43話 お茶会のあとで
お姉様がユベールお義兄様と一緒に帰ったあと、パスカル卿も帰ると言いだした。
「待って下さい、パスカル卿! さっきユベールお義兄様としていた話について、詳しく教えてください」
パスカル卿は私と目を合わせようとせず、気まずそうに答えた。
「すまない、シャルロット嬢。この後、人と会う約束があるんだ」
「そんな! あなたもお茶会に参加すると言っていたのに?」
「すまない、気が変わった」
「パスカル卿!」
(私が求婚を受け入れたあと。そのままパスカル卿はお茶会にとどまり、私と一緒にお話しする予定だった。パスカル卿もそのつもりだったはずだわ)
「失礼するよ」
「あっ!」
結局、パスカル卿はどれだけ私が引き止めても、私の手を振り切り逃げるように帰って行った。
そんな私たちを見て、年配の貴婦人たちはヒソヒソと囁き合っている。
「……ひどいわ」
お茶会がはじまる前の予定では。
今頃、私とパスカル卿の求婚で盛り上がっていたはずだったのに。
でも、お姉様の“妊娠した”というウソのせいで、急激にお茶会は気まずい空気になってしまった。
お母様は呆然としていたけれど。私が泣きだしそうな顔をしていたのに気づいて、少し早めにお茶会を終わらせることにした。
最後の招待客をお母様と二人で見送ったあと。
「お母様…… ユベールお義兄様とパスカル卿が話していたことは、どういう意味?」
お母様は私がたずねると、ピクッ! と頬を痙攣させた。
「そ… その話は、居間へ移動してから話しましょう」
「はい」
家族用の居間でお茶会で出したバラ色のお茶を飲み、落ち着きを取り戻すと。
いつもは私の隣に座るのに。今日はソファセットの向かいがわに座ったお母様は、私と目を合わせずに口を開いた。
「十年前…… ユベール卿が男色家だと言われるようになったのは、パスカル卿が恋人だとウワサが流れたからなの」
「……何ですって⁉ パスカル卿がユベールお義兄様の恋人?!」
(パスカル卿が男色家⁉ そんな話、知らない。私が聞いたのはユベールお義兄様が男色家という話だけだわ)
「ええ。さっきはそれが全部、間違ったウワサだったとユベール卿は証明したの。それもパスカル卿に一方的な片思いを押しつけられたと」
『私はこれ以上、君の好意を断り続ける必要もなくなった』
……とユベールお義兄様はお茶会の参加者たちの前で、確かにそう言った。
「お母様… こんなのウソでしょう?」
「ユベール卿の言葉がウソかどうかはわからないわ。でもパスカル卿はあなたに“運命の愛”を語り、求婚したばかりだったから。あわてたパスカル卿は何も否定しなかった」
パスカル卿がお義兄様の言葉を否定できたとしても、パスカル卿が男色家なのはかわらない。
「ああ…… どうしてこんなことに。お母様…?」
(本当にパスカル卿が… 男色家なの? ウソよね? こんなの悪い冗談だわ!)
私は強い疲労感を感じて、だらしなくソファーに沈み込んだ。
「男色家なら愛人と子供をつくったりしないから、良いと思ったの」
「…は?」
お母様まで私と目を合わせようとしないで、話し続けた。




