40話 波乱
ようやくユベールが私のところへ来た時には、すべてが手遅れになっていた。
満面の笑みを浮かべるパスカル卿の隣で、真っ赤なバラの花束をかかえて嬉しそうにはしゃぐシャルロット。そして娘と求婚者を祝福するお母様。
羨ましそうにシャルロットとパスカル卿を眺める、未婚の若い令嬢たち。
令嬢たちとは明らかに温度差がある、年配の貴婦人たちの冷めた目。
私に呼ばれてきたユベールは異様な雰囲気につつまれたお茶会に困惑し、ヒソヒソと声をひそめて私にたずねた。
「フィーヌ…… これはいったいどういう状況なんだい?」
「たった今、パスカル卿が求婚して。シャルロットが受け入れたの」
「求婚⁉」
「ええ。なぜかお母様も止めなかったわ」
「それはまた…… 困ったことになったな」
私の頭の中に“ロンスヴォー伯爵家の没落” ……という文字が浮んだ。
「これから、どうなるのかしら?」
(こんなに浅はかなことをする人たちが、伯爵家の当主になるなんて)
考えただけでもゾッとする。
「さっき、君の義父上にあいさつをしに行ったとき。パスカルがシャルロット嬢を狙っている話をしたばかりなのに……」
ユベールは視線を私からパスカル卿にうつして、険しい表情で見つめた。
「お父様は知らなかったの?」
「うん。私が伝えて初めてこんな状況になっていると知って、驚いていたよ」
「だったら、これはシャルロットとお母様が勝手に仕組んだことなの?」
「そういうことになるね」
私が不安そうにしていると、ユベールは椅子に座る私の肩に手をおく。
ユベールがお茶会にあらわれたことに気付いたシャルロットが、かん高い声で呼びかけてきた。
それに続き、パスカル卿もニヤニヤ笑いをうかべて話に加わった。
「まぁ! ユベールお義兄様! 私たちの祝福をしに来てくれたのですか?」
「嬉しいよ、ユベール。僕たちもこれで親戚になれるね」
シャルロットとパスカル卿に、意外にもユベールは険しい表情を引っ込めて。
にこやかに笑いながら答えた。
「シャルロット嬢、パスカル卿に求婚されたそうだね?」
「はい、お義兄様」
「それはおめでとう、二人とも」
「ありがとうございます、お義兄様!」
「君に祝福されて嬉しいよユベール」
シャルロットが私を見て誇らしげに笑う。
「でも、ごめんなさいお姉様。私だけ…… お姉様よりもずっと幸せになってしまって」
今の私は不幸だと。シャルロットは言いたいらしい。
「シャルロット、私は幸せよ」
(また、私たちを侮辱する気ね)
「無理しないで、お姉様。だって……」
シャルロットはチラリとユベールの顔を見た。“ユベールお義兄様のせいでお姉様は不幸でしょう?” ……と嘲笑う。
カッ! と怒りが爆発しそうになった。
私はシャルロットに見下ろされたくなくて、ユベールの手につかまり椅子から立った。
「シャルロット、私もあなたに祝福してほしいことがあるの」
まだまだ平らな自分のお腹に触れて、隣に立つユベールを見あげてニッコリと笑った。
ユベールは小さくうなずく。
「あなたはもうすぐ姪か甥に会えるはずよ」
シャルロットはハッ! と息をのみ、私のお腹を見た。




