しい姿を見るのは初めてだわ)
私はそれ以上、声をかけられなかった。冷めたお茶を飲みながら、お母様が口を開くのを静かに待った。
ティーポットからおかわりのお茶を注いでいると…… お母様が私の手を見ながら、ようやく口を開いた。
「……デルフィーヌ」
「はい?」
お茶を注ぎ終えたティーポットをテーブルに置き、私は次の言葉を待ってお母様の顔を見た。
「あなたは…… あまりにもお父様に似ているから。どうしても愛せなかったの」
「え⁉」
お母様は私とは目を合わせず、お茶をそそいだカップを見つめたまま話した。
「あなたがお腹にいる時は、私もお父様も…… 二人とも幸せだったわ。でもね……」
「でも?」
「あなたが女の子だとわかったとたん、お父様はガッカリしたの」
それ以来、お母様は幸せではなくなった。
「……っ」
(そんな…… たったそれだけのことで?)
「あなたのお父様と同じ青い瞳、お父様と同じこげ茶色の髪がそっくりで……」
「……」
(そんな私にはどうしようもないことで、お母様は私を愛してくれなかったの?)
「それにあなたはお父様のように頭が良くて、何でも簡単にできてしまうところも……」
「……簡単だなんて!」
(私はお母様とお父様に、シャルロットのように愛してもらいたくて。必死に、必死に……っ! どれをとっても、簡単なことなんて無かったわ!)
バイオリンだって。領地の運営の成績だって! 朝から晩まで努力した。
「あなたはお父様にそっくりだわ。だから愛せなかった…… 私も悩んだわ」
「悩んだ?」
「ええ、あなたを愛せなくて。でも、そんな時にシャルロットが産まれて。あの子は私と同じ金色の髪で…… 性格も私に似ているから」
「だからお母様はシャルロットだけを愛したの? 溺愛した?」
「あの子は私の救いだった。お父様は私を愛さないかわりに、尊重してくれるけれど……」
「尊重……?」
「お父様は私のすることに文句を言わなかった。それに不自由なく裕福に暮らせることは、感謝しているわ」
「だからシャルロットばかりお母様が溺愛しても、お父様は何も言わなかったのね?」
「ええ。お父様はあなたたち(娘たち)には興味を持ってくれなかったから」
(私とシャルロットが女の子だったから?)
「お母様…」
「ずっと寂しかった。それでも伯爵夫人のプライドだけは守りたかったから…… 必死にしがみついた」
愛人たちに気をとられて自分を愛さないお父様へ、お母様にも意地があったのだろう。
そうやってお母様は寂しさや恨みを抑え込んだ。
「……」
(お母様の虚栄心は、寂しさの裏返しだったというの? だから夢中で、私たちの自慢話をしていたのだわ)
同情はするけれど。でも、そんなのことは何も知らなかった私には迷惑でしかない。
私を愛せないと、本当に悩んでいたのなら…… せめて愛すフリぐらいはして欲しかった。




