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妹にだまされ、私を無視する婚約者をすてることにした  作者: みみぢあん


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41話 波乱2


 たくさんの人たちの前でハッキリと“妊娠した“ ……と話すのはあまりにも不作法だから。

 私は“甥か姪に会える”とシャルロットに、遠まわしな言い方で妊娠を伝えた。



「まさか、そんなはずは…… お姉様、冗談はやめて」

「あら、シャルロット。祝福してくれないの?」

「だって、そんなことありえないわ」

「なぜ、ありえないと思うの?」

「だって、それは……」


 さすがにシャルロットも人前で“義兄が男色家だから”とはハッキリ言えないようだ。


 私の肩をユベールが長い腕で抱きよせ、ニッコリと笑う。


「シャルロット嬢もいきなり聞いて驚いただろう?」

「ユベールお義兄様…… で、でも⁉」


「君はデビューしたばかりで忙しそうだったし。だから私たちはこの嬉しい出来事を伝えるのは、もう少し待とうと思っていたけれど。今日はちょうど良い機会だから、話すことにしたんだ」


「冗談でしょう?」


 シャルロットは信じられないようすで、聞き返してくるが……


「私も体調が悪くて。過保護なユベールにも夜会は絶対に欠席しろと止められてしまうし。私が外出をひかえているウソの言い訳を、お母様とあなたにするのは心苦しかったわ」


「お姉様、みなさまの前でウソはやめて。見苦しいわよ」


「いきなり聞いて、あなたが信じられないのもわかるわ。でもユベールと相談して私の体調が落ち着いてから、話したほうが良いと黙っていたの。ごめんなさいシャルロット。うふふっ…」


 私たちとシャルロットの会話を聞いていた隣に座る令嬢が、瞳をキラキラと輝かせて祝福の言葉を贈ってくれた。


「まぁ! ステキだわ! おめでとうございます。モンパトワル子爵様、モンパトワル子爵夫人!」


「おめでとうございます、子爵様、夫人!」

「お二人のどちらに似ても、きっとお美しいお子様が誕生するのでしょうね!」


 令嬢に続いてお茶会の出席者たちがいっせいに、祝福のことばを私たちに贈ってくれる。


 ただし年配の貴婦人たちは祝福の言葉を口にしながら、ユベールの男色家疑惑を知っているらしく。

 シャルロットと同じく疑いの目を向けてきた。


「ありがとうございます。みなさま」

「ありがとうございます。本当は私も早く自慢したかったので、この場でみなさまにお伝えできて嬉しいです」


 ユベールは私の頬にキスをした。私もユベールの(あご)にキスを返す。

 不作法な行動だけど懐妊という慶事の告白の後だから、招待客たちも許してくれるだろう。


 私たち夫婦は満面の笑みをうかべて、受け取った祝福の言葉にお礼の言葉を返した。


「……っ」

 そんな中でパスカル卿は顔を強張らせて、呆然と立っていた。


 ユベールはこの機会をのがさずパスカル卿に反撃を始めた。


「パスカル、もちろん君も私たちを祝福してくれるだろう?」

「ユ、ユベール……!」


 ひどく動揺しているのだろう。パスカル卿の声が震えていた。


「十年前…… 私たちがまだ学園の生徒だったときから、君の好意に応えられなくて私はずっと心苦しく思っていたんだ」


 ユベールはパスカル卿が流した、男色家疑惑の醜聞がおきた原因まで過去を(さかのぼ)って話しはじめる。

 

「ユベール! 何が言いたいんだ?」 


「昔から私は君を友人としか思えなかったし、何より私は()()()()()()()()から。本当に君には悪いと思っていたよ」


 キッパリとユベールは、自分は男色家ではないと否定した。


 数分前までパスカル卿は、血の気が失せた青い顔をしていたのに。

 自分の嘘が暴かれて、今は羞恥で真っ赤になっている。


「なっ! ユベール!」


「でも君はようやくシャルロット嬢という本物の“運命の愛”……? を見つけてくれた。私はこれ以上、君の好意を断り続ける必要もなくなった」


 誰かがハッ! ……と息をのんだ。年配の貴婦人の中の誰かだ。



 ──この十年。

 ユベールはパスカル卿からの一方的な好意を押し付けられ、ずっと苦しい思いをしてきた。それが終わるのだ。


「待ってくれ、ユベール! お願いだから……」

「パスカル卿、どうしたの?」


 パスカル卿が動揺する理由がわからないのか、隣でシャルロットが戸惑っている。

 シャルロットはいまだにパスカル卿が男色家だと知らないのだ。


「私にもこうして愛する妻デルフィーヌと、妻の身体に宿る子供がいる。パスカル、君もシャルロット嬢と一緒に私たちのような幸せをつかめるよう。心から祈っているよ」


 以前のパスカル卿なら、“ユベールは恋人だ”と断言していただろう。

 ……でも、ついさっきシャルロットに“運命の愛”だと求婚したのだから。


 パスカル卿はユベールの言葉を否定できないはずだ。


 ここでパスカル卿が否定すれば、招待客たちの前でシャルロットとの“運命の愛”がすべてウソだと。

 自分から曝露(ばくろ)することになる。


「……」

(すごいわ、ユベール! この状況をうまく利用して、自分の男色家疑惑を晴らすなんて!)



 私たちの話を一部始終聞いていた招待客たちから、ヒソヒソと話す声が聞こえる。


 パスカル卿の不作法な求婚をシャルロットが受け入れた話とともに。

 ユベールは今まで、一方的にパスカル卿から言いよられていただけで。

 本当は男色家ではなかったという話が、いっきに社交界で広がるだろう。


 今までの醜聞はすべて間違いだったと。





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