42話 波乱3
お姉様は見え透いたウソをついている。“妊娠した”だなんて、ウソに決まっている。
だってユベールお義兄様は男色家で女性を愛せない人だから。
それなのにお義兄様までお姉様と一緒になって、みんなの前でウソをついた。
「本当は私も早く自慢したかったので、この場でみなさまにお伝えできて嬉しいです」
ユベールお義兄様はまるで本当に愛しているように。お姉様の頬にキスをした。
お姉様もお義兄様にお返しするように、背伸びをして顎にキスをする。
「……っ」
(本当にお姉様もお義兄様も痛々しいわ! 2人で愛し合っているフリをして。他の若い令嬢たちは簡単に騙されて、祝福の言葉をお姉様に贈っているけど。私は誤魔化されないわよ)
ほんの少し前まで、私とパスカル卿が主役だったのに。
お姉様たちの魂胆が丸見えのウソで、招待客たちの視線はぜんぶお姉様たちに集中してしまった。
「パスカル卿……」
何とか招待客たちの視線を私たちに取り戻せないか、隣に立つパスカル卿に助けを求めて腕に触れたけど。
顔を強張らせて呆然と立つパスカル卿は、私が腕に触れたことも気付かないようすだ。
「ねぇ、パスカル卿!」
私がもう一度、パスカル卿に呼びかけたとき。
ユベールお義兄様もパスカル卿に呼びかけた。
「パスカル、もちろん君も私たちを祝福してくれるだろう?」
「ユ、ユベール……!」
「……っ⁉」
私が触れているパスカル卿の腕がビクッ! と震えた。
でもお義兄様がパスカル卿に言い放った次の言葉で、私も驚いてビクッ! と震えた。
「十年前…… 私たちがまだ学園の生徒だったときから、君の好意に応えられなくて私はずっと心苦しく思っていたんだ」
「……っ⁉」
(“好意に応えられなくて” ……? どういう意味⁉ なぜユベールお義兄様がパスカル卿の好意について話しているの? 十年前???)
私は話をするユベールお義兄様とパスカル卿の顔を、交互に見た。
二人は知りあいのようだった。
パスカル卿の方がユベールお義兄様よりも、すごく若く見えるけれど。二人が同年代なのは知っていた。
だからパスカル卿とお義兄様が、社交界では顔見知りだろうとは思っていた。でも今の話を聞くと…… それ以上の親しい関係だったらしい。
「どういうことなの?」
訳がわからずお母様に助けを求めて見つめると。お母様は真っ青になり、パスカル卿とユベールお義兄様の会話を聞いていた。
「昔から私は君を友人としか思えなかったし、何より私は女性しか愛せないから。本当に君には悪いと思っていたよ」
「なっ! ユベール!」
「……え?」
(“君を友人としか思えなかった”? “女性しか愛せない”? ユベールお義兄様は何を言っているの⁉)
これではまるで…… パスカル卿がユベールお義兄様のことが好きだと言っているように聞こえる。
私の頭の中はいっぱいになり。その後パスカル卿とユベールお義兄様が、どんな話をしたのかわからなくなった。
話が終わるとユベールお義兄様はニッコリと笑い、お姉様をエスコートしてその場を去って行く。
私たちから少し離れたところで、姉夫婦は立ち止まり唇にキスをしていた。
お姉様は人前で唇にキスをされて、恥かしそうに頬をそめていたけど……
“誰よりも幸せだ”と言いたげに、私と同じ青い瞳を輝かせてユベールお義兄様を見あげている。
「まぁ…… ステキ! モンパトワル子爵夫妻は理想のカップルだわ」
若い令嬢の一人が、ため息まじりでつぶやいた。
「……っ」
(何を言っているの? こんなに簡単に騙されちゃってバカね! だってユベールお義兄様は男色家なのよ? お姉様たちは仲が良さそうに見えるけど。二人は擬装結婚だからぜんぶ演技よ!)
妊娠の話もきっとウソだ。後できっと流産したと言い訳をする気だ。
貴族の間でそういう話はよく聞くから、そうに決まっている。
もしかするとお姉様は、ハンサムなユベールお義兄様を本気で愛しているかもしれないけれど。どちらにしても報われない。
(男色家のユベールお義兄様は、絶対にお姉様を愛していないわ! あれはぜんぶ、演技なのよ!)
私は自分が見た光景が信じられず。必死で自分に言い聞かせた。
「何もかも悪い冗談よ。私のほうが幸せだから、お姉様はウソをついたの」
(嫌な人たち! せっかく私が求婚されて、みんな私を羨ましがっていたのに。お姉様は私に嫉妬して、あんなウソをついたのよ!)
そうに決まっている。




