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妹にだまされ、私を無視する婚約者をすてることにした  作者: みみぢあん


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37話 ロンスヴォー伯爵家お茶会


 実家のロンスヴォー伯爵家から、お茶会の招待状が届いた。

 もちろん私は出席するつもりだけど、ユベールは私の体調を気にして猛烈に反対した。



「大丈夫よ。お願いだから行かせて? ね、ユベール?」

「んんん~……」

「私の実家よ? パスカル卿とシャルロットのことも気になるの」

「きっと嫌味を言われて、君が不愉快な思いをするに決まっているよ」


 私の体調よりもお母様とシャルロットに、冷たくあつかわれて傷つくのではないかと。

 ユベールはそちらのほうが心配なのだ。


「平気よユベール。あなたと結婚してから、私は以前よりもずっと強くなったの」

「フィーヌ……」

「今回だけは私も気持ちを曲げられないわ」


「わかったよ。そのかわり私もロンスヴォー伯爵家に行くからね」

「えっ⁉ でも女性だけのお茶会よ?」

「私はお茶会には出ないよ」


 結局ユベールが折れて、お茶会に参加するお許しは出たけど。

 ユベールは自分も行くと言い張り、何かあったときのためにロンスヴォー伯爵家で待つことになった。


 やれやれ。



◆  ◆  ◆  ◆



 ──ロンスヴォー伯爵家のお茶会当日。


 青空が広がる良く晴れた日。

 午後からロンスヴォー伯爵家の庭園でお茶会はひらかれた。


「あら、デルフィーヌ。ようやく顔をみせたわね」

「本当にひさしぶりね、お姉様。お顔を忘れそうだったわ」


 妊娠してから私は社交を休んでいたけど、まだ2週間ぐらいしかたっていないのに。


「他家に嫁いでも、あなたはロンスヴォー伯爵家の娘なのよ? もう少し早く来てお茶会の準備を手伝うべきなのに」

「お姉様は本当に気が利かないわね。ずっと忙しくしていたお母様がかわいそうだわ」


(そういうシャルロットは、お茶会の準備はお母様まかせで。何一つ手伝わなかったのでしょうね)


 今まではそうだった。


 ユベールの予想どおり、お茶会が開かれる時間に合わせて来たのに。私はお母様とシャルロットに嫌味を言われた。


 ……けれど、私をエスコートしてきたユベールが盾になってくれた。


「申し訳ありません。義母上、シャルロット嬢。あまり妻の体調が思わしくなくて……」

「ごめんなさい」


「私は欠席した方が良いと説得したのですが。義母上にお会いしたいと、妻が強く望んだので」


「まぁ、そうなの? しかたないわね」


 お茶会の招待客たちの目もあり。

 お母様もさすがにそれ以上は追及しなかったけど、すごく不満そうな顔をしている。


 私はユベールに導かれ椅子の一つに腰をおろすと。 


「デルフィーヌ、私は義父上に挨拶をして来るよ」

「ええ」

「何かあったら、必ず私を呼んでくれ」

「ふふふっ…… はい」


 私の額にキスをおとし、ユベールはその場をさっていく。



「夜会で何度かお見かけしましたが、本当にお二人は仲がよろしいのですね」


 私たち夫婦のやり取りを見ていた、隣の席についた令嬢がうらやましそうに声をかけてきた。

 顔に見覚えがあるから、シャルロットの友人の一人だと思う。


 虐待の醜聞が広まって以来、私に話しかける令嬢はいなかったけれど。

 よほど私とユベールの夫婦仲が気になるようだ。


「ええ。でも、私が少し体調を崩しただけで社交を禁止するほど。夫はとても過保護なので困っていますの」


「まぁ! そんなに愛されるなんてうらやましいわ。私の婚約者なんて、本当に素っ気なくて」

「あら。その殿方は、貴女の前では恥ずかしがっているだけでは?」

「そうなのでしょうか?」

「ふふふっ…… 勇気を出して本人に聞いてみてはどうでしょう」

「それも、そうですね」


 令嬢は恥ずかしそうに頬を赤らめてほほ笑む。


 使用人の手で私の前に置かれた白磁(はくじ)のカップに。

 ティーポットから注がれた美しいバラ色のお茶を一口ふくむと、甘酸っぱくてフルーティーな味わいが口の中でひろがる。


 伯爵家の力を使って異国から取り寄せた珍しいお茶で。妊娠中の私にはぴったりのお茶だった。


 そしてお茶と一緒に出された、スコーンにそえたグリーンのジャムは。

 ユベールが栽培を成功させ、モンパトワル子爵家の果樹園で育てた異国の果物から作ったジャムだ。


「まぁ…… お茶も美味しいけれど。このジャムはあっさりとしていて美味しいわ。何のジャムかしら? グリーンがとても綺麗だわ」


 隣の令嬢も私と同じく嬉しそうに、スコーンにグリーンのジャムをのせて食べている。


「ええ、本当に綺麗で美味しいジャムだわ」

(ユベールにも令嬢の感想をおしえてあげないと……)


 夫の仕事が思わぬところで評価された。私は令嬢の好意的な感想を聞けただけでも、お茶会に出席して良かったと思えた。


 私から少し離れた席でシャルロットは目の前にならべられた、お茶とスコーンを無視して招待した貴婦人たちとおしゃべりに夢中になっている。


 お母様もテーブルにカップを置いたまま。指先でカップのふちをなでるばかりで、お茶を味わっているようには見えない。


「……」

(主催者がわなのに。自分たちが出したお茶に、少しも手をつけないなんて……) 

 

 そんなシャルロットの会話に聞き耳をたててみると。


「パスカル卿こそ私の運命の相手ですわ! 本当にステキな男性で優しくて、何もかも洗練されていますの。それに素晴らしい芸術家なのです」


 シャルロットの高くて良くとおる声は、離れていても私の耳にハッキリと届いた。


「私のためにパスカル卿は情熱的な詩をいくつもつくり、その詩集を出版する計画を立てていて……」



「ああ……」

(シャルロットは完全にパスカル卿の術中に(はま)っているようね。ユベールが説得に失敗して疲れ果てた顔をしていたわけだわ)


 パスカル卿が男色家だと、本当にシャルロットは知らないの? 知っていて、あんなふうに自慢げに話しているの?


 このまま結婚すれば、間違いなく不幸になるのに。私には理解できない。


 私の視線に気づいたシャルロットは、ふいに振りむき目が合うと勝ち誇ったように笑った。

 その顔は元婚約者のセルジュを私から奪った時と同じ顔だ。


 

 思わずポツリとつぶやいた。


「愚かな()……」

(私がしかけた罠だと疑いもしないなんて)


 罠とは知らず。

 私が思いを寄せている相手を奪ったと、シャルロットは優越感にひたっている。



(本当に愚かな()




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