38話 ロンスヴォー伯爵家お茶会2
恋に酔ったシャルロットはパスカル卿を褒め称え。
そんな素晴らしい男性に愛されていると自慢した。
だけどシャルロットの話を聞く、お茶会に招待された貴婦人たちはずっと困惑している様子。
パスカル卿の術中に嵌った世間知らずのシャルロットは、自分が貴婦人たちにどういう目で見られているか。まだ気づいていないようだ。
「コンブルー公爵家のみなさまは、芸術を楽しむことに積極的だそうです」
「まぁ、そうですの?」
「はい。パスカル卿にそのことを教えてもらい、これからはロンスヴォー伯爵家も公爵家のみなさまのように積極的に芸術を愛すべきだと思っています」
「そ…… それは素敵ですね」
放蕩者の男色家を相手に。自分は運命の愛に目覚めたのだと自慢するシャルロット。
……そして、はしゃぐシャルロットを放置するお母様。
話を聞きながら戸惑う貴婦人たちは、交互に母と娘を見ている。
「……」
(こうなったのも、私がそそのかしたことが原因だから。やっぱり責任を感じてしまうわ)
シャルロットもお母様も、一度言い出したら人の話を聞かない。私の話は特にだ。
“結婚はやめたほうが良い” ……と。どうすれば説得できるか考えていると。
ニコニコとほほ笑みながら、シャルロットがポケットから小さく折りたたんだ紙をとりだした。
「実は今日のお茶会のために、パスカル卿が詩を書いてくださりました。うふふっ……」
シャルロットは自分の席から離れ、招待客たちが自分を見やすい位置へと移動する。
折りたたんだ紙を広げてコホンッ!と咳ばらいをしてから、パスカル卿の詩の朗読を始めた。
愛しい君は瞳が青い。
空よりは青くないが、湖よりは青い。
愛しい君の髪は金色。
蜂蜜のような金色ではなく、ドアノブのようなくすんだ金色。
君の声はカナリヤよりも子豚の鳴き声に似ている。
おお、青い瞳の子豚ちゃん。
おお、誰よりも美しいドアノブのような金髪の子豚ちゃん。
おお、僕の愛する子豚ちゃん。
おお、僕の運命の子豚ちゃん。
「……ん?」
(この詩はさりげなくシャルロットを貶しているのでは? 笑いを誘うのが狙いなら100点だけど)
私が首を傾げていると。
詩を聞いた他の招待客たちも、どう反応して良いのかわからずキョトンとしている。
詩を読み終えたシャルロットだけは感動した様子だ。
「ああ…… なんてステキな詩なの? ああ、パスカル卿!」
シャルロットは詩が書いてある紙を宝物のように胸に抱き、うっとりと瞳を閉じた。
「愛があふれる感動的な詩だわ! このような素晴らしい詩を書いて下さった、詩人のパスカル卿に称賛をおくりましょう!」
すかさずお母様がシャルロットが朗読したパスカル卿の詩に、パチパチと拍手する。
周囲にいた人たちもお母様にならい、拍手をおくった。
プッ! ……と誰かが吹き出した。
私の隣に座るユベールのジャムをほめてくれた令嬢が、扇を開いて顔をかくしている。
ぷるぷると扇を持つ手が震えているのを見ると。どうやら笑いをこらえているらしい。
経験をつんだ年配の貴婦人たちは平気そうにしているが。
よく見ると若い令嬢たちは、みんな笑いをこらえているようだ。
……ふと、オリヴェ男爵家の音楽会でユベールとした話を思い出した。
『芸術家?』
『あくまで自称さ。誰にも評価されない自分のヘタな詩集を自費出版して、身内に配るような自堕落なナルシストさ』
「なるほど。ユベールのいうとおりだわ」
“恋は盲目” ……と言うけれど。
こんなにひどい詩を、素敵だと喜ぶシャルロットはどうかしている。どうやら本気でパスカル卿に恋をしているらしい。
何となく気マズイ空気の中で。居心地が悪そうにヒソヒソと話している招待客たちの背後から……
「僕の詩を楽しんでいただけたでしょうか?」
突然、男性の問いかけが聞こえ振りむくと。そこにはパスカル卿が立っていた。




